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第三捕手のみっちゃん  作者: 房一鳳凰
第三章 覚醒編
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第77話 権力者の介入

「………オーナー………残念な結果になってしまいましたね。やはり東京ドームの試合にすべきだったのでは………」


「いいえ、地方開催ゲームがいいと言ったのは私自身なのだからあなたたちが負い目を感じる必要はない。それに、結果として大敗や悪天候だったとしても、収穫のあるゲームだったわ」


 わたしたちが福島県内のホテルで眠っているころ、高速道路を走る高級車。そのなかでの会話だ。


「先発の井上………あれはもういらない。シーズン終了まで二軍で投げさせなさい。決して一軍に上げても三軍に下げてもいけない。どんな成績だろうと二軍に閉じこめるように」


「はい、現場にも伝えておきます」


「次にあの審判………我が黄金軍のゲームであんな判定を繰り返すなんて……連盟に言いなさい、二軍の試合しか任せられないと。審判としての資質がないうえに恥知らず、いずれ退場してもらう」


 オーナーと呼ばれるその人物は、無様な投球を晒した井上を解雇するまで干すことと、試合を壊した審判に罰を下すことを決めた。チームの絶対的権力者として、それに球界の盟主としての特権を利用し、そして……。



「あともう一つ、連絡してほしいところがあるわ。黄金軍の不名誉を除き去るために他の二つよりも重要だから、絶対に譲歩しないように」


「…………」


「フフフ…アハハハ!太刀川みち……あんなチビ、珍獣が歴史に名を残すなど許されない。最後には大巨人(ゴーレム)に踏み潰される運命と知るがいいわっ!ハハハハハ!」






 

 朝、わたしとみやこはいつも通り同じベッドから出た。わたしの活躍した次の日はスポーツ新聞を見に行くのが習慣になったみやこも、今日は何もせずに皆で集まる朝ご飯の席に加わった。


「試合の終わりが遅すぎて新聞は間に合わなかったからでしょ?」


 その代わりに朝のニュースをいろんなチャンネルでチェックしていた。朝からスポーツだけのニュースはないからどこもそんなに長く触れなかったとはいえ、みやこは満足そうだった。



「木谷だけじゃないよ。球団も大喜びでグッズを作るらしい。球団半世紀ぶりの無安打無得点試合の記念品を」


 わたしの記念品?一番グッズが売れているみやこと比べたらチリ以下のわたしのやつなんか作ってだいじょうぶかな……。


「売れ残ったら選手が自腹なんてルールがなくてほんとうによかったですよ」


「球団の商売だからね。売れなくても私たちの知ったことじゃないわ。でもたくさん売れたら選手にも臨時ボーナスが入るし売れなかったらやっぱり落ちこむわ」


 その後石河さんや紀子さんが思い出話を語ってくれた。球場に来るファンの着ているユニフォームの割合が、だんだん自分のユニフォームになっていくのは嬉しかったと。また、節目の記録達成グッズが思ったより売れなくてガッカリしたことも。


「ウチのときはホームランと打点が同じときだったのがアカンかった。なかなか一気に二つは買わんやろ」


「アハハ、奈村さんは金で揉めてたのが原因じゃあ?こんなヤツの物なんか買うかってファンが怒って………」


「コラ!シャレにならん冗談はやめーや!」


 大筒さんも抜けて、通算〇〇達成!なんて経験をしたのも石河さんと紀子さんくらいしかいないチームだ。わたしもこれから何年一軍の戦力でいられたら縁があるのやら………。



「みち、あなたの記録は記念のボールや品物でいつでも思い返すことができる」


 ノーヒットノーラン達成のボールはもちろん、満塁ホームランと走者一掃ツーベースのボールもしっかりみやこは回収していた。だから通算100とか500という数字を待たなくても、わたしの周りは記念グッズでいっぱいだ。

 

「あなたが昔の辛い出来事の影響で、必要最低限にしか物に興味を持たないのはわかっている。ただしあなたの歩みは未来永劫に語り継がれるべきもの。そのためにはどうしても形に残る物を保管し残すことが大切」


「……それが『太刀川みち記念館』だっけ?まだまだ寂しいからどんどん展示物を増やさなきゃって話だったよね」


 今回のノーヒットノーラン関連のものは、実現するかどうかは別としてみやこが計画する記念館でも目玉の品になりそうだ。これ以上の偉業をこの先できるかどうかわからない。


 そのノーヒットノーランより珍しい1イニング4奪三振のボールもみやこは持っていた。ちなみに四球の数は15、日本記録タイまであと1だった。こんな試合はきっともうないな。いや、頻繁にあったら皆の体力と気力が持たないか。

 



「さあ、今日はさっさと終わらしましょう」


「そんなこと言うと二時間半で完封負けするわよ」


 午前十時、わたしたちのもとに衝撃的なニュースが飛びこんできた。球団のスタッフさんがタブレットを持ちながら走ってくる。


「た、大変です!えらいことになりました!」


「……?」 「そんなに焦ってどうしたの?」 


「とにかく皆さん、これを見てください!」


 そこにはとんでもないニュースが書かれていた。『公式記録の訂正』という、日本女子プロ野球機構のお知らせだった。




 〈ゴーレムズ・長崎敏子選手の六回の打撃結果を三失策から左前安打に訂正〉




 それにより、ゴーレムズのヒット数は0から1、柴山さんのエラー数は1から0、そしてわたしの被安打が………。


「ノーヒットノーランではなく………」


「ただの完封ということに…………」


 訂正理由の説明では、打球が強く三塁手の後逸ではないと判断したとのことだ。ノーヒットノーランに関わるが、あくまで『公正に』記録をつける、と締めくくられていた。



「………くそっ!何が公正よ!介入があったに決まってるわ!ゴーレムズのわがままオーナーの!」


「そういえば昨日の試合に来てたって話だったわね!惨敗の腹いせのつもり!?腹立つわ!」


 皆が憤るなか、わたし自身はどこか冷めた気分で、こういう『オチ』が待っていたかぁ、と心のどこかで納得していた。所詮は八回までノーヒットノーランだと気がつかなかったぐだぐだな試合、すんなり終わらなかった。



「ゴーレムズのオーナー……確か90歳を過ぎた……」


「いや、みやこ。それは前オーナーだよ。渡部(わたべ)恒子、あだ名は『タベツネ』。今年の頭についに辞めたみたい。でもその後任は知らないな……」


 選手を道具のように考え、老害の代名詞とされていたタベツネ。選手たちからの評判は最悪で、ゴーレムズの選手すら嫌っていた。


「みっちゃんも知らなかった?年末年始に結構ニュースで話題になったけど……タベツネの娘がオーナーになったんだよ。なんと15歳!」

 

「………ん?15歳?しかも………娘?」


 いろいろ変だ。聞き間違いかな?


「タベツネが70代のときに愛人の女に産ませた子らしい。女同士だったら若いほうが出産すればいいわけだから。それで、タベツネの子どもでいま生きているのがその娘しかいないんだってさ」


「………なるほど。歳の離れた母同様、金で全てを思い通りに動かそうと考えるどうしようもない人間だというのは理解した。生きているだけで害になる屑………」 


 みやこは他の誰よりも怒っていた。わたしの大記録がパーになったのだから仕方ない。球団は抗議するらしいけど再訂正の可能性はゼロに近いだろうな。




『太刀川のノーヒットノーランは取り消し!』

『幻のノーヒッター!27アウト後に夢潰える』

『黄金軍介入疑惑に批判の声、何でもありか』 



 この騒動は大きな反響を呼び、試合前にはたくさんのマスコミがわたしを囲んだ。普通にノーヒットノーランを達成しただけならここまでのことにはならなかったはず。スポーツとは関係ない週刊誌やいままで取材に来たことのない新聞の人たちまでいたからだ。



「あの打球がヒット判定……正直どう思われますか?ただの平凡なサードゴロにしか見えませんが……」


「わたしも打者のときエラーかもってやつがヒットになって儲かったことがありますから。紙一重ですね」


「偉業達成がなくなったことについては……」


「う〜ん、ノーヒットノーランではなくなりましたけど、完封勝利で6勝目、それは残っています。それに、ノーヒットノーランを達成した投手は何十人もいますが翌日に取り消されたのは長い歴史でわたしぐらい………そう考えたらとても貴重な経験ですよね」


 思っていることをそのまま話した。どうせ覆らないのだから愚痴をこぼしても意味がない。世界各地の野球リーグ、後にも先にもこんなことはわたしだけ、よく考えなくても凄いことだ。


「今日はまた打者での出場となります。意気込みを一言」


「昨日うまくいきすぎたんで調子に乗らないように気をつけます。自分勝手な打撃はしません」


 

 練習が始まる時間になって記者たちが去っていくと、みやこが私の前に立って両手を強く握った。


「………素晴らしい!」


「うわっ!急にどうしたの」


「あなたの高潔さ、偉大さ……真の勝者とはどのようなものか、誰もが理解できる言葉の数々だった。敵どもがどんな卑劣な手を駆使してもあなたを止めることは決してできない!彼女たちが恥じ入りながら歯ぎしりして泣き叫ぶ未来がすでに私には見えた!」


「……………そこまでのものだったかな…………」


 福島の次は宇都宮での試合。今日はゴーレムズのオーナーは不在、相手もいつも通り戦ってくるだろう。






「オーナー……世間では我が黄金軍を非難する声が大きいようです。やはり翌日の記録訂正は目立ちすぎたのでは?」


「いや、構わないわ。記録は永遠に残る……でもくだらない議論や批判は数日もすれば新しい話題に上書きされる。誰が正義か、後の時代の人間たちは記録を見て判断するのだから愚民どもの遠吠えなんて無視していればいいわ」


「………はい………」

 

「とはいえ各報道機関には警告しておくように。公式記録員たちを褒め、判定の正当性を強調させなさい。間違っても太刀川を悲劇のヒロイン扱いするなと脅しを加えて………」


 一人になった部屋で彼女は笑う。結局のところ、全てが自分の思い通りに進み、望むままの未来が保証されていたからだ。


「ア〜ハッハッハ!あの惨めなクソチビ、加えてそんな珍獣に頼るしかない弱小球団のポンコツとそれを支持する愚民どもの汚い泣き顔が目に浮かぶわ!あいつらは私たちの家畜なのよっ!」






 ところで、わたしは昨日の試合前まで、どうすれば自分が活躍するだけじゃなくてチームに力を与えるような選手になれるかを考えていた。実際にどんなプレーや言葉が効果があるのかなんてわからずにいた………そんななかでの試合だった。



『打った―――っ!!初回からブラックスターズ打線が爆発!なんとピッチャーの来田まで技ありのタイムリー!7ー0となり、まだ1アウト!ゴーレムズの先発、秦を完全攻略!』


『これはナイスキャッチ!ライトの関、フェンス際のフライをよく捕りました!ブラックスターズが攻守でゴーレムズを圧倒!』


 出場した選手全員が大活躍。そしてみんな口を揃えて言うのだった。


「みっちゃんのノーヒッターが消されたからね、倍返しだよ。とことん打ってやるわ」


「今年はゴーレムズだけには負けたくないって気持ちになった。シーズン勝ち越しは絶対条件ね」



 ノーヒットノーランが幻に終わったことで、逆にみんなの闘志が燃えた。そしてうれしいことに、この炎は今日だけのものに終わらず、今シーズンはここからゴーレムズ相手には優位に戦えるようになった。意図しないうちに、わたしの力がチームを動かしていた。


 ゴーレムズのオーナーはどこかで勝ち誇って高笑いしているのかもしれない。でも、少なくとも今回はわたしの勝ちだ。思い通りに事が運んだのはわたしのほうだ。



「だぁ―――――――――っ!!」


『特大の一発だ―――――――――っ!昨日の疲労を考慮されてベンチスタートだった太刀川、完璧な代打ホームランを放ってみせた―――っ!!いまホームイン、二塁走者だった木谷とホームベース上で抱きあって喜んでいます!今日も横浜ブラックスターズのための一日になりました!』



 みやこの言葉通り、敵の権力者がとても悔しがっている姿が想像できた。わたしたちは笑顔で試合終了後の勝利のハイタッチをするのだった。

 今年のDeNA(以下略)②


 前回と同じで、興味のない方はスルーしてください。



 打撃 ✕ バッティングだけはいいと言っていたのも最初だけだった。接戦では新人や調整不足の助っ人に頼るしかなかったが、4番がやや復調してきたか。こんな選手下げろ、若手を使えという声もよく聞きますが、投手と同じで、控えや二軍にいる選手でこいつをぜひスタメンで、と言いたくなる人は誰もいません。


 走塁 △ 去年までのチンタラ走塁が改善されたと思ったのも束の間、最初だけだった。盗塁も少ないが、できないことはもうやらなくていいので、若くて足や腰を痛めていない選手はもう少しベースランニングを速くしてほしい。


 監督 △ 何度も言いますが、監督の判定は夏まで待ちます。采配で落としたと言える試合はだんだん減っています。助っ人合流のおかげでバントに固執することもなくなりました。去年も、開幕後しばらくしてからT津監督が無能ランキングの殿堂入りクラスであることが明らかになりました。まだ決めつけるのは早いです。


 コーチ陣・フロント ✕✕ 全ての癌。一番の敵は身内にあり。




 今シーズンは残念ながら優勝は不可能、3位からクライマックスシリーズ勝ち上がり、日本シリーズ進出狙いで行きましょう。何、それも厳しいと? 


 どうせ最下位なら若手を育てようという方針が正しいのか、将来が楽しみな若手なんていないんだから1勝でも多くファンに届けようという思いが正しいのか、私にはわかりません。

 

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― 新着の感想 ―
[気になる点] せっかくのノーノーが…。オーナー邪魔。この展開はなんだかガッカリ。 [一言] 外国人の入国問題など今年のフロントはレベルが違う。勝つ気あるのか? 監督の評価は確かにまだはやいですね。で…
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