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ねごすいやつら  作者: 安祥


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9/9

王居対米軍

怒涛の最終回。ついに王居軍は米軍と対決する。

 さて、先の戦争末期のことでございます。はい。

 オヤジは戦時中の予科練とか、そんな話を鼻受けて喋るのが常でした。おれは学徒動員で、半田工廠で働いていた、とか。グラマンに撃たれたとまで言うのでこちらも流石に鼻につき、「うそこけ」と言ったら、むきになってズボンをめくり、「これを見よ」というのです。そこには確かに弾痕のようなひきつれ傷がありました。にわかに歴史的人物が目の前に立ち現れたようで、感心したおぼえがあります。「校庭を走っていたから、グラマンのパイロットと目が合った」機銃掃射を背後に感じつつ、後ろを振り向きながら逃げまどっていたのでしょう。


 硫黄島が陥ち、B29で本土爆撃可能になり、いつ上陸してくるのかという段階で、祖父は渥美半島であると想定したようです。もしくは、そういう噂が立ったのかもしれません。砂浜に上陸用舟艇で着岸するイメージでしょう。

 女を山の中へ隠せ。

 といった祖父の言葉を、母は覚えていました。祖父の頭の中では、戦争とはそういうものだという図式があったのでしょう。


 でな、平五郎は、王居の世話役的位置にありました。

 日露戦争における秋山淳のように、米軍上陸を幻視したのでございます。

 硫黄島が落ちた。米軍が真っ先に来るのは渥美半島、そこから京を目指し天皇の首を取るはずだ。とね。

 ならば、口の乾いた米軍は、絶対にこの王居の聖水に目をつけるであろう。そうして桑名、また鈴鹿を超えて奈良京都へ攻め込むであろう。

 消防にはとび口を持たせて警戒させよ。狭い小路に潜ませよ。ヤンキーが火炎放射器持っていようが、不意打ちすれば必ず勝てる。

 そんなうまいこといくか?

 いかずばどうする。われらは天皇陛下の赤子。一気玉砕せなならん。

 しかし、どうなんですかね? いっそのこと、聖水ヤンキーに献上して、酒サカナでおもてなしして、通り過ぎてもらうのは。

 この王居の聖水を、ヤンキーにやるわけにはいかん。

 いいんじゃないかなあ。命あってのものだねだし。

 そんなことをして、近隣の村に顔が立つか。

 むりこやりこ、やられまいたでええんじゃねえのか?

 よし、佳三、それならおれを殴れ。

 そんな走れメロンでもあるまいし。

 ええから殴れ。

 バシッ。バシッ。

 なんで殴り返すんだ。

 証拠が要る。

 てめえ、どやすぞ(なぐりますよ)

 消防は撤収だ。女子衆(おんなごしゅう)に炊き出しを指示せよ。米軍さまを饗応せなならん。コモ豆腐なら、酒も進もう。

 確かにな。ところで、大井に聖水なんか本当にあるのかや。

 ある。これは代々の秘密だが、渡辺の庭にある井戸だ。むかしはそれで酒作っていたが、今では本人でさえ由来を忘れている。

 な~に~それはよ言えよ、おまえ。ははあ、あそこになあ。それ飲むとビンビンになったりするのか?

 たーけ。ただただ清らかな気持ちになる。米軍さまもチョコくれて帰っていくかもしれんほどだて。

 さすが平五郎さは違うな。これで安泰だて。


 待ちわびた米軍のひとちたは、ちっとも王居には来ませんでした。

 お後はもうないようで。







鼻受ける 得意げな顔をすると、ついアゴを出し、鼻は受けるかたちになるので、それを囃す使われ方をする方言。主に北陸で使われるという。


どやす どやすぞ、ワレが一般的な脅し文句になります。これは一人称が省略されていますが、全部言いますとオレがどやすぞワレとなります。それに対して、どやされるぞわれ、があります。これを全部言いますと、あなたは私にどやされますよ?という、より相手の立場に立ったより丁寧な言い方になります。どやすは、殴るというニュアンスとは若干違いまして、地面にのめり込むほどの打撃を与えるということになります。

漁師町なんかですと、二言目にはこんな文句が飛びます。なにようワレ、とか言い返さないと名折れになるんですね。まあ、そんなことです。

この物語はフィクションであり、なんらの時代背景、人物、地名などとは関係ありません。

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