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小話 十九話 ファース辺境伯の不安

地震が起きたら念のために逃げるか、逃げられるように準備すると良いでしょう。

私のように地震が来てもスプラトゥーンで遊んでいてはいけません。

 最難関を超えた、ということもあり私は安堵の息を漏らす。

 別にアルキー公爵などいつもなら眼中にない。ファース辺境伯領は国家群と隣接していることもあり、国をまたいで商売する大商人の往来が多い。また西の山脈に最も近い街は首領悪鬼(ドン・オーガ)対策として多くの兵を配置しており物資の消費も激しい。それに目を付けてくる商人も少なくない。アンダルでも最近何か変化があると報告も入っており、ファース辺境伯領は常に変化と活気に満ちている。

 

 それに対してアルキー公爵領は特産品はなく、賑わっていると言えるのもファース領と帝都を最短で結んでいる街だけ。新たな開発、変化もなく経済面でも、軍事面でもファース辺境伯領の方が大きく上回る。爵位など飾りに過ぎない。

 貴族会議の度に面倒なことをされ、嫌味を言われるが所詮は負け犬の遠吠え。気にするまでもなく、むしろ何の疑いもなく自称公都に入れ状況を窺えるのだからありがたいことだ。

 ただ今回だけは付き人に魔王がおり、護衛だろうが付き人だろうが罵詈雑言を撒き散らすので、連れて行くわけにはいかなかった。苦渋の決断として街で待ってくれと言う不躾な願いをしたが、特に機嫌を損ねることなく了承し、戻ってきてくれた。


 ライルと言う魔王が連れてきた冒険者が居たのがありがたい。最初は魔王の情報を流してくれず、非協力的な冒険者だと思っていたが魔王の機嫌を取り、こちらの顔色を窺う程度は協力してくれるらしい。いや、魔王の情報を流す以外ならかなり協力していくれている。もしかしたらこちらに情報を流せない事情でもあるのかもしれない。




 一か月に及ぶ行程も無事に終わり、ついに帝都が見えた。


「うへぇ。すごいッスね。王都に行ったことはありますが、あそこより城壁が高いッス」


「ほう、やはりあの城壁は高い部類に入るのか。登りたい、とは思いもしない高さだな」


 魔王たちが驚いているのは帝都を守る漆黒の壁。巨人でも想定しているのか思わんばかりの高さと厚さ、見上げていれば首が痛くなるだろう。

 しかしこの城壁が使われたことは一度もない。


「しかし不思議なのは帝都がこんな野にあるのだな。帝国は戦乱を勝ち残った国だろう? てっきり背に山を構えた堅牢な城などを想像していた」


「はっは、さすがノブナガ殿。実は現在の帝都は戦争後に帝国の中心になるよう遷都されたのです。旧帝都はさらに北、ここよりも寒くあまり肥沃とも言い難い場所で、ノブナガ殿が仰ったとおり背に山を置いた堅牢な城を中心とした街です」


 その肥沃ではない、と理由が戦乱を起こす原因になったのだが、そこまでは話さなくて良い。


「ですので、新帝都の建設には数多の職人が集い、いま見ている城壁はその頃の技術の粋を結集して作られたものです。おそらくこれを超える城壁は大陸に存在しないでしょう。そして城壁ともう一つ、一緒に作られ大陸一の大きさを誇る物があります」


 それを初めて見た時は城壁と共に圧巻の一言だった。おそらくそれは魔王だろうと変わらないだろう。

 それは城壁と負けず劣らず見る物に重圧を与える。


「城門です」


 職人たちが絶対に破れないと豪語して作ったとされる城門。その存在はもはや悪ふざけの領域であり、開閉に半日かかると言われ滅多に閉ざされることのない城門。


「あの城門の前では誰もが小人だな」


「あれを破るなら、山をくり抜いた方がマシって思うッス」


 どうやら驚いてくれたようで安心した。何せ帝都の名物と言えばこの城壁と城門だ。城なども素晴らしいのだが、シンプルかつ大きいという衝撃には見劣りしてしまう。


「それでは帝都に着きましたら私の屋敷に向かいます。そこに私の倅がおりますので、その時にこれからの説明をします」


 屋敷に着いたら貴族会議は明日には始まる。事前に遅れることは知らせてあるが、間に合うなら間に合わせたい。

 ああ、そうだ。言い忘れていた。


「ようこそ、帝都へ」




 屋敷に着いてすぐに出迎えの使用人たちに何があっても魔王の被っている布を取らぬように厳命し、他の使用人たちに伝えるように指示を出す。そしてその時にそれとなく高貴な身分であり、こちらよりも上であることを匂わせる。

 さすがに魔王と素性を明かすわけにはいかない。

 いつもならこの程度の事はクラースがやってくれるのだが、良くも悪くも居ないので自分でやるしかない。

 

 その後、安全のために自分で客室を案内する。すると何故か魔王が楽しそうで良い感触、なのでそのまま屋敷の中を案内していると。


「父上!」


 息子のセルガンが到着の方を聞いたのかやって来た。

 ……これで押し付けられる。


「おや、父上。陰険、いえクラースは? それとそちらの方は?」


「お前の苦手なクラースは皇帝陛下からお預かりした使えないものを、ある程度まで使えるようにするためにここには居ない。こちらの方は後で説明する。ああ、ノブナガ殿。こちらは倅のセルガンです」


 セルガンは布を被った怪しい人物とどこにでもいそうな冒険者が私と結びつかないのか、首を傾げる。私が睨むとすぐに態度を改めたが。


「初めまして。セルガンと申します」


「初めまして。ノブナガです。こちらはライル、私の護衛のようなものです。精悍な息子さんだな」


「どうも私よりも父の方に似たようでして。それでは一度今後の説明を致したいので応接間まで戻りましょう」


 勿論戻る途中でセルガンに布の指摘をしたり、顔を覗くような真似はしないように言っておく。

 本当に父に似て、思慮が足りないのだ。




「それでは私はノブナガ殿来訪を皇帝陛下、または近衛団長のバン殿にお伝えしてくる。丁度貴族会議の前だ、会うのは難しくはないだろう。その間ノブナガ殿には悪いのだが待っていてもらってもよろしいだろうか? そこまで時間はかからないと思うのだが」


 さすがにノブナガの名を広めるわけにはいかないので、知っている者のみにこっそりと教えるしかない。二人しか頼れないのは厳しいが、両名ともに聞けばどこにいるかは分かるはず。


「父上、この方々は誰なのですか?」


「ノブナガ殿は皇帝陛下のご友人だ。それ以上はまだ教えられない。いずれ教える時が来るから待て。ああ、絶対に布を取らぬように」


 怖いのは私がこの屋敷を離れた後だ。何かの拍子に顔を使用人たちに見られれば一瞬で話が広まり帝都が混乱するのは容易に想像できる。とりあえず使用人たちは出来る限り距離を取っているので大丈夫だろうが、問題はセルガンだ。

 思慮が足りずたまにその場の勢いを優先するところがある。その所為でクラースにこっぴどくやられることがある。なのに直らない。

 それでも、今は任せるしかない。向こうを呼ぶわけにはいかないし、手紙で済ませるのはあまりに危険。

 不安を押し殺して帝城に向かうとしよう。


次回

ライル「疲れたんで休んでます」


ノブナガ「暇だ、帝都見て回りたい」


セルガン「OK。案内するぜ」

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