1ー2
「いいか、そこを動くなよ?」
十六才になった僕は、木登りをして降りられなくなっている子猫にしっかりと言いつけた。
「すぐたすけてあげるからな」
「ゼロス、子猫なんか自分で降りられるよ。早く川に遊びに行こうぜ?」
親友でうさ耳族のタケルは川遊びが大好きだ。
あまり食べられもしないのに、魚釣りにハマっている。
「そんなこと言うなよ。すぐ終わるから、先に行っててもいいんだぜ?」
「そこまで言われちゃうと、僕が悪いうさぎみたいになっちゃうじゃんっ」
唇をとがらせるタケルを尻目に、僕は木を登りだす。
まったく。登るんなら降りることも考えろよな、なんて僕の独り言をタケルはあっさり無視してくれた。
そしてようやく、子猫を抱き上げると、無駄に威嚇してひっかかれてしまった。
「おい、命の恩人になんてことするんだよ?」
すると、ふいにタケルのうさぎの耳がぴくりと動いた。
草を踏む複数の足音が、たしかに聞こえる。
「タケル。隠れろ」
「え? なんでさ?」
「この場所は川に行くための近道だけど、本当は王族の皆様が通る領土なんだ。見つかったら殺されるかもしれないんだぞ」
素早く木から飛び降りて、子猫を草の上に放すと、渋るタケルの手を引き、草むらに隠れ潜んだ。
「たしか、このあたりです。キャロル様」
うん? キャロルだって。キャロルってのは、十年前に会ったことのある、あのキャロルのことか?
期待に胸を躍らせていると、はたして。金髪の女神があらわれた。
「GPSはこのあたりをさしているのよね。コタロウ〜、いたら出てきて?」
間違いない。あのキャロルだ。
でも、僕は獣人。王族の姫君であるキャロルに、ここで見つかるわけにはいかない。
だって、彼女が僕のことをおぼえていてくれてるかなんてわからないからさ。
キャロルのコタロウという名前に反応したのか、さっきの子猫がミャアと鳴く。
「コタロウ。こんなところにいるなんて。……誰っ!?」
うかつにもタケルが小枝を踏んで、僕たちは見つかってしまった。
「あ、あのっ。僕はゼロス。こいつはタケル。川に行こうとしていたら、その猫が木から降りれなくなっていたんだ」
「ゼロス?」
キャロルは考え込むように僕を睨見つけた。幼い頃の面影もあるけど、今の彼女はとても美しい。
「ゼロスって、十年前に会ったあのゼロスのこと? 二人で花かんむり作った?」
「そう! まさかおぼえていてくれたなんて」
僕は感激したけれど、キャロルの側についていた執事は腰から銃を抜いた。
「お姫様に気安く話しかけるな」
「わ、わかってます。ごめんなさい」
僕たちはホールドアップした。
「待って」
その時、鋭かったキャロルの翡翠色の瞳がきらりと輝いた。
つづく




