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God of the Sky  作者: 青乃郁
始まる世界と終わる夜
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23/25

ウラノスの夢

 ごめん。ごめん。ごめんな。ごめん……。


 繰り返し聞こえる謝罪は俺へのものだ。

 夢を見ていた。これは夢だとわかる夢だ。

 俺は、何度か踏み入れたことがある、あの千切れた世界の中にいた。

 果てはない。先は暗くて見えやしない。闇に包まれている。床は変わらず千切れた紙で覆われている。

 でも、ひとつだけ違うところがあった。真っ暗な中に、明かりが灯っていたのだ。

 そして人影。

 俺は誘われるようにそちらへ向かった。

 小さな机の上に、燭台。その傍らの椅子に座って、優しく本を捲る人がひとり。

 黒い衣に身を包んだ男がいた。


「やあ」


 俺が近づいて来たことに気がつくと、顔を上げて言った。


「久しぶり、かな。ウラノス」


 首元まで伸びる黒い髪。二房の癖毛が風に靡くように揺れる。

 その瞳の色は——燃えるような赤だ。


「……誰?」


 優しく笑う顔に見覚えはなかった。久しぶりと言われてもわからない。


「そうだなぁ。この姿じゃわからないよね。僕も不安だけど。君の兄貴だよ」


 兄さん。

 言われても、ピンと来なかった。


「うん。それでいいんだよ。思い出さなくて良いことだったんだから。君は思い出す度に苦しんで、その役目を果たすことができなかった。君は優しいから、罪の意識に抗うことができないでいたんだ。

 君の記憶を消すことこそが、【悪魔の子】を終わらせる唯一の方法だった。うまくいかなくて何度も君は死んでしまった……でも今回は、成功したみたいだね」


 目を伏せて、彼は話し始めた。


 街から離れた森の中。小さな家で父と母、そして兄と弟の4人暮らし。病気がちな兄はいつも床に伏していた。貧しい暮らしだった。兄が生きている間は明るい家庭だった。


 兄には持って生まれた使命があった。だが、それを達成するためには身体が弱すぎた。

 兄の死から、全てが狂い出した。

 何度も悪夢を見た。兄は何度も死んだ。

 何度も、何度も。

 兄が死ぬ度に誰かが壊れた。

 兄弟は日記をつけるようになった。残る事もあるし、残らない事もあるけど手掛かりにはなった。


 結論は出た。身体の弱い兄には耐えられないのだと。


 覚悟はできていた。

 兄のせいで、このまま足踏みしてはいられない。

 ふたりで考えた。様々な方法を試した。

 失敗しても、次があった。


 最後の方法は残酷で、一番やりたくないものだった。

 それは、


「やめてくれ!」


 俺の口から飛び出た悲鳴だった。思い出したくない。


 ——それは成功してしまった。

 兄の性質を弟が引き継いだ。

 兄はいなくなった。

 兄の存在価値はそれだけだったのだ。


 弟は呪いを解く方法だけを考えた。1人ではできなかった。


「嫌だ。聞きたくない。もう、もううんざりだ!やめてくれ!」


 俺の悲痛は叫びは聞き入れられた。俺が思い出したことを彼が悟ったのだ。

 立っていられられなくて、へたり込んだ。


 ——そうだ。俺は何度も死んだ。自分で、死んだ。

 死んでも次があった。終われない。終わらせられない。


 壊れたのは俺だったのだ。


「ウラノス」

「違う。俺はウラミだ」

「……うん。ウラミ。過ぎたことはもういいんだ。忘れてしまっていい。君たちがこんな運命を辿ることになったのは、君たちのせいじゃない。俺たち、が……」


 彼が口を噤んだので顔を上げた。


「いや。これ以上の説明は明日にしよう。君の記憶について、話しておきたかったんだ。

 実家で待ってるから。皆で一緒においで」

「明日?実家?」

「そう。死神が全部わかってるから心配しなくて良い。

 ……終わりにしよう。君たちは、始まらなきゃいけない」

「終わるの?本当に」

「終わるよ。始まりがあれば、終わりもある。終わらない夢は、彼女だけのものだよ」

「彼女?」

「夢を見続けて、本当の自分を見失ってる可哀想な子がいるんだ。君も、その一人だったろう?」


 いつの間にか側に立っていた彼が、俺に手を差し伸べた。赤い瞳が優しく促す。

 その手を取った。


「さあ、目を開けて。死神が待ち遠しそうに覗き込んでいるよ」


 夜の終わりが来る。

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