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第百二十五話 変化

 第二階層が出来た。

 更に新たな種族や新入りが加わった。

 そのおかげか、生活がやや変わってきている。


「おう、シバ。こんな所で何してんだ?」


「リン、か。お前こそ訓練は良いのか。岩蜥蜴(ロックリザード)とか色々とあるんだろう?」

 

 確かリンは岩蜥蜴(ロックリザード)の面倒を見なければならないはず。いや、あれはエナの管轄だったか?


「そうだな。最終的にはガノが岩蜥蜴(ロックリザード)をまとめることになったが、今は皆で岩蜥蜴(ロックリザード)の面倒を見ている。色々と分かって困惑する日々だよ。知っているか? 岩蜥蜴(ロックリザード)は泳げないんだ。身体が重くてすぐに沈んでしまう。食い物も固い部分を好み、寝る時は岩蜥蜴(ロックリザード)同士集まって寝るんだ。似ているようで、まるで違う」


 リンの弱音とは珍しい、と思ったがいつもであれば訓練、訓練と動かすのは身体のみ。滅多に使わぬ頭を使うことになっているから困っているのではないか。

 それに今なら、ダンジョンに住まうほとんどの者なら弱音を吐きたい状況だろう。何も問題ないのは粘液生物(スライム)くらい。いや、あいつらも木人(トレント)と今朝揉めていたな。


「皆、同じと言うことか」


「同じ? 新入り共の事か? あいつらなら皆アリス先生とオルギアに死なない程度に訓練を受けているぞ。おかげでこっちは放置だがな。だから二階層の探索をしようと思っていたのだが、シバも行かぬか?」


「悪いが今は手伝いの最中だ。いや、手伝ってもらっているのか? 分からん。とりあえず今は動けないのだ」

 

 何故? と首を傾げられたので上を指差す。

 素直に上を見たリンは大きく口を開けて驚いた様子を見せてくれた。

 上には四名の鳥人(ハーピー)がそれぞれ網の四隅を持ち、網の中に猪豚人(ブルオーク)のゴウを入れて飛んでいるのだ。

 遠くから見てもゴウの顔色が悪いのが分かる。毛は逆立ち全身が強張っている。


「あれは、何をしているんだ?」


「何だったか。スズリが言うには最大積載量を測るとか? 鳥人(ハーピー)一名では運べない場合、人数を増やすことで運べるかの実験だったか。まあ、とにかく鳥人(ハーピー)の調査だな」


 その所為でこんなところに居るわけだが。

 いずれ鳥人(ハーピー)と警備を共にするのであれば、鳥人(ハーピー)の能力を知っておく必要がある。そう乗せられて来てみればあのような拷問に近い実験。

 これなら樹霊(コダマ)や森人(トレントリオ)の素材回収をキュウに任せるんじゃなかった。小さいとはいえ群れを率いる経験を積ませる、決して悪いことではないが時期が悪かった。もう少しあとにすれば経験を積むと称して代わりにここにこさせたのに。

 二階層の調査も最初に誰がどこに行くのかを決めて、日が沈む前に集まって報告。残念ながら最初と最後だけ俺がいれば良いので、ここを離れられる理由がない。


「どこも大変なのだな。それでは俺も二階層を見て来るか。いずれ訓練で使うだろうからな」

 

 下見か。それは確かに重要だ。しかし俺にも重要なことがあるんだ。


「まあ、待て。リン、お前の所の話をもう少し詳しく聞かせてくれないか? 他がどんな状況なのか知っておきたいからな」


「ん? そんなことを次回の族長会議で……いや、無理か。皆忙しい上に新たな名持ちの紹介。それぞれ欲する物が多いだろうし、各種族の話などしている余裕はないか。うむ、分かった。ただ俺の話はさっきしただろう、お前の話を聞かせろ」


「ああ、そうだったな。俺の所は、やはり忙しいな。石切り場探索のために割いていた遠征が必要なくなったが、警備の見直し、二階層の探索と手が足りない現状は変わらない。それに鳥人(ハーピー)との連携も考える必要があり、しばらくは忙しい日々が続きそうだ。希望があるとすればキュウだな。名持ちとして働いてくれればこちらも楽になるはず」


 今は鳥人(ハーピー)の様子を見ているだけだが、新入り共が訓練を終えれば警備を一新せねばならず、その頃には鳥人(ハーピー)の調査もある程度終わり、連携もしなければならなくなっているだろう。二階層の調査も二階層がどれだけ広いのか分からない現状では、いつ終わるか分からない。

 まあ、希望もないくらいに忙しい所を知っていると、まだ楽だと思えるのが救いなのかもしれない。


「おや? シバにリン。お揃いでどうしました?」


 ああ、一切の希望がない所の長が来た。心なしか目に光がないように思える。


「ヒデか。お前こんなところに来る余裕があるのか?」


「あはは、鳥人(ハーピー)の羽が素材になるから回収にね。ランから首領悪鬼(ドン・オーガ)の軍勢と戦った際に矢がなくなったから作れって。他にもカイから木人(トレント)の移動が遅いから運ぶための物を作れとか、リンの所から新入り用の木剣とか色々溜まっているけど」


「ああ、えっと。ヒデ、時間がある時で良いからな?」


「ははは、時間なんて常にないよ」


 リンが気を遣うも、ヒデの言葉を受けて沈黙。俺はまだ何も頼んでいないのでまだ気が楽だ。まあ、鳥人(ハーピー)との連携の際に何らかの道具が必要となれば、遠慮なく頼るつもりだが。


「羽が素材か。じゃあ岩蜥蜴(ロックリザード)の鱗とか、木人(トレント)の枝とかも使うのか?」


「あー、その辺りは試作次第だな。ただ、見た感じ岩蜥蜴(ロックリザード)の鱗は岩のように硬いけど重い、形も不揃いだから難しいと思う。木人(トレント)の枝は使えそうだが、あれ枯れて落ちたりしないらしい。鳥人(ハーピー)とかは生え変わりあるからそれを貰うけど、木人(トレント)にはないらしい。森人(トレントリオ)や樹霊(コダマ)の素材を見た時に、木人(トレント)から回収できると期待していたんだけど。ああ、そういえばシバ、素材回収班、キュウが率いているんだっけ? いつ帰ってくる? 素材がもうなくて注文ばかりが溜まって行くんだ」


「戻るのはまだ先だろう。あれだ、戻るまではしばらく休んでも良いんじゃないか? 注文だけ受けておけば」


 場の雰囲気が悪くなりそうだったので話題を振れば、まだ希望がありそうだったので救おうと試みたが。

 返って来たのはやはり希望のないものだった。


「いや、物作りを止めると面倒なことになる。ほら、オルギアが来ただろう。アリス先生と対等に戦える。その所為でな、武闘派の連中がうるさくてな。物作りでノブナガ様の力になるのではなく、戦う力でノブナガ様の役に立つと。だから物作りを止めるとこの連中が訓練に出て戻って来なくなる可能性が高くてな。今はライルに何とか止めてもらっているが」


 派閥争い。嫌なことを聞いた。現状ではその派閥争いが発生しそうなのは隣に居るリンなのだが、多分想像すら出来ていないだろう。そんなことがあるのか、程度の認識だ。

 蜥蜴人(リザードマン)と岩蜥蜴(ロックリザード)、二種族をまとめられるだろうか? ああ、でも蜥蜴人(リザードマン)は結構単純だし、岩蜥蜴(ロックリザード)も似たようなものか。

 うちも気を付けないと、などと思っているとすでに手遅れな所の長がやってきた。


「こんな所で固まって何をしているんです? まあ、良いです。スズリを知りませんか?」


 族長と名持ちで派閥争いを起こし、種族を真っ二つに割っている女郎蜘蛛(アラクネ)のランだ。数ではイチの方が有利と聞いていたが、どうなったのか。


「ちょっとした情報交換だ。新種族や新入りが来ただろう? それでどう変わったのかを聞いていたんだ。……そうだ、ラン。お前の所はイチと争っていたよな? 大丈夫なのか?」


 派閥争いならランが詳しい、というか他所に知られるほど争いを起こしつつも、こうして堂々と族長であり続ける以上、何らかの方法で抑え付けているのだろう。

 その方法が分かればヒデの負担も少しは軽くなると思ったのだが。


「イチと争い? ああ、あれですか。問題ありません。いかに群れようとも力が強ければ良いのです。魔法も覚えましたし、多少数を揃えた所で私が負けるはずがありません。それに最近は争ってないのですよ? 蛇長人(ナーガ)、マツの動きが怪しいので、あれをどうするか決めるまで休戦しています」


 なんてことはない。力で従わせるか、外部に敵を作ることで団結するか、単純な方法だった。

 これをヒデにさせる? ヒデがどれほど強いのかは知らない。樹霊(コダマ)討伐戦では木人(トレント)を多く討伐したらしいが、俺とリンはその頃ダンジョンに居たので分からない。首領悪鬼(ドン・オーガ)の軍勢との戦いでもヒデら小悪鬼(ゴブリン)は参加していない。

 弱い、ということはないだろうが、ランのように数を無視して暴れられるほど強いのかと言われれば疑問だ。


「力尽くか、敵を作るか。敵なんて居ないから力尽くか。どうしようか」


「無理でもやるしかないだろう」


 ヒデの弱音にリンが力強く答えた。


「オルギアに憧れるのは良いが、あれはアリス先生と同じ生まれながらにして持っている側だ。憧れて努力した程度では絶対に届かない場所に居るぞ。そして、この言い方は少し悪いが、ヒデの所にそれほどの才がある奴は居ない。いつ諦めるかも分からないならやらせない方が良いと思うぞ」


 厳しい言い様だが否定できない事実。アリス先生と互角に渡り合えるのはオルギアだからであって、大悪鬼(オーガ)という種族だからというわけではない。無意味な夢を見させる余裕はダンジョンに、特にヒデの所にはない。

 だがヒデが悩んでいたのはもっと単純なもので。


「いや、そうじゃなくて。武器をどうしようかとね。石斧が余っているけど、手加減はしたことがないから殺しちゃうかもしれないし。槍や剣も怪しいし、棍棒とかが良いんだろうけど、その素材を待っている状況だから」


 不殺の武器を求めているだけだった。ヒデは意外に武闘派だったようだ。いや、精神安定のためのはけ口にするのか?


「貴方たちの話などどうでも良いのです。スズリがどこにいるのか知らないのですか?」


 まだ居たのか。しかしランを邪険に扱うと後で非常に面倒なことになる。


「あー、スズリならここでしばらく待っていれば来ると思うぞ」


「そうですか、ではしばらく待ちます」


 スズリの居場所は知っているが、それを教える理由はない。それに上を見ればゴウを運んでいる鳥人(ハーピー)たちがゆっくりと降りてきている。なら、本当にしばらくすればスズリが来るはずだ。

 ふふふ、これだけ居るんだ。次は……。


「シバさーん、ゴウさんが大丈夫だったので今度は一緒に――」


 良い時にスズリが来てくれた。ランの姿を捕えた瞬間顔色が変わったが、それは俺の知ったことではない。


「スズリ、ちょっと話があります」


「あ、はい。でもちょっと待ってください。ノブナガ様から任された鳥人(ハーピー)の調査を先にさせてください。あれ? 皆さんお揃いですね。 じゃあヒデさん、リンさんもちょっと手伝ってください。空に招待します」


 スズリめ、ランの扱いが上手くなっているな。ノブナガ様の名を出せばランが強く出ることはまずない。

しかし良かった、次は俺ではなくなったようだ。スズリの後ろを歩いていたゴウの顔色が今の言葉を聞いて良くなっていく。

 状況を理解できないヒデは適当に頷いているが、ゴウが何をされていたのか見ていたリンは驚愕の表情を浮かべてこちらを見ている。


(計ったな!)


(知らんな)


 リンが目でこちらに文句を言ってきたがすぐに目を逸らして無視する。

 俺はもう空に行きたくない。代わりに頑張ってくれ。


少々名持ちの魔族が増えてきたのでおさらい。


配下魔族の名前の由来


中悪鬼のヒデ 丹羽長秀 羽柴秀吉 どちらでも可


軍犬のシバ 柴田勝家 柴犬 どちらでも可


軍犬のキュウ 堀秀政 あだ名が名人久太郎


蜥蜴隊長のリン 回転切りを得意とする某伝説の緑の人 


蜥蜴隊長のエナ 緑の人の愛馬


蜥蜴隊長のガノ 緑の人と戦うラスボス


猪豚人のカイ 怪力


猪豚人のゴウ 剛力


女郎蜘蛛のラン 森蘭丸


女郎蜘蛛のイチ 織田市


大粘液生物のヴィ とある星に住む大食らいのピンクの悪魔


大粘液生物のセキ 赤兎馬


妖鳥人のホウ 鳳凰 


蛇長人のマツ 松永長秀 前田まつ どちらでも可


基本的には織田信長の関係から名前を持って来ています。

ただそれだけでは名付けが難しいのでいくつか別の所から持って来ています。

オルギアはノブナガが付けた名前ではないので関係ありません。

ホウは確かにオウの名を求めるよりも先に頭についているアを取るように努力すべきだと思います。


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