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第三捕手のみっちゃん  作者: 房一鳳凰
第三章 覚醒編
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第76話 まさかの偉業

『五回の裏もゴーレムズ残塁!ここまで9つの四死球、すでに100球を超えた太刀川相手にあと一本が出ません!』


 五回が終わって4ー0のまま、試合時間は二時間と少し、時刻は午後九時を過ぎた。相変わらずストライクゾーンは極端に狭いままだし、雨は降り続いている。六回に入ろうかというところで、審判団が試合を中断させた。ちょうどいま、試合は成立している。


(……やった!これはコールドだ!6勝目………)


 ビニールシートを敷いたりしているけどもういい時間だし終わりでいいじゃない、ブラックスターズベンチからそんな声が飛ぶなか、わたしたちの期待とは逆の展開になった。


「あれ、雨が弱く………」 「いや、やんだわね」


 球場のほとんどを占めるゴーレムズファン、そしてゴーレムズベンチから歓声が起こる。とうとう完全に雨があがり、再開。もうコールドはない。



「これじゃ九回で終わっても十一時までかかるわ。ホテルは確実に日付が変わった後………うげ〜」


「もし追いつかれて延長戦になんかなったら………みっちゃん、このまま何事もなく終わらせてちょうだいね」


 もう終了だと気持ちを緩めてしまったブラックスターズナインは心身共に落胆を隠せなかった。



『おっと!柴山がトンネル!ミスが出ました』


 無気力プレーではないにせよ、みんな動きが鈍い。そして悪いことは重なるもので、


「………ボール!」


 ますます判定が厳しくなった。しかも今回はわたし限定で、ゴーレムズ投手陣のほうはだんだんまともなストライクゾーンに戻っていった。


(……そうか、最初から贔屓はしないけど試合の途中から負けているチームを贔屓する審判か!高校野球にはよくいるけど……)



 もはやゴーレムズは何もしないで立っていればほぼ塁に出られる。六回表、エラーと連続四球で一死満塁のピンチ。毎回のようにピンチを背負い、今度こそ失点か、というところでわたしは踏ん張り続けていた……いや、敵が勝手に倒れてくれた。



「ストライク!バッターアウト!」


『満塁となってからのゴーレムズは……キャッチャーへのファールフライ、そして三振!またも拙攻です!』


 チャンスになるまでは四球を選ぶのに、そのチャンスでは打つ気満々、ガンガン振り回してくれた。見逃せば押し出し、それでも強引にスイングしてわたしを助けてくれている。


「私たちとしては失点しないし試合は進むしでいいことだらけ、でもゴーレムズらしくない焦った攻め方だわ」


「審判とグルになってるのかと思ったけど、そうでもないみたいね。わからないわ……」


 無失点を喜びつつも、不気味さを感じていた。でもその謎が明らかになるとあっけなかった。スタッフさんが全容を教えてくれた。



「ゴーレムズは球団のオーナーが来場しています。タイムリーヒットなど、目立った活躍をした選手には金一封だそうですから、それでチャンスになると………」


「あいつら力んで逆効果ってわけね……なるほど。押し出しを選んでも金は貰えない、打って打点がつけば貰える……そんなところかしらね」


 臨時ボーナス目当てで四球拒否、チームの勝利よりも目先のお金欲しさに……ゴーレムズのやり方が裏目に出たんだ。


「こういうときちゃんとチームのために動ける田沼は全打席歩いていますからね。でもその前後の打者がダメ」


「田沼に満塁で回さない限り大丈夫かな」


 

 からくりさえわかればプロ入り初の完封も見えてきた。でもこの回も20球以上投げちゃったし、次で交代かもしれないな。せっかく攻略法をみやこと見つけたのに。



『太刀川、これでこの試合なんと13個目の四球!最初は審判に合わせようとしていましたが、面倒になったのかそれともスタミナ切れか………七回裏もあっさりピンチ!』


 どうせストライクにならないなら全力で投げる必要はない。妥協して打ちやすい球を投げたら井上と同じ失敗をすることになる。


(もちろん普段なら4点リードの場面……ヒットは打たれてもいいからフォアボールは避けないといけない。しかも連続なんて最悪だけど……)


(今日はもうフォアボールは避けられない。ならば得点圏にランナーが進むまではみちの力をセーブさせて……)



「うお――――――――っ!」

 

『空振り三振!高めに手が出てしまいました!』



 必ず打ちにくるところで全力投球。勝負どころがはっきりしているから力を入れやすいし、そこまでは体力を温存できる。最終的に球数は180くらいまでいくかもしれないけれど数字ほど疲れないはず。完投できそうな手応えだった。


『七回裏もゴーレムズ無得点!残塁はすでに14、それも全て厳しいストライクゾーンのせいで、太刀川はすでに152球を投げ与えた四球は13、死球は1!』


『普通なら交代ですよ、たとえ無失点でも』


 

 八回表、長崎の後逸でついに待望の追加点が入った。その後ツーアウトからみやこが申告敬遠されて満塁、バッターはわたしだ。キャッチボールをしていて、準備をしなきゃいけない関係で別のバッターがネクストに入っていた。


「みっちゃん、普通のピッチャーならここは三振してこいって送り出すところ………でもあえて言う。打ってきな!」


「………はいっ!」


 5点差でも手は緩めない。走らなくてもいいホームランを打てば完璧、今日2本目の満塁ホームラン……我慢のピッチングが続いたからこっちで欲張っちゃおう。




「いけ―――――――――――っ!」


『これは大きいぞ―――っ!センター田沼の頭上を越えていきました、フェンスダイレクト!これは走者一掃になりそうです!』


 みやこもホームイン、8ー0になった。それでも田沼はファンの前で最高のプレーを見せる若大将。鈍足すぎるわたしはギリギリ二塁セーフ、ヘッドスライディングでユニフォームを真っ黒にしてしまった。



『太刀川今日7打点!投打に大爆発の太刀川、選手にとっては最悪のコンディションで一人躍動!先のことなど考えない、いまそのときをフルパワーで駆け抜けます!』


 プロに入ってずっと恵まれた環境で練習や試合をしていたから忘れていた。子どものころ学校や広い公園で野球をしたり遊んだりして、すぐに服が泥だらけに汚れた。あの楽しかったころのように………そんな思いが生んだタイムリーツーベースだった。



「……もともと5点も勝っているのに……マジメに打つ必要あった?試合の進行を無駄に遅くして」


「…………」


 ショートの坂友が呆れながら言う。ゴーレムズのベンチからも似たようなヤジが飛んでいた。もう試合は決まったんだから全力疾走なんかしてないで手を抜けと。わたしはぜんぶ無視した。ここで手を抜いていたらきっと大事な場面でも打てない。裏のピッチングへの影響はまたマウンドに立ってから悩めばいい。



 ところがこのとき、わたしがわざと三振せずに打ちにいったことを疑問視する声は多かったらしい。野手としての成績も重要なわたしであるとしても、ここはピッチングに専念すべきだったと。


『………太刀川は……いまの状況を理解していますかね?』


『わかっていたらこうはなっていないでしょう』


 わたしだけでなくブラックスターズベンチやゴーレムズベンチでも、雨だの癖のある審判だの午後十一時を過ぎた時間だの、とにかく盛りだくさんな試合だったからそこまで気がいかなかった。もし外から見ているファンや解説者たちのように冷静でいられたら、坂友ももっと強い口調で言ってきただろうし、坂友より先にきっと新浦監督や皆藤コーチに怒られていた。




『さあ試合時間は四時間を過ぎました!ようやく八回裏が終わろうとしています!この回は大暴投による振り逃げとフォアボールでランナー二人が出ましたがやはり太刀川の粘り勝ちとなりそう!』


 さすがのみやこでも捕れないほど高いボールに相手のバットが回ってしまい、結果は振り逃げ。その直後に四球を出してピンチになってからはこれまでの作戦通り。連続三振で二死まできた。


「……うぉぉおおお―――っ!!」


『ど真ん中を空振り三振!太刀川、1イニング4奪三振達成!ゴーレムズにとっては不名誉!』



 この瞬間、スタジアムから大歓声が響いた。この声援や拍手はわたしへのものだ。珍しい記録だからか、でも球場全体がここまで騒ぐほどのものかな?実力だけじゃなくて運が絡まないと達成できないけど……。


「ノーヒットノーランより少ないんだから歴史に名を残したって言えるんじゃない?」


「………ノーヒットノーラン…………あっ!?」


 

 ここでわたしはようやく知った。ゴーレムズのヒットは0本、20人近く出塁を許したせいで感覚がマヒしていた。プロ初完封どころかノーヒットノーラン!急に心臓がバクバクしてきた。


「四球狙いでスイングしないかと思えば小銭目当てに何でも振り回す………敵だったはずの審判とゴーレムズのオーナーが味方となり、みちの大記録をアシストしてくれている!」


「ノーヒットノーラン………わたしが………」


 みやこはずっとわかっていたみたいだ。ここまでは黙っているのが最善と考えた、でも最終回に大量リードのせいでわたしの気が緩んだり守備が乱れてエラーみたいなヒットが出たりするのを避けるためだとわたしたちに説明した。


「みちの体力は限界がない。最後は全球全力で!」


「………わかった。こんなチャンスほもうないかもしれない……何としても取りにいく!」


 

 いつか正真正銘の、もっと立派なノーヒットノーランは必ずやりたい。でも今日のところは………。





「バッターアウト、ゲームセット!!」


『さ、最後も三振だ!代打の鶴井も三振で試合終了、太刀川やりました!あと数分で日付が変わろうかという長い試合、その締めは三者連続三振!全くそんな気はしませんがノーヒットノーラン達成!なんと球数190球での無安打無得点試合、ただの完封でもこの数は………』


 ぐだぐだだった試合の終わりだけはきれいにまとまった。内容が内容だからそんなに派手に喜べない……と思ったのは意外とわたしだけだったようだ。



「やった――――――!!」

「凄い、凄いっ!!おめでとう、みっちゃん!」


 みんながダッシュでマウンドに集まってきた。もちろん誰よりも速くみやこはわたしに抱きつき、わたしを抱え上げていた。去年のオールスターのときとは逆だった。


「いつか必ず達成できることはわかっていた!しかしこんな早々に………みち、あなたはどこまで私の想像を軽々と超えていくの!」


「はは……わたしが一番驚いているよ」



 そのままみやこがわたしを担ぐと皆が加わって、あっという間にお神輿が完成した。そしてベンチに残っていた水がかけられたりバンザイしたり、もう深夜なのにお祭り騒ぎだ。



「太刀川!太刀川!太刀川!」


『ブラックスターズの投手では半世紀ぶりのノーヒットノーラン!素晴らしい根性で掴んだ栄光に場内はゴーレムズファンからも拍手が!今日のヒーローを祝福します』



 終わりよければすべてよし、いつになったら終わるんだという途中の空気も吹き飛んで、単純なわたしはすっかりだらけきった笑顔で手を振っていた。


「えへへ………どうもありがとう……………ん?」


 

 突然感じたのは、とても強い敵意、憎しみ………殺気だった。思わず身構えたけど、何も起こらなかった。まあ普通に考えたらわたしのことが大嫌いなお客さんも熱狂的なゴーレムズファンもいるんだから当然か。


(わたしも子どものころ、ミルルトが負けたら敵チームの選手や活躍できなかったミルルトの選手を睨みつけてたからなぁ………)


 そのうち突き刺すような殺気は消えた。きっとその主が球場を出ていったんだろう。いつまでも不快な場所にいても時間の無駄だ。わたしだったらもっと早く帰る。



「こんなに遅くならなけりゃ祝勝会だったのに惜しいわね」


「はは……でもこんな展開だったから生まれたノーヒットノーランだったわけで……何とも言えませんね」



 日付が変わる寸前に終わった試合、ホテルに着いてみやこといっしょに寝るときにはもっと遅くなった。とはいえ、この試合の真の決着はさらにその後だった。前代未聞の結末だった。

 今年のDeNAはどこが駄目なのか?①


 注意!あくまで作者個人の意見です。長くなりますので、興味のない方はスルーしてください。今日は投手、守備の観点から。


 先発投手 ✕ 話になりません。コントロールが悪すぎて球数が増えて長い回を投げられないか、棒球連投で早々にKOかの2パターンでは厳しいです。ただし、たまに好投するときに打線が打って白星をつけてあげられたら流れは違ったかもしれません。


 リリーフ投手 △ 開幕直後に石田がやらかし続けた以外はまあこんなものでしょう。抑えの三嶋と勝ち試合に投げるエスコバー、山﨑は今のところ好調です。正直打たれても仕方ない、どうでもいい投手が炎上しているだけで、主力は12球団でも上々の出来です。


 捕手 ✕ いろいろ言いたいことはありますが、もはや彼らだけに責任を押しつける段階ではありません。誰を使っても駄目なのは全体として練習していないせいです。指導者が無能すぎるというのもありますが。


 内野守備 ✕ 大和と宮﨑は明らかに動きが鈍くなり、後のメンバーも去年同様凡ミスと致命的なエラーが減りません。柴田の離脱で声掛け役もいなくなり、記録や数字が示す以上に酷い内野陣です。


 外野守備 △ たま〜に神里がナイスキャッチをしてくれます。後は知りません。ラミレス政権は守備を軽視しているなどと言われていましたが、監督が変わっても同じでした。




 この作品内ではあまり現実を追わないようにしていますが、今後の展開では先発投手陣はやがて崩壊して、みっちゃんが奮闘することになります。捕手はみやこがいる限り、少なくともみっちゃんの試合ではくだらないミスはしません。現実のベイスターズとは違い優秀なコーチを揃えているという設定なので、守備はそこそこ堅いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 祝ノーヒットノーラン!フラグが建つと失敗していたみっちゃんですが、殻を破りましたね。 [一言] 個人の見解には合意。でも今日は勝ててよかった。点とりすぎだけど。明日にとっとけ!
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