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ラスティ ~霧の中で~  作者: しんねむ
霧の中へ
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05 シェリス

「ん? ん?…何この空気、私のせいじゃないわよね」

「ねぇラスティ」

「……」


誰だか知らないけれど俺に振らないでくれ…

微妙な空気を破ってダリルが若干ばつが悪そうに、入ってきた女性に声をかける。


「お、おうシェリス、回復球(ポーション)を買いに来たのか?」

「うん」

「まぁ…なんだ、お前さんはいつも元気だな」

「ダリルはいつもおじさんよね」

「はははっ」「ふふっ」

「ゴホンッ」


おばあさんが咳払いをして二人を手招きしている。

三人はカウンターの奥で、ひそひそと話し合いを始め出した。

暫くするとシェリスと呼ばれていた女性が、よっしゃあというようなポーズを

すると、ニコニコとした笑顔でおばあさんから回復球とお金を受け取っている。


買いに来たのに逆にお金を貰うって、どういう事なんですかねぇ…

と疑問に思っていると話し合いが終わったのかダリルは


「じゃあな、もう無茶をするなよラスティ」

「シェリスも程々にな」


言いいながらラスティの頭をぐりぐりと撫で回し、店を出て行った。

おおう、気軽に撫でんなよ…て、お世話になったし文句は言えないけれど。


「さて今日は閉店(closed)にするかのう」

「ラスティや、お前は街から出るのは暫く禁止じゃ」

「あ、はい」

「シェリス、出る時に看板を裏返(閉店)しにしておくれ」

「了解であります」

「記憶…あの魔法書…いや調合――」


おばあさんはぶつぶつと呟きながらカウンターの奥にゆっくりと降りていった。

向こうには地下でもあるのだろうか?

見送っているとシェリスが近づいてきて、行こうと声をかけられ、手を引かれ外へ連れて行かれる。

シェリスは外に掲げてある看板を裏返すと、そのまま手を引いて何処かへ歩き出す。


「ねぇ、私のこと覚えてる?」


いきなり直球で来ましたね、この子は。さっきの話し合いで聞いたのか。


「…ごめん」

「じゃあ、この街の事は?」

「思い出せない…かな」


まぁ、思い出せないというか知らないんだけれど…。


「うーん…そっか、この街はね。辺境にあるシリウスっていう街なの」

「んで、私は貴方の幼馴染で親友のシェリス」


「街の事はどうでもいいけど、私の事はもう忘れちゃ駄目だからね」

「う、うん」

「今度忘れたらデコピンの刑に処す」

「うん…ん?」

「まぁ、万が一また忘れたとしても、私とラスティが幼馴染で親友、という事に変わりはないんだけどさ…ふふっ」


屈託のない笑顔でそう話すシェリス、いい奴みたいだ。

それに、ラスティが半分記憶喪失になったと聞いても、同様していないっぽい。

シェリスはたまにこっちよと手を引いて、街の色々な場所を教えてくれた。

このシリウスという街は結構大きい、色々な店や施設もそれなりにある。

幸運な事にこの体の持ち主の家も有った事だし、暮らしていくのには困らなそうだ。


「ラスティ、大丈夫? 疲れた?」

「うん、ちょっとだけ」

「じゃあ休み…あっ、ちょっとそこで座って待ってて――」


広場のベンチ(長椅子)に座ると、シェリスは近くの店先で店員らしき人と話をしている様子。

ふとポケットにスマホを入れておいたのを思い出し、取り出して電源を入れる。

バッテリーの残量がやばそうだが、周りを動画で撮影した。


広場の近くの通りへスマホを向けると職人風な人、何人か連立った冒険者風な人、買い物をしている人など、色々な格好の人が行き交っていた。

建物や街並みを撮影し、以前から会員登録をしておいた動画投稿サイトへアップロード。


タイトル、『突然異世界に紛れ込んでしまった僕は、チート能力持ちの勇者として爆誕した』

説明文は近日公開。

SNSには『異世界なう、いやマジで』という文章と共に、動画投稿サイトのリンク(URL)貼り付け(共有)て投稿した。


投稿が終わったと同時に、スマホの画面が真っ暗に。

バッテリーが切れか…でもまだモバイルバッテリーがあるから大丈夫っしょ。

とスマホを目の前に掲げた視線の先から、シェリスがトレイを持ち近づいてきて横に座る。


「何その板? また変な物作って…どうせ方位球みたいに役に立たないんでしょ」


方位球ってラスティが作ったのかよ、地味に凄いなあいつ。

て、役に立たないとか言われてますよラスティさん。まぁ、ほぼ役に立たないけどね。

スマホをポケットにしまうと、シェリスがトレイをこっちへ差し出してくる。


「ん、私から(・・・)の驕り」

「えと、いいの?」

「いいのいいの、遠慮しないで」

「ありがとう、じゃあ遠慮なくいただきます」


トレイの上にはハンバーガーっぽい物と、鉄の容器に入った飲み物が二つずつある。

一つずつ貰い飲み物はベンチに置いて、ハンバーガーっぽい物を両手で持つと視線を感じた。

横目でちらりとシェリスの方を見ると、まじまじとこっちを見ている。

先に食べろって事? 少し恥ずかしい気もしたが、かぶりついた。


「うまっ! これ凄くおいしい」

「でしょでしょ、この辺りじゃ名物だもの当然っ」


ドヤ顔でそう言い、シェリスもかぶりつく。

飲み物もコーラみたいで美味しいし、いい天気でたまに流れるやわらかな風が心地いい。

食べ終わり暫くすると、シェリスがラスティは雑貨屋ペッパー店主のおばあさんの孫だとか、色々と教えてくれる。


「――でさ、私とラスティはそういう関係だったって訳」

「うんうん…うん?」

「だから貴方と私は、こういう関係だったの」


目を瞑りいきなり顔を近づけてきたので反射的に避ける。


「ちょ!? マジで?」

「そう、マジマジもんの本当なの!」

「だから…こうすれば思い出してくれるかなぁーって」


再び襲いくるシェリス…やばいです。

アレだ、いわゆる例のキマシタワー(百合)ってやつだこれ…

脳内でもキマシタワー!! ありがとうございます!! て流れてるし。


…ていうか避けなくて良いのではなかろうか?

むしろ自分から行っても良いのではなかろうか?

今迄生きてきた人生初の状況に興奮しながら、目を瞑り口をむっと閉じる…


――唇に感触を感じ、反射的に体がぴくっと反応する。

キマシ…目を開けると、シェリスが人差し指を唇に当てていた。


「お馬鹿さん、冗談よ。あまり変な事を簡単に信じると、ろくな事にならないわよ?」

「特に今のラスティはさ、気をつけなさい」

「う、うん…ありがとう」

「ふふっ」


からかい上手ですね、この子は。元の自分より何歳も年下っぽい子に諭されて、

ちょっと胸にくるものがありますよ。お兄さんは。いや、悪い意味じゃなくて。

と、からかい返すつもりでシェリスの両腕をがしっと掴み。

今度は自分の方から目を瞑り、顔を近づける振りをする。


「じゃあ続きを…」

「!? ラスティ?」


冗談と言おうと目を開ける……が、目を瞑り頬を赤く染め待機しているのだが。

準備万端っぽいのだが、マジか、どうしよう。

その気があるのか、それともまた冗談のつもりなのか、困惑するぜこの野郎。


とりあえず人差し指をシェリスの唇に押し当ててみる。

体がぴくっと反応し目をゆっくり開けると、瞬時に冗談だと気づいたみたいだ。


「もうっ、からかわないでよね。本気にし――」


更に頬を赤くするシェリス、なんだろう……、自分も頬が赤くなっているような気がするが。

いやいやいや、きもくない。これはこれで有りだな。全然有り。


「ふふっ」「へへっ」


少しの間が空いて同時に笑うと、既に日はだいぶ傾き夕方になっていた。

シェリスがトレイと鉄のコップを店に返し、雑貨屋ペッパーまで送ってくれるとの事。


帰り道を並んで歩きながら夕日を何気なく見ると、異常に大きく見える……。

森の中で見た月も大きかったけれど、この世界では太陽も大きいのか。

でも光や影が街並みと重なって、綺麗な光景だ。

その光景をぼんやり見ながら歩いていると、不意にシェリスが声を掛けてきた。


「ねぇ、気づいてる?」

「うん? 何が?」

「それ」


シェリスが指差す方を見ると、自分の左手が、自身の三つ編みの先端の辺りを弄っている。


「私が言わないと気づかないのよね、その癖」


自分にはそんな癖なんてなかったけれど、ラスティの体が覚えているのだろうか…。

少し疑問に思ったが、夕焼けの街並みが幻想的で、癖なんてどうでもいいと思った。


「……そうなの?」

「そうなの。ふふっ」


癖を指摘し何故かドヤ顔のシェリス。

何故ドヤ顔なのか突っ込みたいが、もう雑貨屋ペッパーの前に着いたので止めておこう。


「それじゃ、またねラスティ。バーイ」

「今日はありがとう、バイバイ」


雑貨屋ペッパーに着くとシェリスと別れ、手を振りながら見送る。

少し離れた場所で振り返ったシェリスも手を振り返してきた。

元の世界ではバイトの付き合い以外、ほぼ『ぼっち』と言っても

過言ではなかった自分にはこの状況は嬉しく感じられた。


幼馴染が女の子で、親友で優しくてかわいい……夢?

軽く頬をつねるが痛い。


「ありがとうございます」


声に出ていた。

余韻を残しながら店の扉を開け中へ入ると、おばあさんが声をかけてくる。


「おかえり。どうさね、何か思い出しでもしたかい?」

「ただいまです…ううん? でもなんとなく大丈夫な気がする」

「なんだいそりゃ…やれやれ」

「とりあえず夕飯にでもしようかの、手伝っておくれ」

「はい」


調理場(キッチン)で少しドタバタしながら夕食の手伝いをし、出来た夕飯を向かい合って食べながら今日の事を話すと、おばあさんはうんうんという風に聞いてくれた。


まるで昔からそうしてきた当然の事のような気がして、心が微妙にほっこりとしていた――

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