第百十一話 セルミナ&ライルVS森人 前半
私は決して強くない。
「セルミナ、瞬殺だぞ瞬殺! 私はあのでかい木の魔王を燃やしたいんだから」
「はいはい、分かってますよ、イフ姉」
愚兄やイフ姉のように才能もなければ、後先考えずに突っ込むような勇気もない。
常に慎重に、安全に。無謀に挑むことは絶対にない。
イフ姉がいなければ、私は前に進むことはなかっただろう。外に出て冒険者になることもなかったはずだ。
「だからと言って、三階位と戦いたくはなかったなあ」
三階位、人族で言えば職業で上級持ち。つまり同格だ。
同格なんて相手にしたことはない。それに戦う時はイフ姉がいつも一緒だった。例え格上、魔王や剣聖が相手の時も。全部負けたけど。
やだな、帰りたいな。
「やだな~、逃げたいな~。……あ、期待してるッス! 一緒に頑張りましょう」
一瞬心の声が漏れたのかと思って焦ったが、声を漏らしていたのは補佐ということで一緒に戦うライルだ。
ライルは、器用な人間だ。しかし軽薄でもある。今みたいに逃げたいと漏らしつつ、こっちに気付くと一緒に頑張りましょう、だ。戦闘に関しては、あまり信用できない。
まあ、それでも囮くらいにはなってくれるはず。
「じゃあ、補佐ってことなんで後衛で良いですかね? 弓とか使えますんで」
「前衛でお願いします。相手の注意を引いてください」
……囮くらいに、なってくれるだろうか?
右では非常にゆっくりと森人が進んでいる。
私がここで足止めのため森人と戦った際に辺り一帯を水浸しにし、ぬからせたからだ。巨体の森人は移動する際に根を奥深くまで突き刺して動かないと簡単に土を抉って倒れてしまう。
多分、木人特有の根を使った攻撃は乱用できないはずだ。乱用して泥を混ぜるような真似をすれば絶対にあの巨木は傾く。
森人を相手にするのに絶好の環境だ。
「私が大きいのを一発叩き込みます。それが終わって倒れなかったら突っ込んで時間を稼いでください」
「え!? あ、はい。了解ッス!」
突っ込めと言われてさすがに驚いているようだが、多分そんなことにはならない。普段なら絶対に出来ない一撃で森人を倒す。
魔王からもらったワリの実をいつでも取り出せるようにして、未だにこちらに気付かない森人に杖を向ける。
「グラアアアァァァ!」
ビクッと、身体が跳ねた。何事かと思えば左の方から派手な音が響いてくる。あちらの方は戦闘を開始したようだ。こちらも急がないと。
心を落ち着かせ、ただ深く集中する。イフ姉のように斬られて二つになった魔法を操るなんて出来ないが、最初から複数の魔法を同時に使うことは出来る。
狙うは森人の四方。行うは四連同時!
「ガイザー!」
森人を囲むように地面から勢いよく水が噴き出る。
まだ水が噴き出ている間に急いでワリの実を食べて魔力を回復させる。……うっぷ。
落ち着け、焦るな。魔力は十分ある。腹の中身も十二分に……、そっちは忘れろ。
今度は森人を中心に。凍てつく世界を。
「ニブルヘイム!」
未だに噴き出ている水を巻き込んで、森人を中心に氷の塔が出来上がる。ぬかるんでいた地面も霜が降りるほど冷たく固い地面となった。
「……凄い魔法ッスね。一撃でこんなことを」
突っ込む予定だったライルはこの光景に驚いている。
ただ一回の魔法でこれほど広い範囲を凍らせることは出来ない。地面がぬかるみ、『ガイザー』で森人の四方を囲んで、最後に『ニブルヘイム』で一気に凍らせたからこそこの光景がある。普通なら大きな木一本を丸々凍らせることは出来ない。それに『ガイザー』を四連同時に使えばそれだけで魔力が尽きて『ニブルヘイム』なんて使えない。ワリの実があり、尚且つ相手が一切動かなかったから出来たことだ。
……うっぷっ。苦しい。流石に樹霊を相手にすることは難しいから、イフ姉に任せるとしよう。私は地面に穴を掘っていつでも準備を。
ズズッ。
……? 今何か音が?
ズズズッ。
何かを無理やり動かすような、重い音。
ズズッ、ビキッ!
まさか……?
顔を上げれば氷の中で動こうともがく森人。そして氷に僅かにヒビが。
芯まで凍り付かせられなかったか。
そのヒビが、中でもがく森人の所為でゆっくりと広がっていき……。
氷の塔が割れた。
「冷たい!」「誰が!」「やりやがった!」
氷から解き放たれた森人は三つの顔を駆使して下手人を探す。
……私に出来ることはもうあまりない。頑張れ、ライル。




