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第三捕手のみっちゃん  作者: 房一鳳凰
第三章 覚醒編
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第68話 敗戦処理卒業

 わたしがイニングの先頭打者としてホームランを打った後はランナーが出ず、六回裏の守備になると監督がまたしても動いた。ロメックを下げて柴山さんをサードに入れた。


『確実にもう一度打席は回ってきますがロメックは交代、2点ビハインドで守備を固めてきましたが…?』


『内容が悪いですからね、柴山のほうが打てると判断して代えただけだと思いますが』


 この回は三者三振とはいかなかった。そして七回表のみやこも二打席連続とはいかず、やっぱりそんなうまい話はなかった。そして最終回に打順が回ってくる可能性があるのにフォックスもゲームから退いた。佐々野さんがファーストに入り、新浦監督が助っ人たちを不要だと球団の偉い人たちにアピールする舞台になった。



「ごめんなさい、みち。全バッター三振も私たちのホームランも途切れてしまった……あなたの3勝目は非常に厳しくなった」


「先発じゃないからね、もともと勝ちがつくには運が味方しなきゃだめだった。それにわたしたちだけじゃやっぱり試合には勝てない、それがわかってよかった」


 わたしはもちろん改めて知る必要はない話だけど、わたしの軽はずみな言葉のせいでみやこがその気になりかけちゃったので念を押すために口にした。


「………あなたのバッティングで教えてほしい」


 難しい要求をされた。どうすればいいのかわたしが聞きたいくらいだ。チームプレーを強調するためにフォアボールや進塁打を打てばいい?相手のコントロールや前のバッター二人の協力がないと無理だ。


 勝つためだけならまたホームランを打つのが最高だけど狙って簡単に打てるわけもないし、仮に打ったら「やはりこのチームはみち一人いればいい」とみやこの暴走が加速する。わざとアウトになるなんて論外だし………。



『9番ピッチャー、太刀川!ピッチャー、太刀川』


(もう出番になっちゃったよ………)


 何も浮かばないまま打席に入った。するとヘルメットにぽたぽたと何かがぶつかる音がした。そういえば今日は雨が降るって予報だったな。ついに降ってきちゃったか。


「まあ虫じゃなくてよかったな」


 夏場のナイターゲームでたまに虫が大量に飛んでくるときがある。中断してもなかなかいなくならないし気持ち悪すぎる。まだ肌寒いこの季節にそれはないか………と思っていたら、意外な展開になった。



「ボール!フォアボール!」


 一回もバットを振らずにフォアボール。この回から登板した広島の新外国人セコットが簡単にツーアウトをとった直後に別人のようにストライクが入らなかった。


 雨が苦手なのか、それとも環境の変化に敏感すぎるのか。突然乱れ始めた。


『またボール!石河も歩かせてしまいました!』

『センター前ヒット、これで満塁、しかもヒットを打った一塁ランナーの大和は逆転のランナーです!』


 一気に二死満塁、雨が少しだけ勢いを増してきた。そして3番と4番には途中出場の二人が入っていた。



『右中間抜けた―――っ!!柴山の打球は逆転打になりそうだ――――――っ!』


 2点リードなのに同点を防ぐために前進守備をしていた広島のミスだった。普通の守備位置だったらライトフライ、それが逆転、しかもまだ攻撃は続いている。


『佐々野が打った―――っ!スタメン落ちの鬱憤を晴らす一打は貴重なツーランホームラン―――っ!!』


 2アウトからの猛攻で5点を奪った。2点ビハインドから3点のリードになり、わたしに勝利投手の権利が生まれた。相手がピッチャーを交代している間にゆっくり休む時間もできた。



「うーん……こうなったら最後まで投げてみるか」

 

「………え?」


「雨だから余計な投手を使いたくないんだ、常識的に考えて。広島のあの外人みたいに大崩れするかもしれないし」



 皆藤コーチから続投を提案…というよりは指示が出た。球数を聞いたところ、まだ80球。肩の調子もいいしいけるかな、と思っていたら、意外にもみやこが賛成しなかった。


「いえ……さっきまで雨のなか長い時間ランナーとして塁上に残っていましたから体力が心配です。中3日で次が7イニング目……そろそろ球威が落ちてきたところを狙われるかもしれません。ブルペンが全く準備していないのなら続投のほうがいいと思いますが……」


 わたしのスタミナや体の強さをよく知っているはずのみやこが交代を勧めていた。わたしが自信過剰になっているだけで実は球が走らなくなっていた?


「う〜む……ブルペンに聞いてみるかな」


 電話を使ってリリーフ投手たちの様子をブルペンにいるもう一人の投手コーチ、本塚コーチに確認すると、皆藤コーチはわたしの肩に手を置いてから握手をした。


「やっぱり今日はここまでにしよう。6イニングと3分の2、よく投げてくれた、ありがとう!」


「………交代……でいいんですか?」


「ブルペンのエスバーンと川崎がやる気たっぷりらしいんだ。この3連戦で出番がなかったからね。特にエスバーンは間隔が開くと打たれてしまうタイプだ。木谷の言う通り、継投に入ろう」


 新浦監督も了承したみたいだ。今日のわたしは1失点、ソロホームランで取り返したからよしということにしよう。



 コイプリンセスの内田が投球練習を終えて、みやこもネクストに向かう。それを呼び止めて気になったことを聞いてみた。


「みやこならわたしに最後まで投げさせたがると思ったけどなぁ……これまでの2試合はそうだったし。疲れてないつもりだったけど交代しないとまずかった?それともわたし以外の選手の力も信じる気に……」


「………ええ」


 見事な逆転を目にして意識が変わったのならよかった。いろんなピッチャーの球を受けて、今日だけでなくチームのこれから一年、どうするかを考える。みやこは本来それができる選手だ。わたしの存在がその思考を狂わせているだけで。


 へっへっへ、わたしなんかが日本の宝をとりこにしちゃってどうもすいません、などと笑いながら言った日には何者かに刺されて終わりだろうから注意しなきゃ。



(………この雨は強くなる、そんな予感がする。故障のリスクが増す悪条件のなかでみちを投げさせるのは断固拒否!他の連中ならいくらコンディションを崩そうが問題なし!)


 みやこはやっぱり何も変わっていなかった。



『エスバーン、見事なピッチング!最後は157キロのストレート!まさにねじ伏せる剛球でした!』


 エス子がスリーアウトを簡単に奪い、ベンチに横浜ナインが戻って皆が入った瞬間雨が突然激しさを増した。広島の選手たちは守備に向かえず、試合中断になった。


「今日は小雨止まりって言ってたはずだわ!あと1イニングだからきっと再開されちゃう………冷たいし寒いし最悪ね」


「でもまた相手のピッチャーがコントロールを乱してくれそうね。ユニフォームも下着もぐしゃぐしゃになりそうだけど………」



 別に汚れても構わないわたしはもう退いている。代わりに出てあげたいくらいだと思っていると、雨はますます強く、激しくなっていき、風も吹いてきた。


「………これって………」

「続行は無理でしょう、全然弱まらないもの」


 3点差というやや厳しい条件も響いたか、広島ベンチもこれ以上やりたくないという空気になっているようだった。観客も次々と屋根のあるところに避難して、再開を望む声はだんだんと小さくなっていった。




『あ―――っと、やはり試合終了です!最終回の攻防を前に突如の大雨!7ー4、広島コイプリンセスは3タテを逃しました!勝利した横浜ブラックスターズは途中出場の二人が貴重な一打!初回からリリーフ登板した太刀川が3勝目となりました』



 コールドゲームで逃げ切り勝ち!わたしは無傷の3勝目。開幕9試合目で3勝、投球回数20超えは両リーグでわたしだけだった。話を聞きに来る報道陣の数も増えていた。


「おめでとうございます、太刀川選手。3連勝で次はいよいよ先発ローテーション入りですね」


「中6日で来週末のコアラーズ戦が濃厚ですが、まだ新浦監督とはそこまでの打ち合わせはしていませんか?」


 囲まれながら歩いている。スター選手になった気分だ。せっかくだから丁寧に一つずつ答えようとしたら、そばにいたみやこが割って入って、まるでマネージャーのような立ち位置で話し始めた。



「すでに次回登板は決まっています。来週の土曜日を予定していますが、当然先発としてです」


「太刀川選手は2試合連続ロングリリーフで味方の逆転を呼び込んでいます。うまくいっているところを変えるというのは冒険だと思いますが?」


「私はそうは思いません。こんな逆転は何度もできない、偶然打線が繋がっただけです。太刀川みちをこれ以上敗戦処理で投げさせる、それこそ空っぽの宝箱のために危険な冒険の旅をするかのようです。無意味であり無駄です」


 監督もわたしがリッチに代わってローテーションに入ることはこの後言うだろうけど、それより先にぺらぺらと喋っちゃって大丈夫かなあ?


「チームの全4勝中3勝が太刀川選手、チーム防御率も苦戦が続いています。リードする木谷選手としてもこの配置転換は待ちかねていたと………」


「もちろんその通りです。オープン戦の好成績でチーム全体が浮かれていましたが、投手力はこの程度です。今後も序盤で試合が壊れるパターンは続くでしょう。その都度太刀川みちを登板させるのではなく試合が始まる前から今日は勝ったと思える日を定めていたほうがチームのためになります」



 ちょっとまずくなってきたかもしれない。いや、仲間のピッチャーたちをこの程度呼ばわりはちょっとどころかかなり危険だ。


「ほう……では太刀川選手と他の先発陣とでは現在の調子にかなり差があると。実際に球を受けてみてそうお感じに?」


「いえ、そもそも最初から投手としての格が違います。コンディション程度の問題ではなく、比べるのが馬鹿らしいほどレベル差が開いていますから」


「………そ、そんなに……ですか。では来週からは太刀川選手を中心にローテーションは組まれていくと………」


「はい。太刀川ー誰かー誰かー誰かー太刀川………こういったローテーションになるでしょう。残り三人から四人は誰でも構いません。彼女たちは差がない、どんぐりの背比べですからね」



 う〜ん………ある意味みやこの勝ちだった。みやこの失言を誘おうと記者たちは頑張っていたけど、想像以上にぶっ飛んだ言葉が続いて、こんなもの記事にできない。みやこについてあまり悪く書くと球団から怒られて、取材を制限されてしまうから。



「い、いや〜………これほどまでに高い評価、嬉しいんじゃないですか?太刀川選手」


 困り果てた様子でもう一度質問相手をわたしに戻してきた。この様子なら報道陣の取材は空回りだ。どうせ使われないならわたしもみやこを喜ばせてあげよう。


「はっはっは、そうですね。このチームは来週からわたしが投打両方で引っ張っていきますよ。黙ってわたしについてくれば必ず優勝争いができる、エースで4番!それくらいの気持ちでやってやります」






 翌朝……わたしは広島のホテルで頭を抱えた。



『マウスも絶好調!太刀川、チームの中心宣言』


『自分以外は全員どんぐり!格上の投球披露する』


『エースで4番はこのわたし!堂々誓った新女王』



 わたしの発言だけはしっかり各スポーツ新聞に載っていた。みやこの言葉までわたしが言ったことにしている記事まであった。



「…………」



 帰りの新幹線に乗る前から乗車中までチームのみんなからこのことについて聞かれ、前途多難な幕開けを予感させた。

 開幕9試合で早くもみっちゃん3勝目!ここからもっと勝ち星を量産してくれることでしょう。


 3勝といえば、開幕から20試合で3勝15敗2分とかいうチームがありますね………。新人監督には酷なスタートです。まあ実績のない若手と無能でコーチ陣が固められているので仕方ないのですが、監督が新人ならもう少し経験豊かなコーチを入れてほしかった……そんな願望でこの作品のコーチ陣は年齢高め、優秀な実力者揃いにしています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 物語の存在とはいえ、何処かの二刀流に比べて守備もいくつか守れて打撃も良くて壊れにくい立派な多刀流なんだよなぁ…こんな選手ウチの贔屓にも欲しい… 謎の多いレズレイプさん話が今から楽しみです。…
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