進路針路
今、俺の前には、眉目秀麗な帝国の皇子様で帝国戦神姫のパートナー。学業優秀で礼儀正しい美少年。
その隣には絶世の美女。世界最強戦力の一人、帝国の戦神姫。
その二人が寄り添う様に座り、互いの手も重ねられている。
しかし、ミィイシア女史。皇子様にもたれ掛かるって、どうよ?
相手は惚れた男だからって、未だ未成年だぞ。
いくら両想いでも体格差があるだろう、君の方が歳上、お姉さんでしょうが。全く。
皇子サマも何て事無い様な平気な顔をして。
二人とも、顔がほんのり朱くなってますよ。
俺の表情筋を試さないで欲しいものだ。ほら、俺の隣に座るリィリィの口許も不自然に引き締まってる。
それと、ミィイシアさんや、ちらちらと此方を見ないで良いから、未だ警戒するのは判るけど何にもし無いから。
あれ?
そういえば瞳が、赤く無い。
皇子様の説明だと、
ミィイシア女史は身体能力を上げると、瞳が赤くなる。のだそうだ。普段の色は金色。
と、云うことは瞳が赤く無い時は常人と代わらない、と。ふむふむ。
それはさておき。
さて、我々のこれからの事だが、どう説得するか。俺の計画はリィリィには、もう既に話はしてある。皇子様達にはこれから納得して貰わなければ。
「貴方方が帝国に亡命する。」皇子様達から提案されました。
まぁそう来ますよね。帝国の皇子様ですし、取り敢えずは選択肢として。
しかし、
「それも、考えました。」
「ですよね。」
皇子も取り敢えず言うだけ、言った。の体だ。戯れ言の類。考慮の欠片にも与し無い提案。だったのだろう。
皇子様達の事が在るのに、何しに行くの?ってなりますよね。それが嫌でこうしている訳だし。
一緒に帝国で暴れますか?
最後の最後の手段ですかね。
俺達が帝国に行っても皇子の評価が更に上がるだけ。他の事は変わらない。問題の解決にもなりゃし無い。
優秀と評判の皇子様の婚約話が進み、いずれ何処かの貴族令嬢と結婚。その時ミィイシア女史は。
「『娘を正妻にするなら、ミィイシアを愛妾にする事を認める。』と言ってきた貴族が居たな。」皇子サマ、嗤ってる。
解ります、解ります。
で無ければ、引き離された挙げ句、他の男と組まされるだろう。
なにしろ最強戦力でその美貌。手に入れたい男は多いんじゃないか?今までは皇子様の保護下だったけど、新しい相手はどんな扱いをするやら。
リィリィがどんな扱いを受けて来たか、見て来た俺には判るつもりだ。最悪なんて、安易すぎて考えたくも無い。
それまで聞いていたミィイシアの表情が消える。皇子サマが重ねていた手に力を込めて握る。まぁ、当人には衝撃だわな。
それにだ、更に帝国をアテに出来ないのは、
「貴族以外は人間扱いし無い方々が多いと聞きますし、先行き、不安しか有りません。」
初めの内位は優遇されるかも知れ無いけど。
連合加盟国にも居るが、貴族だからって何であんなに全能感を持っているんだ?
此方は人外視される平民だしな。そんな所態々行かなくても良いだろう。
皇子様もそんなことは端から判っているし。俺達が帝国へ行くより、どっちかと言うと、皇子様達を帝国から連れ出す方が重要だ。
「ならば、我々が連合へ」
「あ、それは無いです。」俺は手を振って答える。話からすれば順当だが。その提案は御断りさせて頂きます。
連合だって、帝国に負けず劣らず、主導権を巡る権力争いが激しい。
リィリィの取り巻く環境が平穏に見えるのは、戦争目的の完遂があるからだ。
と、カッコいい事言いたいが、実際の所、単に睨み合い、牽制し合っているだけだったりする。自分が手に入れられ無いなら、他の手に渡らない様に邪魔をする。そういう状態なだけなのだ。
これで連合に、皇子とミィイシアを迎い入れてみろ、言葉は悪いが、
飢えた獣の群に肉を放り込む様なものだ。
戦神姫か....獣が....止めて置こう。
兎に角、二人目の戦神姫だなんて、可能性が有ると勘違いする連中が、ほぼ確実に、絶対に出てくる。下手をすると、帝国そっちのけで連合内が内乱だ。否、帝国を巻き込んで群閥割拠な戦乱に発展するかも知れん。そんな事に巻き込まれたく無いし、皇子達を巻き込ませたく無い。
それらを皇子達に説明する。
皇子は沈黙。正面を見詰め、視線が固まっているところを見ると、頭を目まぐるしく働かせているのだろう。
ややあって、
「第三の方法ですか。」皇子が呟く。縦に頭を振る俺。結論も出ている事だろう。
「どの様な案ですか?聞かせて下さい。」
答え合わせ?
「大した事じゃ無いですよ。」予め断りを入れておく。大層でもなく、奇を衒うでも無く、変に期待されても困る様な案だ。
「作れば良いんです。」
極、普通に辿り着ける答え。皇子の顔に驚きは無い。
「帝国は無理。連合はアテになら無い。
なら。」
ちょっと勿体振る。
「作るんです。
帝国でも無い。連合でも無い居場所を。」
それは当然の帰結。だと想うのだが。
「簡単そうに聞こえますね。」言葉に嘲りや蔑みは感じ取れ無い。
「俺達には世界でも一、二の、世界最強の、」
言っていてちょっと思い付く。
「将来の嫁が居るんですよ。
二人も。」口許が歪みそうだ。
皇子様が虚を衝かれた顔をする。
ミィイシアも何故か固まっている。
が、
それはそれは、瞬き一つの間に真っ赤になった二人。
ああ、もう。表情筋が鍛えられてしまうじゃあないか。初々しいねぇ。考えて居なかった?それは無かろう。いずれは、と思っていたんじゃ、あぁ、そうだこの二人は一合目を越したばかりだった。
ん?皇子サマ。真顔で。どうしました?
「嫁。」一言。
は?
「嫁が二人?」不思議そうですね。
「どうかしました?」それが何か?
リィリィが俺の腕を抱き、身体を預けて来る。どした?
「半年後、嫁です。」少しはにかむリィリィの発言。
え、何?、目の前の二人は何故にそんな驚いて居るのかね?
ちゃんと節度は守ってますよ。半年後にはリィリィも晴れて成人ですし。それからですけどね
夫婦になるのは。
皇子様も成人まで同じ位でしょ?
もう少し後か。
ええぃ、そうじゃ無い、話が進ま無いぞ。
縦深戦術かよ、恋愛話の効果は甚大だなっ。
「ダン殿があんな事、言うのだもの....。」
皇子サマの御言葉に反省。ミィイシア女史、それ位にしときなさい。穴、開くぞ。
大分、明後日になってしまった。何処まで話したんだっけ?
「行く先を、これからどうするか?ですね。」助かります。流石、皇子様ですね。
「その前に、今一度、お尋ねしますが、帝国に帰る気は?今更ですが。」
「本当、今更ですよ。」少し呆れた風。「ダン殿の話を聞いて大人しく帝国に帰る。」
「殿下....。」ミィイシアが向ける眼差し。
皇子は優しい顔で応える。
「『マレナウヴス』と呼んで欲しいと言っただろう。」おやおや、名前で呼ばせますか。そうですか。
皇子は俺に向き直る。今日は表情筋に過負荷が懸かってしょうが無いぞ。
「私は前のままで居る事を望みません。
帰れば、帝国は血の海か血の雨となるでしょう。
誰の手が血に塗れるか判りませんが、
私としては、それなりの縁や所縁は有るので、出来れば、見たくないし、避けたい。」なかなかに怖いことを仰る。
「私達を捲き込んだんですから、最後まで責任を取って下さい。」笑顔の皇子様。結構迫力有りますね。
「それは勿論。」此方も笑顔で答える。迫力は無いだろうな。
それじゃあ、行くとしましょうか。




