第百十話 オルギアVS森人
森人の排除を指示された。これは力を買ってもらっていると判断すべきか、汚名返上の機会を得たと思うべきか。
森人はすでに一度討伐しているが、あれはアリスと共同で、最後だけ貰ったようなものだ。単体での討伐は出来ていない。
打撃が効きにくく、自分よりも巨大な相手。片腕もない。相性が悪いが、出来ないとは言えない。
言われたこと程度、軽くやって見せねばな。
相性と言えば、粘液生物は木人相手に非常に相性が良いようだ。目の前で繰り広げられている戦闘を見れば分かる。
多くの粘液生物が木人に絡みつき、細枝からゆっくりと溶かしていき、最後には木の皮を溶かして幹も溶かす。文字通り何も残さないのだ。
「ススミタクナイ!」「ヤダアア!」「クルナ! クルナ!」
それでも木人たちは樹霊からの命令故に進むしかない。心がどれ程拒否しようが、身体が勝手に動く。魔王の同種族への命令とは、そういうものだ。
ただひたすらに進んでくる木人達を粘液生物達は数で平然と飲みこんでいく。森人や樹霊のような太い枝や根があれば振り払えるだろうが、木人の枝や根では数多くの粘液生物を薙ぎ払うことは出来ない。
このまま粘液生物にこの場を任せてやりたいが、ノブナガ様から森人の討伐を指示されている。こちらの攻撃と同時に中央が動く手はずになっているので待ってはいられない。
確か族長の名は。
「族長のヴィはおられるか? ああ、そちらに。実はノブナガ様よりここで森人を倒せと言われており、恐縮だが中央への移動をお願いできないだろうか?」
協力するな、とは言われていないが協力しろとも言われていない。すまないが、森人を単体で倒して、ノブナガ様から信頼をもらいたい。
ヴィはあっさりと良いよ~、と返事してくれてぞろぞろと中央へと移動してくれた。
そして残ったのは私と、所々溶かされた木人とまだまだ来る無傷の木人。
……この程度なら大して問題はない。
大きく息を吸い込んで。
「グラアアアァァァ!」
戦闘開始の合図を送る。
手始めに粘液生物が溶かし損ねて枝葉はなく、木の皮も剥がされた哀れな木人を蹴り抜く。
ここまでされていればさすがに一撃で倒せる。
次は近くにいた木人に裏拳。手応えあり、何かがミシミシとしなる。枝で反撃してくるがこの程度なら払うまでもない。無視して回し蹴りを放ち木人を折れた木に変える。
無傷の木人も二撃で屠れる。片腕でなければもっとやり方もあるのだが。
折れた木を樹霊の近くで待機している森人に投げつける。
まずはこっちに森人を呼び込まないとならない。
右にはすでにいるから楽で良いな。
一回だけの木の投擲ではこちらに意識を向けないので手当たり次第に木人をへし折りながら森人に投げつけて行く。
しばらくしてようやく効果が表れた。
「うざーい」「調子乗ってる」「やっちゃいます?」
森人の意識がこちらに向いた。後はこちらに来るように挑発すればいい。
「薪にしてやる。良く燃えそうだ」
「「「やっちゃいましょー!」」」
三つの顔が邪悪な笑みを浮かべる。
ドドド、と森人が動き、僅かながら地が揺れる。樹霊ほどではないが、あれも大木。それが動けば土は抉れ、進路にあるものは簡単になぎ倒される。
それが味方であり、一階位の木人であっても。
「派手にやるな」
木人はここが戦場になると悟り、中央寄りに進み始める。命令に逆らわずとも方向をそらす程度は出来るか。その先にいるのは粘液生物だが。
こちらから接近するのも苦なので向こうから出来る限り近寄ってきてくれるのを待っていると。
足元に僅かな隆起。素早く身体を下げると下から根が飛び出して来た。
奇襲に失敗したと見るや根はそのまま身体を狙ってきたが腕で弾き、最後に下から突き上げるように首元を狙って来たので捻って避ける。
枝の攻撃範囲には届いてないから安全と考えていたが、根の方が広いのか。油断した。
「外した?」「下手くそ」「ダッセー!」
あの話し方から察するに、根を操っていたのは三つの顔の一つと言うことか。三つ顔があれば考える頭も三つ。
もう少し成長すれば、三つの顔がそれぞれ別々の性格を宿し、行動も考えも異なり厄介なことになっただろうが、三つ頭があろうが行動も考えも同じなら大して苦労はしないで済む。
すでに根による攻撃範囲内なので森人は動かず、根を使ってこちらを串刺しにしようとするが、あまりにお粗末な攻撃。先程は不意を突かれたから危なかったが、来ると分かっていれば簡単に対処できる。
根を捌きながら森人に向かって前進する。
「いい加減当てろ」「うるせえ」「しょうがねえ」
根を捌きながら歩き続け、そろそろと警戒していると予感的中。無数に分かれた枝が上から降り注ぐ。
流石に枝は数が多すぎる。根を捌きながら回避するのは不可能。
自分を中心に無数の枝が地面に突き刺さる。更に。
「まだまだ!」
突き刺さった枝の葉が進路上の枝を裂きながら一斉に飛んでくる。
枝から葉の波状攻撃。全方位からの一斉射。避ける術も、防ぐ術もない。並の相手ならこれで確実に倒せるだろう。
「だからどうした?」
並の相手だと思っていたのか。
枝を踏み、葉を払う。
どの攻撃も、肉に刺さるどころか皮膚を裂くことすら出来ていない。攻撃が、弱すぎる。
枝も葉も、防ぐまでもない。皮膚を裂くことも出来ず、足を止めることすらできていない。今まで捌き続けてきた根の攻撃も、それほど恐ろしいわけでもなく、ただ衝撃で歩みを止められたくなかったから防いでいただけ。当たってもこの身体に傷は絶対に付けられない。
「は?」「あ?」「ん?」
枝葉を乗り越えて、姿を現すと森人から間の抜けた声が漏れた。
まさか今ので仕留めたと思っていたのか。
挑発に簡単に乗る、戦闘中に会話をする、その会話から新たな攻撃に入るのを悟らせてくれる。挙句の果てに、倒した確証もないのに油断か?
「戦闘を舐めるな」
「「「ああああ!」」」
攻撃が通じていない、森人はそれを今になって理解し、叫びながら攻撃してくる。
しかし叫びながら、混乱した状態での攻撃だ。根の動きを枝が邪魔し、その枝を葉が裂いて行く。
同時に様々な攻撃を使える長所をものの見事に消している。
それに、こちらもゆっくりと歩いて前進するつもりはない。地を蹴って一気に距離を詰める。
根も枝葉も付いて来れず、すぐに森人の下に入り込めた。
後は森人に通じるかどうか。
大きく振りかぶった腕を斜めに振り下ろす。
「無駄……は?」「打撃なんて……あ?」「意味が……ん?」
「ふん、僅かだが届いたな」
森人の幹に入った切り傷。森人の巨体さからすれば僅かな傷だが、この戦闘の勝敗を決めるには十分な傷。
「「「何をした!」」」
「近くに剣の達人がいたんでな。真似をしただけだ」
アリスの戦闘をずっと見ていた。次は勝てるように、残った腕を斬られないために。何より、強くなるために。
その中でアリスは面白いことをしていた。剣を使わずに手で『剣士』の技能を使用していた。刃ではなく手で、斬ったのだ。
『手刀』と呼んでいた。それからはただひたすらその技を観察し、ものにしようと思った。出来ると思ったからだ。
剣を使う職業が拳を剣のように扱ったのだ。
拳を使う職業が拳を剣のように扱えないわけがない。
そして今ぶっつけ本番で行い出来た。
勝敗はこれで決まった。
攻撃が一切効かない側と僅かだが傷つけられる側。
「さて、何度目で切り倒せるか」




