表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ねごすいやつら  作者: 安祥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/9

元平鹿

 白く刷いた筋雲どこか薄寒い秋の空、鬼次郎は険しい顔で眺めていた。

 伊佐は来なかった。誰も理由は知らなかった。だが、何かが悪いことだけはわかっていた。

 鬼次郎は男衆宿(おとこしやど)に顔を出した。適当な場で座り胡坐(あぐら)をかく。みな眉間に皺、糞でも食ったような顔をしていた。

 謀議が巡らされていた。このままでは冬、飢える。

 半球に掘られた炉で火がたかれ、オトナ五郎八は串刺しのシコを齧っている。薄暗い男衆宿の中で、火の照りが顔だけ浮かび上がらせている。白煙がゆらゆらと円錐形の屋根を昇り、天窓から逃げていく、その青さが鬼次郎の目に沁みた。

 誰も何も語らない。時おり細かな目配せで意思を読み合っている。

 王居三河に攻め込むのだ。こんなことは昔にもあったことだ。シコさえ獲れない。

 ひとり、またひとりうなづいていく。口元を引き締め、己がなにをしようとしているか確認している。

 鬼次郎は上体を投げ出して寝そべった。もう決まった。

 若衆(わかいし)は真っ先に浜を駆けていくのだ。

 なによりも米、ここにないもの。女も狩り放題、気に入れば縄で縛って連れ帰る。鬼次郎の若い血潮を滾らせるモノ。女の着物をまくったシシド。


 牟婁から志摩。このあたりまでなら庭だ。浜では潜り女が火をたいて暖を取っている。入り組んだ崖、点在する島、岩礁の深さ、すべて知り尽くしている。そこから神島、そして豊浜。五郎八は考えていた。四、五時間か、帆を上げれば三時間。

 十二人集まった。牟婁の衆と近郷のやはり飢えた者ら。丸木を手斧(ちょうな)でくり抜いた船底、その下は地獄。それに比べれば、人の群れなど容易いもの。

 どお、どおと船首が紺碧の海を打つ。

 今夜は神島で泊ろう。払暁を期して、攻め込む。


 小佐(おざ)の浜に乗り上げた。船を引き揚げると、弾かれたように鬼次郎が()に突進する。

 (むしろ)を上げると、炉にはまだ煙が残っていた。土器で汁でも煮ていたのか。

 いや、気づかれたのか。鬼次郎の顔から血の気が引いた。麻袋があって、触ってみると米だった。視線を移すと、甕と器。木蓋を取ると酒の臭いが立ち昇った。

 鬼次郎は外に出て五郎八を呼んだ。呼ばれた五郎八は理解した。

 折角だ、ご相伴にあずかろうではないか、みなを呼べ。

 海賊どもは車座になり、わずかに米の入った汁を肴に酒を飲んだ。

 今夜はここに泊まる。

 どうする。これしきの米では、われら顔が立たん。

 明日は内海に行こう。あそこなら、もう少し米があるはずだ。

 翌朝、海賊どもは北上した。屋に押し込んだが、今度はなにもなかった。

 もう帰ろうと、五郎八は言った。

 師崎を回って三河に攻め込もう、と言う者もいたが、五郎八は肯首しなかった。

 草を食ってもいいが、命は粗末にすべきではない。






元平鹿(もとへいか) 元陛下とも。熊野海賊、後には今平鹿(こんへいか)

伊佐 くじら

オトナ 成年男子。特に四十歳程度の村の推進力

シコ イワシ。時にカタクチイワシ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ