黎明をもたらす者達②
コロニーが割れ、闇を裂くように陽光が差し込む。Ms.ハルニアは動いていない。気を失っているんだろうか。
あぁ……勝てた、勝てたけど結構ギリギリだったな。でも天秤の傾きは僅差だった。少しは代償を貰うんだろうなぁ……
横を見ると朝火が見えた。意識を失っていて重力に逆らって落ちていく、リンクルも同じだ。ふたりは意識を失っている稀梨華を守っていてくれた。限界なはずだ。
「落ちたらみんな死ぬ……」
どうする、あと数十秒で地面に着く。それにイロアスが来る前になんとかして菖ちゃんを助けなきゃ。Ms.ハルニアが憑依してるのは菖ちゃんの体なんだから。菖ちゃんがこの災厄を起こした犯人にされちゃう。
でも力が練れない、もう残ってない……
その時、鷲の荘厳な声が高々に響いた。
次に目に入ったのは鮮やかな空……だと思ったが違う、鷲だ。ターコイズブルーの大きな鷲だった。
その鷲は稀梨華達の下に回り込む。そして力強い腕が稀梨華の手を掴み、鷲の背に朝火とリンクルが落ちる。クッションになったようで大きな怪我は無さそうだ。
そして稀梨華の腕を掴む。この鷲を操っているのは……
「白瀬さん……!」
「やぁ、よく頑張ったね」
白瀬は腕に力を入れぐいっと稀梨華を引き上げる。
「白瀬さん!あの子、Ms.ハルニアに憑依された子を助けてください!」
頭を下げてお願いする。たしかに唆されてMs.ハルニアに体を貸したのは菖ちゃんだけど、そこに至るまでの事も理解して判断してもらいたい。
「うん、分かってるよ」
ぽんと稀梨華の肩に手が置かれた。ぱぁっと稀梨華の顔が明るくなった。
「じゃあ………」
その時、喉が焼かれるような痛みがして思わず咳き込んだ。耐えられずそのまましゃがみこむ。その異変に気づいた白瀬が地面に降りようと鷲を操る。高度を下ろし、地面に降りる。白瀬が稀梨華の背中をさすり、落ち着いた声で問いかける。
「稀梨華ちゃん?大丈夫?」
しかし稀梨華は答えられなかった。
どうしたんだろう。最初は喉が痛かっただけだけど今は息ができない。もしかしてこれが代償なの?
「白瀬!」
そこへ到着した第三機動隊隊長の皇が駆けつける。
「救護班を呼んでくれ、朝火もリンクルも怪我が酷い。それに稀梨華ちゃんはエルピーダ枯渇症かもしれない」
それを聞いた皇の顔色が変わり、すぐに無線で救護班を呼ぶ。
すぐに救護班が駆けつけ、白瀬と皇が3人を救護班に引き渡す。
「それにしても今回の件は相当厄介だな」
皇が白瀬に言う。これほどの計画性と強大な力だ。何か大きな力が働いている可能性がある。
「あぁ。まずはMs.ハルニア……菖ちゃんって子の所に行こう」
2人は崩壊した街を歩く。状況は悲惨だ。
「はぁ……修復にどのくらいかかることやら」
「まぁ今は技術も進んでいるしね」
「例の復元装置のことか」
「そうそう。あ、あの子みたいだね」
白瀬の視線の先にいるのはぐったりした様子で倒れている菖だった。Ms.ハルニアの気配は感じられない。ペンダントが割れた事で憑依はできなくなったんだろうか?
「とりあえずこの子を病院に運ぶか」
「うん。憑依の影響で体に何が起こってるか分からないからね」
白瀬が菖に触れようとした時、後ろから何かが飛んできた。音的に刃物。
すぐに気づき、腰に携えてある剣を素早く抜き弾き返す。弾かれたナイフが地面に突き刺さる。
「白瀬、平気か?」
「あぁ。平気だ」
「気をつけろ。仲間が潜んでるかもしれない」
皇も剣を抜き、奇襲に備える。風の音が不気味なほど響く。その風が一瞬乱れたことを白瀬だけが気づいた。
「来るよ」
静かに宣言した瞬間、時空が裂けた。そこから出てきたのは、黒と赤が基調の派手な飾りが付いた服装の動物の骨の被り物を被った男。
男は一直線に2人の方へ向かってくる。片手に大鎌を持っている。大鎌は禍々しく黒い光を纏っている。まるで死神みたいだ。
大鎌が2人に向かって大きく振るわれる。
2人は地面を蹴ってそれぞれ左右に跳んで回避する。
すると2人の数m上に真っ黒の星が現れる。それは黒の光の帯を纏っている。
そしてローブの男が指を指を下ろすとその星にものすごい重力がかかる。このままじゃ重力に押し潰される。
それを白瀬は頭上に風のエルピーダを使い竜巻を発生させ真空を発生さ、皇は炎のエルピーダを使い数千万度まで高め熱膨張により空間を歪ませそれぞれ重力に押し潰されることを回避する。
「中々やるな。こいつを避けるなんて」
「はっ、そいつはどーも」
「黒の光……闇のエルピーダか」
「ご名答。さすがパラティシリィだ」
ローブの男は大鎌を肩にのせる。
「でも今日はお前らと本気でやり合うつもりはねぇんだ」
「俺はこれを回収しに来ただけでな!」
地面を蹴り、一直線に走りまだ気を失っている菖の襟を掴んで逃走を図る。
「白瀬、お前が先にいけ。」
「絶対逃がすな」
「了解」
白瀬はあの鷲を召喚し、上空から骨の被り物の男を追う。
骨の被り物の男は崩落した街を駆け抜けながら追いかけてくる皇にエルピーダをただ放出しただけの砲弾を放つ。それを皇は剣で弾きながら追いかける。
そして骨の被り物の男はビルの屋上に逃げていく。それを確認した皇は無線で白瀬に連絡をとる。
「白瀬、あのビルの屋上だ。挟み撃ちにするぞ」
「わかった」
骨の被り物の男は屋上まで逃走した。辺りを見渡す、皇の気配は感じられない。
「ふぅー ……ここまで来りゃさすがに」
その時、骨の被り物の男の肩に手が触れた。
「捕まえた」
驚いて振り向くとそこに居たのは白瀬だった。
「もう逃げられねぇぞ」
そして後ろから聞こえたのは皇の声。挟み撃ちにされた。
「……へぇ~。白い方の気配は最初から無かったからどこかにいるとは思ってたけど」
「炎の君の方は途中で気配が無くなったから撒けたと思ったんだけどな」
菖を肩に背負い、片手を前から後ろに引くと大鎌が出現しそれを持ち大きく振るう。白瀬と皇はそれを当然避ける。その隙に後ろに大きく跳び。柵に立つ。
そして大鎌を手から離すとそれはどこかに消える。
「だが俺も引くわけにはいかねぇんだ!」
そしてその手を空にかがげるとそこに巨大なブラックホールが出現する。
「エンド・オブ・アビス」
「これはあの方に貰った力だ。この一帯を塵にするぞ!」
ブラックホールはどんどん大きくなり既にビルの屋上の空間が歪み始めている。
「塵にする、か。そいつは困るな」
「あぁ。全力で止めさせてもらうよ」
両者の間に冷たい空気が走った時、骨の被り物の男の後ろの時空が裂けた。出てきたのはこのワープを操っている男だ。朝火をビルから突き落とそうとしたのもこの男だった。
「あの方から伝言。さっさと引き上げろだってさ」
「あ?まだまだこれからだって言うのによ」
「ま、あの方の命令ならしょうがない。また会おうパラティシリィ」
そういうと2人ともビルから飛び降りる。下にワープがあったのだろう。白瀬と皇がビルの下を見た時にはもうあの二人の姿はなかった。
あの災厄から数日経った頃、ようやく稀梨華が目を覚ました。情報屋を営んでいる朝火のおじいちゃんの紹介で修理が終わったリンクルが病室にお見舞いに来ている。朝火は既に回復しており、店の状況や自分の姉のお見舞いに行っているため後で来ることになっている。
リンクルは前に来た時に置いておいた花の水換えをしながら口を開いた。
「稀梨華ちゃん、体調はもう大丈夫ですか?」
「うん、だいぶ良くなったよ。やっぱりこの指輪のおかげかな」
指につけたブラックダイヤの指を見る。役目を果たしたのか宝石にヒビが入っている。それでもお守りとして身につけている。
「良かったです。でもまだエルピーダ枯渇症の方は良くはなっていないんでしょう」
「あー、そうだね。でも軽症だし大したことないよ!」
エルピーダ枯渇症、稀梨華がなった病だ。これはエルピーダを所有する人がなる病。原因は生まれつきだったり突然だったり様々だが1番多いのはエルピーダを過剰に使った時だ。
名前の通りエルピーダが一時的またはずっと減少する病。通常エルピーダは保有量は決まっているがそれが永久に無くなったりする訳では無い。エルピーダは休息をしっかり取れば元の保有量にもどる。
しかしエルピーダ枯渇症はその保有量が元に戻らず減少するものだ。現在は軽症であれば薬で元に戻すことができるが重症であればそうはいかない。
エルピーダは元々体にある寿命のようなもの。それがだんだん無くなると体に異常が起き、最終的には死に至る病だ。
「それでも発作があるでしょう。僕もサポートしますので一緒にがんばりましょう」
発作、エルピーダが急に減ったことによっ起こるもので息苦しさや動悸を引き起こす。
「うん!ありがとうね、リンクル」
「はい」
稀梨華の元気そうな笑顔を見てリンクルも安心した。
「暇だしテレビでもつけよっか。個室だし」
電源を押すと東京の厄災の事ばかりが報道されている。
「菖ちゃん、結局連れ去られちゃったんだね……」
「そうですね……でもいつか必ず僕達が連れ戻しましょう」
「うん。もちろんだよ」
そしてニュースが変わった。ニュースキャスターが読み上げる。
「速報です。今週末に開かれる主にエクロスや最新のエルピーダを使った技術品の意見交換として開かれる交流会にゾディアックと名乗る人物から犯行予告があったと主催者側が明かしました」
「これにはフロンティア連邦の富豪ミスター・ボブ氏を含む著名人や、パラティシリィが参加予定であり……」
「へぇ~フロンティア連邦かぁ」
「……フロンティア連邦ですか?」
「ん?そうだけど……ってどしたの?そんな深刻そうな顔しちゃって」
何も言わずに黙っているリンクルに稀梨華が話しかけるが答えない。
……フロンティア連邦?
リンクルがコアに検索をかける。
該当結果、なし
おかしい。アストライヤ様に貰った歯車には地球の常識が組み込まれていると言っていた。その歯車のデータの中にフロンティア連邦と言う国は存在しない。
「稀梨華ちゃん、フロンティア連邦ってどんな国ですか?」
「え、えーと……多分外国と言ったらフロンティア連邦がみんな思い浮かぶくらい大国だよ」
「あとは……あっイロアスの本部があるところだよ!」
「なるほど……」
「でもそれがどうしたの?……おーい?リンクル?」
やっぱりおかしい。これほどの大国ならアストライヤ様が間違えるはずがない。
アイテールすら把握できていない事が地球に起こっていると考えるべきか。
どちらにせよアストライヤ様に確認しなくては。
同時刻。とある地下病院。
白衣に身を包む金髪の長い髪を1つに結んだ男が、ベッドで激しく咳き込む小さな金髪の女の子の背中をさすっている。
「お兄、ちゃん……私はいつになったら、他の子と同じように、生活できるようになるの?」
「大丈夫や……兄ちゃんに任せとき」
白衣の男は片手に持っている書類を見て眉を顰める。その片手が震えているのは怒りなのか。書類をぐしゃりと潰す。
……今回の仕事が上手く行けば、もっと金が入る。そうすればもっといい薬が手に入る。
「不甲斐ない兄さんで悪いな、もう少しの辛抱やから」
女の子を優しく抱きしめ、頭を撫でるその手は優しかったが目はギラギラと鷹のように光っていた。
「もう少し待っててくれ」
To be continue ……




