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告白

 一歩、また一歩とゆっくり近付く亡霊。否、銀鬼。ミィイシアだった。

 特徴である銀髪は乱れ汚れ、木の葉や小枝が覗いている。軍服もあちこち土が着き、所々破れている。

 近付いて来るにつれ、あの美しい顔も擦り傷、切り傷。涙と鼻水だろうか土と混じり合って汚れているのが判る。

 美人でもこんな状態になるんだと、身体は動か無いが俺の脳は変な事を考えている。


「お捜し、しました。殿下。」赤い瞳が妖しくギラギラと赫く。

 危険。危険。危険を具現化した様な存在に見えて来た。とにかく『鬼』だ。

 赤い瞳と俺の視線が交わる。

 まずい。殺気が発せられているのが判る。赤い瞳に見据えられた俺の身体が動かない。銀鬼が駆け出す。真っ直ぐに此方へ。視界が銀鬼で覆われる。何も考えられない。


 さっきまで変な事、考えてたよな。

 そう思い出したのは、リィリィが割って入ってくれたからだ。見れば、皇子も凍り付いた様に動かない。

 俺に掴み掛かろうと手を伸ばす銀鬼、ことミィイシア。抑え込もうとしているリィリィ。二人が取っ組み合っている。速く何とかしないと。止める方法は、

 世界最強戦力二人。力尽くは、殺されかけた俺が言えることじゃ無い。あの時、リィリィが止めてくれなければ物言わぬ肉塊と成り果てていたろうな、肉片でも残れば良い方か。

 否、リィリィを置いて先に逝く訳に行くか。

 これからも隣に居ると約束したんだ。

 共に過ごすと約束したんだ。

 寝起きを共にし、一緒に料理を作って、食事して、そういや豆茶の買い置きが、

 いかん、思考逃避だ。

 とにかくミィイシアが大人しくなれば済む事だ。ケンカしたい訳じゃ無い。

 ええい、どうやって落ち着かせるか?

 だが。

 俺が何を言っても鎮火はし無いだろうし。

 皇子の説明?説得?命令?この状況で通じるか?

 俺への憎悪だけで動いてる様だしなァ。


 連合、帝国の戦神姫同士の取っ組み合いが続く。


 考えろ、考えろ。

 冷静にさせる言葉。動きを止める言葉。

 精神的に打撃を与えられ、思考をまっさらに出来る、頭を凍り付かせる様な、脳内を激変させられる、

 何か無いか?

 何か無いか?


 !!


 今も固まる皇子に近付き、俺は囁く。

「皇子様。ミィイシア嬢に想いを告げるなら、今です。」

 皇子サマは未だミィイシア女史に想いを伝えてい無い。

 否、お互いに想いを言葉にして相手に伝えてい無い。だった、ハズ。

「このドサクサに紛れて、言っちまいましょう。」

 大事にしたいのも判る。雰囲気や環境を整えて、キチンとして自分の気持ちを伝えたいだろう。

 だが、気恥ずかしいのも、また事実。

 ならば、という事だ。


 視線をずらして考え込む皇子様。

「今、絶好の機会だと思うのですが。」

 囁く俺は邪の手先か、善の遣いか?


 皇子サマは、困った。と言う顔をして俺を見る。

 え?


 ああ、そうですか。

 一応、人生の先達ですしね。経験は少ないですが。

「簡単で。一言で良いんじゃないですか。」

 この状況では、言葉を数費やすより、伝わるのでは。と思う。少ない経験からですが。

 皇子サマ、意を決したのか整った顔が、より凛々しくなり、力強く頭を縦に振る。

 やる気充分、ってとこか。


 一歩前へ出て踏ん張ると、上体を反らして大きく息を吸い込む。口周りに両手を添えて、


「ミィイシア。好きだ!!」それで充分。


 リィリィとミィイシアの取っ組み合いは掴み合いに変わるが、


 あれ?失敗した?

 未だ続いている。

 皇子は『考えていたのと違う』と言う顔で俺を見る。

 うーん。上手く行くと想ったんだが。

 ん、何か様子が....


 掴み合いは取っ組み合いに戻ったが、ミィイシアの攻撃が空振りする事が増えて来た。

 良く見ると、避けるリィリィの顔がニヤついている。

 ミィイシアの動きが徐々に緩慢になってきた。

 やがて、ミィイシアの膝が地に着く。

 遂に両手が着き、頭が垂れる。

 ミィイシアは動か無くなった。


 ほっと、息が抜ける。上手く行って良かった。

 皇子サマを促し、二人に近付く。

 リィリィは笑顔でミィイシアの肩を、ポンポンと叩いている。

 近付く俺達に気付いたリィリィは、俺に向かって、ちょんちょんと自分を指差す仕草をする。

 それに『解ってる、後で』の意味を込めて頷いておく。

 ミィイシアは細かく震えている。髪を垂らして顔は見えないが、首から上の皮膚という皮膚が、これでもかと云う程に真っ赤になっている。

 リィリィは俺の隣に来ると腕を抱き、頭を預けてくる。

「好きだ。」

 小声でささやく。

「ふふっ。」小さい笑い声。

 満足頂けましたかな。


 皇子様はミィイシア女史の正面で片膝を着き、地を着いている両手を取る。

 ミィイシアの見上げる顔は真っ赤。涙目になっている。

 皇子はミィイシアを立たせる。手は取ったまま。今度は皇子がミィイシアを見上げる格好だ。

「ミィイシア。こんな形で済まない。

 聞こえただろうか?」

 ミィイシアと皇子は互いの視線を離さ無い。

 余計な事だが、あんなに真っ赤なんだ、聞こえてい無いハズは無いだろう。口には出さないが。

 それ位は雰囲気を読むさ。


 皇子の言葉が続く、

「改めて言う。『好きだ』、私の心を受け取って欲しい。」


「いいなぁ」の呟きが隣から漏れ聞こえる。

 発注、承りました。前のと同じで良いか?


「そなた、否。あなたの居場所は私の隣だ。」

 ミィイシア女史、何度も何度も首を縦に振る。涙が止まらない無い様なのだが、皇子サマの顔は見えているのだろうか?

 今、皇子サマの顔は眩しく輝く程の笑顔だ。


 それにしても、皇子様。本当に未成年ですか?歳、偽ってませんよね?


 うーん、良いものを見させて貰いました。って、ところでしょうか。ちょっとニヤつきが止まらない。リィリィめ、自分もニヤニヤしながら突付いて来る。


 無粋なのは解ってる。だが、何時までもこうしている訳にもいかんのだ。

「さて、お二方、関係者も全員揃ったところで、改めてお話し合いの続き。といきましょうか。」


 ミィイシア女史。その物騒な目付きは、皇子サマを連れ去ったからですか?、それともイイトコロなんだから邪魔すんな、ってヤツですか?


 あ、全部か。

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