第百二十八話 暴走
『ダンジョンを造ろう』三巻が今月発売されます。
よろしくお願いします。
朝起きると玉座の間に満身創痍のシバが倒れていた。
意味が分からない。何故シバがここで倒れているのか? 昨日キュウに褒美を与えた時は特にこれといった変化はなかったはず、つまりは非常事態?
まだ軍犬の遠吠えによる緊急時の連絡手段は確立されていない。待機場所や何名配備するかで調整が必要だったのだ。
だからシバがここまで走って来たのか。満身創痍なのもここまで必死に走って来たためだろうか。
「う、うう……。ノブナガ様。大変です。暴走です、一階層で……」
「シバ……? シバー!」
俺に気付いたシバは何かを言い残すとそのまま目を閉じた。
まあ、寝ているだけなのだが。
日が昇ったばかりなのだ。この時間にシバがここに居ると言うことは、夜通し二階層を走って来たのだろう。体力も尽きて眠気もある。俺に伝える使命感だけで起きていたのだろう。
しかし、一階層で暴走? 何が? 新たな配下に加わった種族や新入りがか? それなら暴動なり、反逆なりと言いそうだ。それにアリスやオルギアなどがいるからわざわざ俺に無理に報告に来なくても大丈夫な気がするが。
とりあえず、頑張ったシバを玉座の間で放置するのはかわいそうなので、私室のソファをベッド代わりにする。闇の精霊がリズムよくボタンを押すゲームをやっていたが、シバの安眠の為に無音でやってもらうことにした。
一階層に行くにも準備が必要だ。一階層で何かが起こっているのは確実なのだ。魔力補給のためにワリの実を持っていく。
最大限の警戒をしながら、一階層へと足を踏み入れる。
ダンジョンに激震が走った。
ノブナガ様の下から帰って来たキュウが褒美をもらったと言うのだ。それも今までの物とは明らかに異なる褒美。
名でも、日用品や武器でもない。ノブナガ様と同じ宝物を貰ったと言うのだ。
ノブナガ様の宝物の一片。これの意味が分からないのは脳筋の蜥蜴人か、能天気な鳥人くらいだ。あのヴィら粘液生物ですら、良いねえ、と言ったのだ。
今はキュウの下に多くの魔族たちが押し寄せている頃だろう。私は運良くスズリと共に二階層の入り口近くにいたので、一階層に戻る前のキュウに褒美を見せてもらえた。
見た目はただの木片だったが、ノブナガ様が宝物とする程の品なのだ。凄い品なのだろう。羨ましい限りだ。
「スズリ、貴女から見てあれはどう見えましたか?」
悔しいが私ではあれは凄いものとして理解できない。スズリであればあれがどれ程のものか分かるかもしれない。こういう知識も貯めておかねばノブナガ様の隣には立てない。
「凄いですね。樹霊の中心部、その木片とのことで。確かに魔王の素材は非常に高価です。しかしそれを自らの宝物とするとは。価値に価値を重ねるのは良くある思考ですが、このように使うのですか。それに木ですから切り取ることもある程度は出来ます。……本当に凄いですね」
……はて? 宝物ではないものを評価しているように聞こえる。しかしキュウが貰った褒美は木片、ランジュタイだけのはず。となれば評価しているのは木片のはずだが。
まあ良い、スズリの目からみても凄いものなのだと分かった。それに有益なことも聞こえた。
「切り取りが出来る。つまり私にも貰える機会が来るかもしれない、ということですね」
「はい。それが狙いでしょう」
さすがはノブナガ様。褒美を与えるだけではなく、他の配下達にも希望を配るとは。今まで以上に努力できる気がしますね。
そのためにも一階層に戻り、皆を奮起させてノブナガ様の為に動かさねば。
一階層に戻った所、誰かを探している様子のイチとマツが居た。
……そうか、キュウを探しているのだろう。キュウのノブナガ様からもらった褒美を見せてもらうために。
だから親切で。
「何をしているのです? キュウならここには――」
いません、と続けようとした直後、イチとマツが同時に私に襲いかかって来た。
明らかに正気を失った目で、腹部を執拗に狙うように。
事態は良く分からないが上等だ! 私の親切にその反応! 死ねない程度に殺してやる!
いきなり目の前で戦闘が始まった。このダンジョンに住むことになって意味が分からないことは僅かにあれど、これほど状況が理解できないことはなかった。
ランに付き合わされて二階層で石材の運搬路だの、効率の良い二階層の使い方などを聞かれてあちこちを見て回り、一階層に戻った途端イチとマツがランに襲いかかった。
ランとイチの中が良好ではないのは知っていた。マツとの関係性は良くないだろうとは容易に想像できた。しかしすぐに襲い掛かるほど仲が悪いとは思わなかった。
しかし執拗に腹部を狙っている気がする。顔とか首とか遠慮なく狙う気がするのに腹部に集中するとは。やはり顔に傷を、程度の理性はあるのだろうか。あの鬼気迫る顔にそんなものがあるとは思えないのだけど。
そんなイチとマツをランは一切の容赦なく反撃する。攻撃されているのだから当然ではあるが、こちらもやはり目に躊躇いがない。
低い体勢で突っ込んでくるマツの首裏に拳を叩き込み、イチには人と蜘蛛の境目辺りを必要に攻撃している。もしかしたらあそこは蜘蛛人の急所なのかもしれない。
それにしても。
「キシャアアァァ!」「グルルルルゥ!」
「死にたいんでしょう? 来なさい!」
ランが強い。正気を失ったように襲いかかるイチとマツを同時に相手にしているのに優勢だ。仲間同士の戦闘では強くなるのだろうか。
しかし何故イチとマツは正気を失ったようにランの腹部を執拗に攻めるのだろうか。腹部狙いとランに気付かれてすでに対処されているのに。
誰か知る者はいないのかと周りを見れば。
「ゾクチョウ!」
更なる燃料、蛇人がやって来た。
蛇人から見ればマツがランにぼこぼこにされているわけで、見逃せるわけもなく戦闘に参加する。
更に。
「イチ? な、蛇人共!」
燃料は湧き水の如く湧いてくる。女郎蜘蛛がやってきた。
女郎蜘蛛から見れば族長のランとまとめ役のイチを、蛇人たちが襲っているようにしか見えないだろう。
「待って――」
一応制止を試みるが誰も私の言葉など聞いてくれるわけもなく、戦闘に参加。蛇人と女郎蜘蛛の乱戦となる。
もはや私にあれを止める手立てはない。だから。
「誰かー!」
助けを呼んだ。
しばらくしてヒデやシバなど他の族長もやってきてくれた。なお乱戦は女郎蜘蛛が優勢であり、撃破率一位はランだ。
「あの、どうしてこんなことになったのでしょう?」
「俺たちが聞きたいところだ。イチが狩りから帰って来たシバに褒美について聞いたのは見たが」
「あれか。近くにマツも居たな。『褒美はランジュタイだった』と答えたんだがな」
その答えを聞いて、イチとマツの様子がおかしくなり誰かを探すように辺りを彷徨い始めたと。
何が原因だろうか? ランジュタイに問題が? いや、貰ったのはキュウでありランは一切関係がない……ん?
「すみません、その話をするときに所有者がキュウであることを伝えましたか?」
「ん? さて、どうだったか? 覚えてはいないが、キュウがどうした?」
「いえ。ただ褒美の内容をラン、ジュタイと勘違いしているのでは、と」
私の答えに互いに顔を見合う族長たち。普通であれば笑い飛ばしてくれるだろうが、関わっているのがランやイチなどと思えば何も言えなくなる。
ああ、だからイチやマツがランの腹部を執拗に狙っていたと。いや、恐ろしい。
「まあ、原因が分かった所でもうあの乱戦を止めることは出来ないんですけどね。誰かが止めてくれないと」
すでにあれは勘違いからの戦闘から種族の争いに変わってしまっている。あれを止めるには乱戦に参加している全員を倒す必要がある。
そしてここに頼れる族長たちが。
「いや、ほら俺ら小悪鬼や中悪鬼はそこまで戦闘に強いわけじゃないから。これは褒美が原因とも言えるんだから褒美を得たキュウの種族であるシバにお願いすべきなんじゃないかな?」
「おま、バッカ! いやいや、勘違いの責任を押し付けられても困る。それにあの数を制圧するには相応の力が必要。それならカイら猪豚人に頼むのが筋だ」
「え? ちょっとそれはおかしいと思う。力といってもそれは腕力だけじゃない。戦闘能力で見ればリンら蜥蜴人こそ適切じゃないかな?」
「うん? うむ。普通に戦えば勝てるぞ。しかしな、なんというかあの者たちからは時折エナから感じる凄まじい闘気を感じる。手を出しても勝てるか怪しい。ここは同じ性別であるホウが話をしてくれば」
「え? 無理。食われそう」
頼れる族長などどこにもいなかったようだ。
うーん、もう夜だというのにこのまま争いを放置しておいて良いのだろうか。何か取り返しの付かないことになっても問題だし。
「ノブナガ様に知らせた方が……」
「分かった、任せろ。行ってくる!」
「あ、シバの野郎! 逃げやがった」
颯爽と二階層へと移動していったシバ。本当に頼れる族長がいない。
「騒がしいですね。どうしました、皆さん」
あまりの騒ぎにオルギアがやって来てくれた。頼れる方が来てくれた。
「あの、すみませんがあの暴走を止められますか? 少々の行き違いからこんな大事に」
「良く分かりませんが、全員気絶させれば良いということですね? 出来ますよ」
それでは耳を塞いでください、と言うので皆で耳を塞いだ直後。
「ガアアアァァァ!」
身体が震えるほどの咆哮。その直後にオルギアが乱戦に割って入り、女郎蜘蛛と蛇人を容赦なく叩きのめしていく。
「えー、では他の皆さんは何か縛るものを持って来てください。目を覚ましてまた暴れられても面倒ですので」
それぞれツタや蜘蛛人の糸、木人を使って気絶した者たちを縛って行く。……木人を使うのか。
そしてそのままオルギアの手で暴走は終わりを迎えた。
「ということがありまして」
「……それで目の前の現状と言うことか。理解した」
一階層に来た俺を出迎えたのは縛られ気絶している女郎蜘蛛や蛇人たち。この状況が理解できず、説明できるものを連れて来させた結果、スズリが来て昨日のことを教えてくれた。
しかし、困った。これは俺の命名が悪いことなのだろうか。
「どうしたものだろうか? 意見が欲しい」
今回は助言役としてスズリの他にオルギアも来てもらっている。人族と魔族、両方からの意見を貰えば死角はない。
「やはり、このような騒動に以上この者たちには相応の罰が必要と思います」
「はい、自分もそう思います。しかしラン殿は勘違いに巻き込まれただけ。他の者たちと同じ罰では少々重いかと」
「まあ、その辺りが妥当、と思わせて実は面倒なのだ。この争いは確かに俺の命名による誤解から始まったものなのだろうが、元々ランたちの仲が悪くなければここまではならなかったはずだ。ここでランだけ罰を軽くすれば他の者たちにはランを優遇したと思われかねない」
「それがまた不仲の原因に、ですか。いくらノブナガ様が罰の経緯を説明しても心から説得するのは難しいですね」
「ラン殿たちの仲が良ければいいのですが」
「種族間の問題であれば手を出すが、個人間の問題まで手を出すのはな……」
個人の問題に一度でも手を出せば、ずっと手を出さねばならなくなる。あの時は手を出したのに今は、などと不満を持たれたくない。
しかしお咎めなしというわけにもいかない。これほどの騒ぎを起こし、皆に迷惑をかけ、俺の耳に入ってしまったのだ。ちゃんと全員にこんなことをすれば怒られると理解させないと。
「それに罰というのも問題だ」
何せ牢屋などなく、強制労働なども出来ない。というか今が強制労働のような状況だ。残るは棒叩きや鞭打ちなどになるが。
「何故でしょう? 普通に棒叩きなどで痛め……ああ。そうですね、ここでは痛みを与える罰は」
「効果が薄いな。痛みを与える者はしばらくその痛みに苦しむことも含めて罰なのだ。寝ればすぐに傷が治るダンジョンですから」
ではダンジョン外に放り出す? まさか、今は忙しい時期なのだ。罰の為に周りに迷惑などかけられない。
「とりあえず、ラン殿の件ですが。ここ最近でラン殿に問題行動などはありませんでしたか? それを理由に罰を与え、他の者たちと同等の罰にするのは」
「悪くはない案ですが、最近は私と共に行動することが多く。問題行動は起こしていません。私が証人になってしまいます」
ああ、面倒だ。これなら知らなければよかった。それなら他の者が俺に知らせることなく処理してくれたのかもしれないのに。
「ん、んん? ……これは? どうし、ノブナガ様!」
声がしたのでその方を向けばどうやらランが起きたようだ。自分の置かれた状況を理解出来ずとも俺の存在に気付いて頭を下げる。
「おはよう、ラン。済まないがもう少しそのまま待っていてくれ。その状況についての説明はスズリから受けてくれ」
スズリを生贄に捧げて何とか時間を稼ぐが、困ったことにランが目を覚ましたのでランの罪についての話が出来なくなった。
話せるのは罰についてだけだ。
「ノブナガ様は何か罰を与えたことはないのでしょうか? ああ、ここに住む者たちは皆ノブナガ様を慕っていますね。今回のような暴走は初めてですか。……人族などには何かしていませんか?」
人族に対してか。……アリス、セルミナ、なまごはん?
「あるな。ヴィら粘液生物を使った罰が。効果は、どうなのだろう? 少なくともアリスが恐れる程度の効果はあったな」
「アリス殿が恐れる? 十分な効果かと。しかし粘液生物ですか。最近足元にまとわりつくことが多いですね」
え? まとわりつくの? それは簡易版のなまごはんではないか。それが頻発していたらなまごはんは罰ではなくなってしまうな。
しかし何でまとわりつくんだ? 今までにそんな話は聞いていないぞ。大浴場で汚れを落として……。
「しまった、二階層を作った所為で簡単に玉座の間に来れないんだった。今まで忘れていた。となると一階層か二階層に風呂を作る必要が出てくるのか? オルギア、今まで身体の汚れはどうやって落としていた?」
「それは水辺がありますから、そこに入ってですね」
そこら辺の水辺で、か。何もしないよりかは良いだろうが、大浴場に入っていた時と比べると汚れは落ちないだろうな。
それの積み重ねの結果が粘液生物が足元にまとわりつく、なのだろう。
早急に手を打たないと粘液生物が誰彼構わずまとわりつくようになってしまう。それに不衛生だ。
風呂作りか。この時期に作るのは大変かもしれないな。救いは前からダンジョンに住む魔族たちは大浴場のおかげで風呂の概念が分かるから、お湯のたまり場さえ作れば利用してくれるだろう。
水は、ある。最悪セルミナに水を出させればいい。火は、イフリーナにやらせればいいか。場所は、樹霊や森人の素材があるのか。それに二階層の大きな岩を抉ってそこに水を溜め、焼き石を放り込んでお湯にする方法もある。
……あれ? 簡単に出来るな。
「出かけている間に作らせておくか。ヒデ辺りなら説明すれば出来るだろう」
今回の一件とは全く関係ないことが決まった。肝心なことが全く決まっていない。
いや、罰はなまごはんで良いのか? オルギアの話では足元にまとわりつく程度なのだ。全身にまとわりつくとは別だろう。
残る問題は。
「アッハッハ! つまり勘違いされたと! アッハッハ、いや良い! 事実になるのだから妬まれてもまるで構わない! イチ、マツ起きなさい。ノブナガ様の宝物はランジュタイですよ。アッハッハ!」
スズリから説明を受けてランは楽しげに笑っている。もう愉快で愉快で仕方がないといった様子。
「……まさか宝物の命名でこんなことになるとは。名前を変えようか」
「いえ、それはなりません。何か特別な理由があって変えるのであれば問題ないと思いますが、理由が勘違いを生むではいずれ他の宝物に名を付ける時に大変なことになります。もしかしたら言いがかりで変えなければならない事態になりえることもあるのです」
むむむ、俺が想像している以上に重要なことだったのか。物の名を付けるだけなのであまり考えずに付けてしまった。今後は注意しよう。
「それよりもラン殿が調子に乗ってくれて助かりました。あれを挑発行為とみなして注意し、他の者たちと同じ罰を受けさせることが出来ます」
手を出すのは当然駄目だけど、それを仕向けるように挑発するのも駄目ってことだな。
調子に乗ったランがイチとマツを叩き起こして挑発している間に、スズリを呼び戻して罪と罰の方向性を確認する。
「それなら問題ないと思います。ランさんも現在進行形で挑発行為をしているようですし。そうですね、他の魔族の皆さんも集まってもらって裁いたほうが良いかもしれません。全体にこの行為は悪であり、罰する対象であると理解してもらうために」
そうだな、皆に知らせる必要があるな。何せダンジョンに法などない。しかしやってはならないことはあるし、相応の罰もある。理解しているだろうが確認の意味を込めて集めておこう。
それに罰の執行者であるヴィら粘液生物も呼ばなければならないんだ。私室で休んでいるシバ以外は集まるだろう。
久々のなまごはんということで、楽しげにヴィら粘液生物たちが来る頃には配下の魔族たちは集まり、イチやマツに呆れた視線を向けていた。
その間に俺はオルギアにダンジョンの様子を聞いていた。昨日キュウたちが素材を回収して来てくれたおかげで、ヒデたちが動き出して溜まっていた問題が解決しつつあるとのこと。問題らしい問題は今目の前のこと以外は起きておらず、今回の一件を片づければしばらく問題は起きないはずとのこと。
まあ、そう思っていても起きるから問題なのだが。
だからといって、いつまでも先延ばしにするわけにもいかないか。これを片づけたらヴィやオルギア、トドンと話をして、近いうちに行くことを決めてしまおう。
「以上の行いがあった。このような行いは、魔王ノブナガ様のダンジョンに住まう者として相応しくない行いであるため、『なまごはん』の刑に処す」
口上があった方が良い、とのことだったのでスズリに任せた。だって分からないし。
乱戦に参加した者全員が処罰の対象となっている。
「え? あの、私もですか?」
「はい。えー、ランは勘違いから襲われたため、身の守るために戦ったことが認められています」
「ですよね! なら――」
「しかし、その後の度重なる挑発行為は到底看過出来るものではなく、同刑に処す。以上です」
ランは一瞬だけ希望を見せられた所為で笑顔のまま固まり、最後にはがっくりと肩を落とした。異議を唱える者は、いないな。
『なまごはん』の刑が執行される。
縄代わりとなっていた木人はその場を離れ、解放された女郎蜘蛛や蛇人は逃げ出す様子はない。ちゃんと反省し、罰を受ける覚悟が出来ているのだろう。感心だ。俺だったら逃げる手段を考えている。
何せ、粘液生物が集まり大地を進む姿は、巨大な波となっている。あれにこれから呑みこまれるのだ。死ぬ覚悟でもない限り絶対に逃げ出す。
まま死にはしないのだが。
「キャアアアアアァァァァ!」
全身を粘液生物に呑みこまれ、甲高い悲鳴と共に身をよじり蹂躙される。
訂正しよう。公衆の面前でこんなことをされれば精神的に、そして社会的に死ぬ。
しかし名持ちや族長は優秀だ。粘液生物に呑みこまれて僅かに顔を赤くしただけで悲鳴などは上げずに耐えた。
「イチ殺すイチ殺すイチ殺すイチ殺す」
「ラン殺すラン殺すラン殺すラン殺す」
「蜘蛛は死ね蜘蛛は死ね蜘蛛は死ね蜘蛛は死ね」
何か呪詛のような言葉を吐いていたがそれは聞こえなかった。耳が遠くなったようだ。あ、耳は付いてなかった。
罰が終わればそのまま帰宅させる。女郎蜘蛛も蛇人もフラフラだが帰れないことはないだろう。
「そうだ、ヴィ。前に話していた外に行く話なんだが」
「はーい。行くー。いつー?」
「トドンに話を聞かないと分からないが、オルギアはいつでも大丈夫だったな? ヴィは、別に手荷物などないか。何名か連れて行くはずだが、選出は済んでいるか?」
「うん! 半分! 大丈夫!」
大丈夫か。半分。……半分? 半分!?
「半分も連れて行くのか。大丈夫なのか?」
「大丈夫!」
むふんっ、と胸を張る代わりに膨らんだヴィを見てはもう何も言えない。信じるしかない。
後はトドンの都合だけか。
「いつでも行けるぞ!」
石を切り出す道具をヒデに頼むのを忘れて、作られるのがかなり後回しになるらしく暇なのだそうだ。この状況でトドンが出来ることはヒデら小悪鬼にも出来ることばかり。
だから行こうと思えばいつでも行けると。
じゃあ明日にでも行こうか。
蘭奢待を素でランジュタイと読み間違えておりました。申し訳ありません。
正しくはランジャタイです。
ただネタとして扱えるのでランジュタイのままで進めさせていただきます。
品が品なので一文字変えて誤魔化した、と思って頂けると幸いです。
これからも『ダンジョンを造ろう』をお願いいたします。




