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ラスティ ~霧の中で~  作者: しんねむ
霧の中へ
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08 エンチャント

――翌日、雑貨屋ペッパーのカウンター


昨日の夕方辺りに何かしてたはずなんだけれど…思い出せない。

ぐうっと背伸びをし、カウンターの上に手を下ろす。

何気なしにカウンター上の手を見つめると…手が光るイメージが頭に浮かんだ。


「うーん、なんか……火? そう確か、魔法の練習をしていたんだっけ」


で、火の玉みたいなのが出て…そういえばこいつ(ラスティ)魔法使えたのか。

まぁ…いいや、考えに一区切りをつけると口から


「ぷふー」


吐息が漏れ出す。


――チリン。いつものように扉の音が鳴り、すっとシェリスが入ってきた。

カウンター越しに話し掛けてくる。


「こんにちはラスティ、回復球(ポーション)五つ」

「はいこんにちは、回復球五つね。ちょっと待ってて」


回復球を取り出す為にカウンター裏の棚の方向へ向く、


「別に…ラスティの為に買いに来てあげたんじゃないんだからねっ!」


背後で言い出すシェリス。

お、おう? 藪から棒に何を言い出すんですかね、この子は。

おたまのような器具で瓶から回復球五つを取り出し、


「はいはい、シェリス様のおかげで当店はいつも助かっております」


袋に入れて振り向き、シェリスの目を見つつ会話を続ける。


「感謝の気持ちとして、おまけにキスなどはいかがでしょうか?」

「ふんっ、そんなに言うんだったら、貰ってあげてもいい…けどっ」


回復球が入った袋を手渡しながら、お互いに目を瞑り顔を近づける……

と、カウンターの奥からおばあさんの気配がした。


「のうお前達。わしが声を掛けなんだら、そのままするんか?」

「……」、「……」

「も、もうっ…冗談に決まってるじゃない。おばあちゃんのばかーっ!」


代金をカウンターに置いてダッシュで店を出て行くシェリス。

何処で覚えてきたんだろう。ツンデレ?


「全く、お前達は昔から…」

「ラスティよ。エンチャントをするから今日は閉店じゃて、言っておいたはずじゃが?」

「あっ、…ごめんなさい。忘れてた」


そういえば昨日夕飯を食べていた時に、そんな事を言われていた様な気がする。

て、昔からラスティとシェリスはこんな感じだった? のかな。

店の扉を開け外看板を閉店へと裏返し、戻ると地下の工房へ降りて行く。


――エンチャントには魔法と水晶(鉱石)などを使う。

水晶にはランクがあり、高いほど威力が強いエンチャントが付与される。

ただし、付与する武器などが大した物ではない場合や、低ランクの水晶を使用した場合、効果が薄れてしまったり失敗したりもする。

最悪、付与しようとした物自体が壊れる事も。

その他に、魔法でも一時的にエンチャントを付与する事は可能だが、効果時間は様々らしい。

(おばあさん談)


「さてと、始めるかの…ラスティ、火水晶(ファイヤークリスタル)と武器をここに」

「はい」


工房の机の上に置いてある火水晶と武器を作業台へと載せ。

柄から引き抜いた武器の刃と、火水晶を布で綺麗に拭き作業台から離れると、


「少し離れておいで」


そう言ってスキルを発動させるおばあさん。


付く付与能力スティックエンチャントメント


作業代から武器と火水晶がふわりと浮き上がり、空中で重なるとその中心から光り始め。

続けておばあさんが杖を掲げ魔法を発動させる。


特大火球エクストララージファイヤーボール!」


かなり大きい火の玉が出現し、


「で、でかっ!」


初めて見る『特大火球』のでかさと迫力に、思わず声が出てしまう。

その大ききい火の玉は、空中の光へと吸い込まれいていった。


「あとは効果が固定するのを待つだけじゃ…」


一連の作業が終わり一息といった所だろうか、気になった事があったので聞いてみる。


「ねぇ、おばあちゃん。その特大火球って、こんな所で使っても大丈夫なの?」

「そうさのう。失敗した時は、武器もわしらもただでは済まんじゃろうて」

「ええっ、マジで?」

「うむ。わしはベテランじゃから失敗などせぬがな」

「そうなんだ。おばあちゃん凄い」


流石にベテランと言うだけあり、自信も実力もあるみたいだ。

ラスティの魔法の件も気になっていたので続けて聞いてみた。


「ちょっと気になる事があるんだけれど…」

「ふむ?」

「んーと、私って魔法使えたりする?」

「魔法使いギルドに登録し、修行すれば使えるじゃろうが」


この世界は魔法使いとかはギルド登録制なのか、なるほど。


「なんじゃ、魔法使いになりたいのか?」

「うん? いや、昨日練習していたらなんとなくぼわって、火の球(ファイヤーボール)が出たから」

火球(ファイヤーボール)か……。わしに相談もせず、いつの間に魔法使いギルドに登録したんじゃ……まったく、登録した時に貰った証を見せてみい」

「証? 持ってないけれど」

「ふーむ……ダリルの奴も何も言っておらんしのう……」

「ギルドの登録もなしに、火球ファイヤーボールを使ったか…で、詠唱は何処で覚えたんじゃ?」

「詠唱? なにそれ美味しいの?」


そりゃそうか、魔法と言ったら詠唱も必要だったりするしな。

でも、魔法の名前しか言わなかった気がするが……。


「……無詠唱か。まぁ初級魔法じゃし、わしの孫だしの。そのくらいは出来てもおかしくないのかもしれん」

「まぁわしだって、無詠唱で上級魔法くらいまで唱えられる」

「さっきの特大火球も本来は詠唱が必要なんじゃぞ」


そういえばおばあさん回復魔法も使えるし、攻撃魔法も使える。

それに上級魔法も無詠唱で使えるって結構凄いんじゃ。


「へぇー…おばぁちゃん凄い!」

「まあの」

「おばあちゃん偉い!」

「まあの」

「おばあちゃん、マジおばあちゃん!」

「まあの」

「おばあちゃん魔法教えて!!」

「駄目じゃ、そもそも魔法って奴はギルドに登録して。師匠につくなり修行や鍛錬を…強い魔法ほど…」


なんか魔法の何たるかを語りだした……。

暫くすると空中に浮いていた光が弱まり、武器が作業台へと降りてくるのが見える。


「おばあちゃん、そろそろ時間」

「ん? そうか…」

「ねぇ、どんな出来具合?」

「《鑑定エキスパートオピニオン》、そうさのう…中々に良い出来といった所か」

「お前もスキルで見てみるがいい」

「……《鑑定エキスパートオピニオン》」


普通に使えた。以前からこのスキルを修得していたという事だろう。

微妙な違和感を感じたが、今は深く考えない事にした。


武器名『紅蓮の刃クリムゾンリームブレード

エンチャント効果、特大火球、付与率不明、攻撃力不明、その他の項目(ステタータス)不明。

ところどころ見えない所がある。というか見えない所の方が多い。


「おばあちゃん項目で見えない所があるんだけど?」

「修行不足じゃの、わしには全部見えとる」

「…そうなんだ」

「今日の仕事はこれで終わりにするかの、刃に気をつけて片付けておくれ」

「了解ー」


紅蓮の刃を鞘に戻し机の上へ載せると、背後からおばあさんが話し掛けてきた。

振り向くと手に木のコップを持っている。


「ところでの、例の件なんじゃが…」

「例の件?」

「ほら…記憶のな」

「う、うん?」

「薬草や色々混ぜ合わせ、こんな物を作ってみたんじゃが。無理強いはせんがの……」

「飲むよ普通に、なに言ってるのおばあちゃん。ありがとう」


言ってはみたものの。

記憶……本当に戻ったらどうしよう……戻る? 記憶が?

いや、アイツ(・・・)はもう死んで……るし、戻りようがないじゃん。

そもそも半分だけ記憶喪失という事にしたのは自分だ。

実際にそうなっている訳ではない。中身そのものが違うのだから。


――飲まないと。

炭酸でも混じっているのだろうか、差し出された木のコップに入った液体は、ぶくぶくと泡立ち。

奇妙な色をしていて変な匂いをかもし出している。

一瞬戸惑うが、あばあさんありがとう……という気持ちで口に含んだ。


「ごく……ぶーっ!!」

「ちょ!?、なにこれっ!!」

「飲み物じゃない! 意識が飛びそう! でも癖になるかも!」


奇妙奇天烈な味に、一気にテンションが上がるラスティ。

なんだこれ、テンションアップのアイテム?


「……ラスティや。吐くなら、他を向いて吐いておくれ」

「あ……ごめんなさい。おばあちゃん」


おばあさんを見ると、ラスティが吹いた液体が顔に掛かっていた。

布巾で顔を拭きながら腑に落ちない様子のおばあさん。


「そんな吐く程の物かのう……」

「おばあちゃん味見とかした?」

「いや?」

「…ん、」


どうぞ飲んでみて下さい、とばかりに木のコップを差し出す。

絶対に吹く、アレは飲み物じゃない…心の中で少しほくそ笑みながら飲む様子を伺っていた。

するとおばあさんの目がギラリと鋭くなった気がして、


「ごく……ぶーっ!!」

「………」


そりゃそうなるわ。だがしかし、なんでこっちを見ながら飲むかね。


「……おばぁちゃん? 吐くなら他向いてって、言ってたのに……」

「あぁ……まぁなんだ、すまんかった。これはもっと研究が必要じゃの」


おばあさんから布巾を渡され、自分の顔に掛かった液体を拭う。

拭い終わりこの後の予定を聞くと、今日はもう何もないとの事。


「じゃあ、ちょっと出かけてきいい?」

「構わんが、日が暮れる前には戻ってくるんじゃぞ」

「うん、じゃあ行ってき」


「ちょいお待ち、ついでにこれを飲食店トロースに届けておくれ」

「中身は何?」

「うち特製の胡椒(こしょう)じゃ」


スーパーなどで売っている。小麦粉1キログラムくらいの大きさの袋を二つ渡された。

中身は一袋600~700グラムといったところだろう。

雑貨屋ペッパー(・・・・)だけに、商品に胡椒は外せないってやつ。

きっとこだわりを持って作っているに違いない。


「了解です。じゃあ行ってきま…」

「ガタンッ」


一階へ上ろうとすると背後から音が聞こえる。

振り返るとおばあさんが杖を片手に膝をついていた。


「おばあちゃん?、大丈夫?」

「……思い…だした」

「え? 思いだした?」

「あ、ああ…大丈夫、なんでもない。転んだだけじゃ」

「本当に大丈夫なの?」

癒しの手(ヒーリング)癒しの手(ヒーリング)癒しの手(ヒーリング)


回復魔法を自身に連続で放つおばあさん、何故かドヤ顔で。

大丈夫ですよ的なアピールなのだろうか?

魔法が発動する度に、杖とおばあさんの体の輪郭が光って少し眩しい。


「出かけるんじゃろ? 行っておいで」

「あ、うん。いってきます」


おばあさんというだけあって年寄りだしなぁ、少し心配な気もするけれど、

あれだけ回復魔法を使っていたし、大丈夫かな。


少し気になったが、一階へ上がり店の扉を開け出かけて行く――

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