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第三捕手のみっちゃん  作者: 房一鳳凰
第三章 覚醒編
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第79話 最高のファンサービス

「ブルペンデーは山木がスタメンマスク、私は休養だと言われた。全ての体力と知力を明日に注ぎ込める」


「みやこもたまには休まないとね。それにしても明日じゃなくて明後日でよかったよ。これで8勝目も見えてきた」



 監督とコーチたちを相手に必死の交渉でみやことのバッテリーを守り抜いた、それは黙っておいた。嘘までついてチームよりも自分の要望を優先したのはかっこ悪いなと思ったからだ。監督たちを騙しちゃったのも少し良心が痛んだ。


 あそこまで名女優になれるなんて自分でも驚きだった。去年は砂川を怒らそうとした小芝居が実はバレていた、そんなこともあったけどあれは砂川が鋭すぎただけだ。


(うーん……完璧な演技だったけど反省だな)


 これからはもっと胸を張れる正攻法で周りを納得させたい。名演技で騙すのは今回限りにしよう。





 わたしが帰った後のチーム首脳陣。真面目な話し合いの直後とは思えないほど笑いに包まれていたらしい。


「ほっほっほ、終始目が泳いでいましたね、彼女」


「弱点や癖がどうこう言っていましたが………あの大根役者ぶりが一番の弱点でしょう。やはりみっちゃんは木谷がちゃんと支えてやらないとダメかもしれませんね」

 

「しかし太刀川が我々相手に食い下がったのは自分のためではなく木谷のため、そこがいい。木谷のメンタルを考えてバッテリー継続を訴えた。ならば我々も騙されたふりをしてやるのが正解だ」


 談笑しているのはわかったけれど話の内容までは聞こえなかったとスタッフさんが教えてくれた。きっと真剣で息が詰まる作戦会議の後だったから面白い話もしてバランスをとっていたんだろう。わたしは無関係だ。多分。





『ブラックスターズ先発の太刀川みちは7勝1敗、イニング数と完投回数ではトップ独走!7勝もリーグトップです!』

 

『そして打率は9位、本塁打は4位、打点は首位…いずれも僅差ですからね、この先更に楽しみな選手ですよ』


 投手太刀川みちの評価は人によってバラバラだったけど、打者太刀川みちはありがたいことにほとんどが高い評価だった。あのカルビッシュですらわたしの打撃センスは本物だと書いていた。



『一方のコイプリンセス、先発の森嶋 (さと)は6勝、しかし6登板で6勝とパーフェクト!実力も運も完璧な大物ルーキーです!』


 大卒ルーキー森嶋、まだ無傷の全勝投手だ。ブラックスターズも彼女の前回登板では無得点に終わり、プロの厳しさを教えられてしまった。新人にいいようにやられてしまうなんて、二度目は許されない。


『今年から本格的に投手挑戦の太刀川もルーキーの森嶋も、最初は相手チームもノーマークだったかもしれません。しかし活躍して研究され、何度も対戦するうちにうまくいかなくなるでしょう。そこを乗り越えて真の一流選手になれます』

 

 

 そろそろどのチームとも二回目、三回目の対戦になる。短いイニングでしかも全球全力で投げられるリリーフと違って、先発投手はほんとうの実力が足りないとここまでだ。


 初物に弱い、変則フォーム、勢い、ラッキー……そんな言葉が勝因に挙げられるのは一度か二度が限界。変に目立ったせいでわたしも他球団からしっかり調査されてしまうはず。どうせまぐれなんだから太刀川は調べなくていいや、そう思ってくれたら最高だけどまず無理だろうな〜。



「うお―――――――――っ!!」


「…………!!」


『見逃し三振!太刀川のストレート、ほぼど真ん中でしたが鈴本は手が出ません!』


 わたしの最大の武器はまだ攻略されなさそうだ。広島の中軸打者たちを沈黙させている。



「あれが145キロ?どうなってるのよ、ハマスタのスピード表示おかしいでしょ」 


「いえ、森嶋はちゃんと150を超えてました」


「太刀川のほうが速く感じたんだけど……気のせいかしらね。忘れましょう」



 好投の一方で打つ方はダメだ。五回裏の第2打席では、


『これはショート正面!セカンド、そしてファーストの新居へ!太刀川のショートゴロはダブルプレーになって3アウト!』


 この試合初のチャンスらしいチャンス、1アウト一、二塁で最悪のゲッツー!自分で自分の援護をしたかったところで力みすぎた。



「みち、まだ機会はある。今日のみちの調子ならよほど油断しなければ失点はしない。つまり負けはないのだから気分を楽にしましょう」


「……そうだね。八回までに決めないと勝ちもないけどね。今日は絶対に完投できない日だから」


 今日になって思い出したイベントがあった。守護神の川崎さんが主役で、イニングごとに川崎さんのグッズプレゼント、試合前の始球式は川崎さんの親友が投げて、試合後は抽選で選ばれたファンと記念撮影。その川崎デーで出番なしのはずがない。


「でもわたしが勝利投手になれなくてもチームが勝てたらそれでいい。みやこの言う通り、焦らずにいくよ」


「………私はみちの8勝目以外に興味がない。全神経を八回までに使い切るつもりであなたをサポートする。とはいえ力を入れすぎず、冷静に………」


 

 失点したら八回まで持たないとしても、無失点で完封ペースでも八回で終わり、そう考えるとじっくり攻めることができる。コイプリンセスには延長十二回を完投して勝ち負けつかずの引き分けだった思い出もあるし、どこまで投げるのかはっきりしているのはよかったかもしれない。


 監督やコーチから正式に今日は最長八回とは言われていない。でもベンチ全員が察していた。だから九回表にはリードしている状態で川崎さんをマウンドに、と思いを一つにした。わたしの白星ではなく、川崎さんのセーブポイントのために。



「エスバーンの代わりに川崎、肩を………」


 七回が終わると、ブルペンの投球練習のメンバーもエス子とペットン、そして川崎さん以外は今日の登板がないと決まってベンチに引き上げてきた。この3人が勝ち試合で投げる投手で、両チーム無得点の試合となってはもう他の投手は使えないということだ。


「……みっちゃんが八回で降りるとなると……九回は川崎で決まりよね。そのためにわざわざ交代させるんだから」


「まあ九回からはサヨナラチャンスなんだからいい投手からいくのは普通の試合でも当然だわ」



 八回表も抑えて裏の攻撃、1アウトからみやこがセンター前ヒットで出塁。わたしが勝利投手になるためにはここで決めるしかない。球数はわたしが90球、森嶋が101球で互いに少なめ、球威は落ちていない。でも森嶋の球もだいぶ見えてきた。


「だぁ―――――――――っ!!」


『打った!ピッチャー返し………』


 手応えあり、でも……抜けなかった。森嶋のグラブにたまたま入ったように見えるアンラッキーな一打になってしまった。



『木谷は一塁に戻れません!鋭い打球でしたが最悪のダブルプレー!太刀川、2個目のゲッツー!』


 今日はダメだ。投手太刀川みちの足を打者太刀川みちが引っ張り、八回無失点も勝利は次回にお預け………そう思っていた。



「………続投……ですか!」


「アタイもコーチも……誰も八回で終わりだなんて言ってないよ。それとも降板したいと?」


「い、いえ……投げたいです!」


 確かに直接言われたわけじゃない。絶対に川崎さんが九回のマウンドに立つと決められてもいなかった。とはいえほぼ確定、そんな空気だったはずだ。


 なぜ続投なのか、理由は二つあったらしい。まず、ブルペンの川崎さんが一目見てわかるほど調子が悪かった。細かいコントロールがまず無理、変化球の精度もよくなかった。本人ですら、今日はまずいかもと口にしているようだ。



「……この試合は先に動いたほうが負ける、そんな気配がする。我慢比べの流れになった」


 これがもう一つの理由。誰をリリーフとして登板させようが、代えた瞬間におそらく失点する、皆がそう感じていた。お互いの先発が無失点行進を続けているところで、ピンチでもないのに交代するとあっさりやられる、よくある話ではあった。



「それはいいんですが………だいじょうぶなんですか?今日は川崎さんを投げさせるように上の人たちから言われて……」


 時に勝ち負けよりも大事にされる『営業』。球団幹部からの命令を無視していいのかな。すると新浦監督と皆藤、大江原両コーチが力強い笑顔でわたしの背を押してくれた。


「余計なことは考えなくていいんだよ!みっちゃんはピッチングに専念して、あとはアタイたちに任せな!」


「フロントが怖くてコーチが務まるか、常識的に考えて!」


「罰金も3人で折半すれば安く済みます。それよりもずっと価値のある1勝を全力で拾いにいきましょう、ほほほ」


 ここまで言われたら期待に応えなきゃいけない。ここで終了、といったん切れていた気持ちがすぐに熱を取り戻した。延長十二回上等、最後まで絶対に譲らない。




「うおおおお――――――――――――っ!!」


 相手打者のバットが折れた。セカンドゴロで九回表を終わらせる。試合終盤でも腕がよく振れていたと我ながら思う。



「147キロ………やっぱりスピードガンがおかしいわ」


「もっと速いでしょ………」



 そして1点でも入ればサヨナラという九回裏、思わぬ展開が待っていた。


『ピッチャー、森嶋に代わりましてフランソワ』


「………あれ?交代?」


 抑え投手のフランソワがリードしているわけでもないのに登場した。タフな投手だから2イニング投げさせようというつもりなのか、とにかく森嶋はマウンドを降りた。


「まだルーキーだから大事に使うってこと?」


「意外と余力がなかったのかもしれないわ」


 相手の意図はわからない。作戦かもしれないしトラブルかもしれない。でもわたしたちが粘ってチャンスを待ち続けていればこんなこともあるんだ。




『先頭の石河、よく見ました!フォアボール!』


 石河さんが出塁、そして2番の関さんが送りバントでランナーを進めようとしたら、


『フランソワ、一塁へ投げたがショートバウンドになった!あっと、堂森が捕れない!石河は三塁まで進みます!広島の守りに乱れが出ました!』


 勝手にチャンスが広がり、ノーアウト一、三塁。そして幕切れもあっけないもので………。



『キャッチャー後逸!石河がホームに還ってくる!ホームイン!ブラックスターズ、サヨナラ勝ち!サヨナラ暴投がこの試合唯一の得点、しかもノーヒットで得点!』


 おそらくサイン違いだと思われるリアクションだった。ストライクゾーンの高さのストレートを捕れずに試合終了。先に動いた広島が自滅してわたしたちの勝ちだ。




「はい、そうですね。ゲッツーの後、あまり落ちこまないように、冷静さを失わなかったことがよかったと………」


 こんな勝ち方だろうが、川崎さんが最後まで出番がなかろうが、ファンが一番喜んでくれるのはやっぱり勝利だった。大歓声がしばらく横浜の空に響いた。 








「………あんな投手でも活躍できる…………」


「それなら同じように時代遅れの私たちでも……」

 

「太刀川みちを倒しそれを証明する!」



 自分の知らないところでわたしは勇気や希望を与えていたらしい。停滞し、低迷し、諦めかけていた人たちにJUMPする力を。


 ただし残念なことに彼女たちはセ・リーグの他5球団の選手たちだった。眠れる怪物たちを目覚めさせてしまったのだ。

 予告通り明日からは番外編、その後少しお休みを頂いて交流戦編に突入します。



 カルビッシュ楓 (米野球投手)


 ベアーズからアメリカ球界挑戦、大成功を収め、日本人投手ナンバーワンと呼ぶ声も多い。マウンド上では冷静だが、プライベートでは感情的。


 元になった選手……野球にYoutubeにゲームにツイッターに大忙しのあの投手。彼がドラフト1位指名されたドラフトは全体的に豊作だが、もし同年に自由枠でプロ入りの那須野や一場が当時は野球も生活面も育成上手だった日ハムに入団し、彼がベイスターズに入っていたら………歴史は大きく変わっていたかもしれない。 

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― 新着の感想 ―
[一言] 田沼以外、セにライバルいませんでしたね。パはいいキャラ多いけど。交流戦も楽しみ。
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