第十四話 一流レストランのシェフ来店
びっくり屋はなぜ人気があるのかというと、それは言うまでもなくびっくりするようなへんてこりんな名物爺がいるからなのは間違いないが、一方料理の方もなかなかの人気ぶりであった。ある日、そんな人気の店があるとの噂を聞きつけた都内某所の一流レストランのシェフがやってきたのである。
一ヶ月前に遡るが、そのシェフは店の人気が低迷してきた原因のひとつに自らが創作している料理に一因があることを悩む日々を送っていた。そんな中、店のコック達からこんな話を聞くのであった。
「びっくり屋という定食屋が、うまいということで人気上昇中らしいです」
「どうも店名の由来はびっくりするような爺がいるからだそうですが、料理もびっくりするように美味しいとの噂なのです」とコックが熱心に語ってくる。
「ふむふむ、そんな店があるとは知らなかった。今の当店の課題解決の一助になるかもしれないな。一度足を運んでみようか」とシェフは期待を抱いた。
「ほほー、これがびっくり屋かぁ」「見かけは普通の定食屋に見えるがな」
シェフは独り言を呟きながら店の扉を開けた。
「へい、らっしゃーーーい」とへんてこりんな爺が向かい入れた。
「あなたは、この店の名物爺さんですか?」
「はぁ~~~~~?、なんじゃってー」
「違うのですか?、どうみてもびっくりするような容姿ですが」とシェフは問いただした。
「はぁ~~~、お客さんはわしのことを見ると確かにびっくりしているがね」
「やはりそうですか、ところでその『はぁ~~~』っていう言葉はなんなのですか?」
「はぁ~~~、そりゃわしの口癖じゃい、ほっとけーーー」
あまりにも紳士的な客を前に、はぁ~爺は少しご立腹な様子である。
シェフは店に来た目的を思い出し、さっそく壁に貼ってあるメニューに目を走らせる。
トンカツ定食、肉野菜炒め、サバ煮定食、親子丼、チャーハン、カレーライス、ラーメンといった一般的な定食屋で見かけるような並びであった。
「うーむ、どこに秘密があるのだろー」と頭を傾げた。
「おじいさん、お勧めのメニューはなんですか?」
「はぁ~、全部おすすめじゃー」とはぁ~爺は自慢げに答える。
「そうですかぁ、ここのお店の料理がおいしいとの評判を聞いてきたのですが、おいしさの秘訣はなんなのでしょう?」ストレートに質問をするシェフ。
「そりゃ、もちろんおかみさんの料理の腕前じゃよ」ますます有頂天になるはぁ~爺であった。
すると奥の方から「やめてくださいよー、爺さん、わたしは愛情込めて作っているだけですよ」と声が聞こえてきた。
その声に引き寄せられるようにシェフは厨房へ向かっていった。そこにはフライパン片手に料理をしているおばさんの姿があった。
「あなたが作っているのですね。お勧めの料理を教えてください」と言いながら名刺を差し出した。
『○○○ホテル 総料理長』と書かれていた。
それを手にしたおかみさんはビックリ仰天しながら言う「なんで、あなたのような方がこの店に?」
「巷で噂のびっくり屋の味を確かめに来たのです。なにか食べさせてください」
「そうねぇ、じゃ『きんぴらハンバーグ定食』なんて如何でしょう?」
「では、それをください」
しばらくすると、シェフの前に「おっまちー」と言いながらはぁ~爺が料理を運んできた。
その料理を間のあたりにしたシェフは「なんとも一般的なハンバーグだ」と思いつつも、箸を手にとりハンバーグを口へ運んだ。
「な、な、なんじゃ、この食感は」「きんぴらごぼうが絶妙なイントネーションを出している」
「ハンバーグ自体はごく普通のようだが、このきんぴらごぼうとの組み合わせがポイントなのだな」とシェフは頷いた。
「ハンバーグときんぴらを組み合わせるなんて、いかにもびっくり屋らしい発想だ」「私もこれからは食材の個性を生かしつつ、組み合わせを工夫するよう精進せねば」と志を抱いた。
食事を終え、帰りがけにシェフはおかみさん、そしてはぁ~爺と握手を交わし、お礼を言って店を後にしていった。
その一か月後、都内某所の一流レストランのメニューに『きんぴらハンバーグ』が追加されたのであった。メニューの料理名の横には『びっくり屋直伝の一品』との添え書きもあった。




