みんなで子づくり
「……えー、というわけで、新しくお友達になったキッカだ。みんな仲良くしてやってほしい」
竜を崇める部族の少女を連れてみんなのもとに戻ると、ホームルームで転校生を紹介する先生よろしく、さっそく彼女を紹介した。
すると我が家の娘たち──ティト、パメラ、アイヴィ、アルトの四人は、みんなポカーンとした様子になった。
フェリルだけは、我関せずといった感じだったが。
「……なぁダーリン、別に今更どうこうは言わねぇけどさぁ……なんでそうダーリンは、事あるごとに女引っかけてくるかな。……しかも可愛いやつばっか」
パメラはどこか不機嫌そうに、そんなことを言ってくる。
まあこいつの機嫌がころころ変わるのも今に始まったことじゃないから、気にしても仕方ないと思うが。
「……えっと、キッカちゃん? このあたりに住んでる子なのかな。私、ティトっていうの。よろしくね」
我が家の天使ことティトが、キッカに向かって笑顔を向ける。
さすがエンジェル。慈愛に満ちている。
しかし一方、キッカはティトたちを見てうーんと腕を組み、それから横にいる俺に聞いてくる。
「──なぁカイル。この女たち、オマエの何なんだ? こいつらとも子づくりしたのか?」
「うん、キッカ。ちょっと子づくりの話から離れようか」
キッカの言葉に、うちの娘たちの頬が一斉に赤く染まっていた。
相変わらずフェリルだけは我関せずだが──ティトやパメラはともかく、アイヴィやアルトまで恥ずかしそうにしているのは一体何事か。
「か、カイルさん……? こいつらと『も』って、まさか、この短時間に……」
「いやいやいやいや! ティト!? ティトさん!? 俺そんなに信用ないですかね!?」
「えっと……はい、わりと」
「だよねーっ!」
心当たりしかないからね最近!
残念ながらティトが正しい。俺に信用がないのは当然のことだった。
するとキッカが俺の前に出て、ティトたちに向かって言う。
「私はまだ、カイルと子づくりしてないぞ。あとでしようねって、約束しただけ」
「してないなー、その約束。した記憶ないなー」
「カイル、私のことぎゅーって抱きしめて、オマエと子づくりしたいって言ってくれた」
「うん、話をねつ造すんのそのぐらいにしとこうか」
キッカの首根っこをつかんで持ち上げてやると、その褐色肌の少女はいたずらっぽくペロッと舌を出して見せてきた。
……こんにゃろう、分かっててやってやがるな。
世間知らずかと思ったら、なかなかどうして侮れない。
そしてふとティトを見ると、少し心配そうな顔をしていた。
「……カイルさん。その子と子づくりするんですか?」
「しないよ? 信じてティト。こいつ嘘つき。俺嘘ついてない」
「してもいいですけど、その子も幸せにしてあげないとダメですよ?」
「ねぇ聞いてティト? 俺そんなつもりないから。──おいどうしてくれんだキッカ。うちの嫁が完全に誤解してるだろ」
そう言って、首根っこつかんで吊るしたキッカを見ると、少女はえへーっと締まりのない笑顔を向けてきた。
……くっそ、無駄に可愛いなこいつ。
「……ったく、ダーリンの浮気者。別に今に始まった話じゃねぇし、いいけどさ」
パメラは一人、そう言ってむくれていた。
パメラさん、嫁になると意外と嫉妬深いのかもしれない。
「あはは。外野で何も言えないっていうのも、ちょっとつらいね、アルト」
「僕に同意を求めるな」
「えーっ、外野同士、一緒に傷をなめ合おうよ~」
「えぇい抱きつくな鬱陶しい。あと変なところ触るなこのバカ!」
アイヴィとアルトは二人でイチャイチャしていた。
いや、あれをイチャイチャというのは、アルトに気の毒かもしれないが……。
そう思って見ていると、ふとアルトと目が合った。
「……同意の上だろ、いいじゃないか。そもそも何を躊躇っているんだ。チェリーボーイじゃあるまいし」
「……お、おう」
真面目にそう言われても困るんですけど。
ていうかうちの子たち、物分かり良すぎませんかね? なんでこの子たち積極的に外堀埋めてくるの?
俺がおかしいのか? おかしいのは俺なのか? この世界の貞操観念はどこへ旅立った。
なんて思っていたら、今度はアルトに背後から抱き着いていたアイヴィから、爆弾発言が飛んできた。
「ねぇカイル、アルトも今度は同意の上で子づくりしたいって」
「「──ぶっ!」」
俺とアルトが、同時に噴き出した。
「おいアイヴィ貴様! 僕はいまはそんなこと一言も……! ──ち、違うぞカイル! いまのは僕が言ったんじゃないからな! このバカが勝手に──」
「……分かってる。皆まで言わんでいい。──おいアイヴィ、お前家に帰ったら折檻部屋行きな」
「えっ、ほんと!? わくわく」
「…………」
おかしい。何かがおかしくなってきている。
「みんなカイルとの子づくりに興味あるんだな! スゴイなオマエ!」
「……なぁキッカ、もうその『子づくり』って単語を口に出すのやめて」
俺の中で、今年の流行語大賞にノミネートが決定していた。
***
「それはそうとキッカ。聞きたいことがある」
「ん、なんだカイル? ──これうまいな、おかわり!」
キッカは鍋を囲む輪に加わり、俺たちと一緒に飯を食っていた。
まあ、みんなほとんど食べ終わっていたから、一緒に食べているのは俺と超猫舌のフェリルぐらいのものだったが。
ティトがスープを器によそってやって、キッカに渡す。
キッカはおいしそうにそれをかき込み、あるいはパンを浸してむしゃぶりつく。
その幸せそうな様子を見ていると、こっちまで嬉しくなってくるが──まあ、さておき。
「あのさ、お前たち『竜を崇める部族』は、外から来た人間を捕まえてドラゴンへの生贄にしてるって聞いたんだが、それって本当か?」
俺がそう聞くと、キッカは食べるのをやめ、きょとんとした顔になる。
「イケニエ? 竜神様に? ──ナイナイ。私、竜神様の巫女だけど、そんなの聞いたことない」
「……巫女?」
「うん、巫女。竜神様と私、仲いいよ。村の誰より、一番仲良し」
そう言ってキッカは、またハグハグとスープに食らいつく。
「えっと……竜神様の巫女っていうのは、ほかの人間と子づくりしていいもんなの?」
「へっ、何で? 竜神様とキッカの子づくり、関係ないよ?」
「いや、巫女さんって、神様と結婚した扱いになるとかならないとか……」
「えーっ、ヤだよそんなの。そんな巫女いるの? 大変だね」
竜神様の巫女は、ゆるゆるだった。
「ごっそさん! おいしかった! ──じゃあ今度は私が、オマエたちを村に招待する。ついてきて」
みんなが食べ終わって片づけを終えると、キッカは『竜の谷』の道を先導して歩き始めた。
俺たちは彼女のあとをついてゆくことにした。




