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第三捕手のみっちゃん  作者: 房一鳳凰
第三章 覚醒編
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第60話 二転三転、大逆転

 オープン戦最終登板。これまでと違って今日は短いイニング、最長2イニングという話だった。先発の枠が全て埋まってしまったから、わたしが試されているのは中継ぎとしてのピッチング、それも勝ちパターンではなく負け試合のロングリリーフとして使えるかどうか。これがラストチャンスだった。



『来週からシーズン開幕、両チームほぼメンバーはこれで決まりというオーダーであります。ブラックスターズは五回まで開幕投手に内定した今中、その後は太刀川、江頭、育成選手のスタリンと継投予定です』


 パ・リーグの幕張オーシャンズが相手で、今日は結果を求められている。一軍に残れるかどうかが決まる大切な試合だ。


(敗戦処理のロングリリーフ……体力のあるわたしなら適任だ。チームの役に立てる!)


 去年は負け試合でもピッチャーを惜しまずにつぎ込んだせいで役割分担がうまくいかなくなった。僅差のリードで普段大差のついた場面でしか投げていない人を使うしかなかったり、10点も負けているのにセットアッパーのエス子を投げさせたり。わたしがロングをこなせたらきっと投手陣は安定する。


 わたしには代打を出さなくてもいいというのもロングリリーフをするのに好材料だ。もちろんチャンスで回って来てわたしよりも信頼できるバッターがいれば下げられるだろうけど、どうでもいい場面で代打を使ってピッチャー交代、それは防げる。



「みっちゃん……投げる球は一番のはずなんだ。アタイの間違った指示のせいで悪いことをした」


「あなたを支えるはずが足を引っ張る結果になり………どう謝るべきかもわからない」


 監督、それにみやこはわたしを開幕ローテーションに入れられなかったことを悔やみ、落ちこんでいた。わたしも自分の力不足に少しがっかりしたけれど、もしかしたらこれでよかったのかもしれない。どうなるかわからない先発よりも確実にチームに貢献できるポジションに入れるのなら。




「うお―――――――――――っ!!」


『空振り!高田も三振でこの回は三者三振!』


 気持ちを切らさずに、むしろもっと熱く。解禁された全力投球が通用してホッとした。これでも打たれるようなら敗戦処理すらできず、投手としては戦力外だった。



『清川の打球は力のないセカンドゴロ!柴山が軽快に処理してスリーアウト!太刀川、今日は完璧な投球でした』


 みやこといっしょにベンチに戻り、皆とハイタッチをしてから座る。このピッチングが最初の登板のときからできていればなぁ、少しはそう思うけどもう終わったこと。今日の好投を喜ぼう。


「全ての球が素晴らしかった。本来であれば開幕投手になれただけに惜しかったけれど………」


「ははは!みやこ、ピッチングの話はひとまず終わり。次の回からは野手だからね、前を見ないと!」



 八回の表の守備、わたしはライトに入った。わたしの後に江頭さんが入ってもともとライトにいた細海が退いた。開幕が近いから今日はもともと指名打者を使っていない。オーシャンズはパ・リーグだから指名打者がいるのは当然で、オープン戦ならではの現象だった。



「たぁっ!」


『三塁線破って……フェアです!三塁ランナー音坂に続いて代走の本宮も楽々ホームイン!太刀川のタイムリーツーベースでブラックスターズはリードを広げます!7ー1!』


 バッティングの調子も上がってきた。これなら開幕には万全の状態になりそうだ。空きがないからスタメンにはなれないだろうけどどうにか間にあった。



『今日も快勝、ブラックスターズ!オープン戦首位が確定しました!今年はとても楽しみです!』


 実際のシーズンには全く関係ないとしても、最下位よりは1位のほうが気分がいいに決まっている。来週の金曜日、この横浜スタジアムにゴールデンゴーレムズを招いてペナントレースが始まる。いまの勢いのまま3タテしたいところだ。



 




「では明日のオーダーを発表します」


 いまは予告先発があるし、開幕戦の前日には監督たちがテレビ電話でニュース番組に集まってオーダーを事前に公表する時代だ。わたしたちにはそれより前に知らされた。



 8 上里

 4 石河

 5 ロメック

 3 フォックス

 7 佐々野 

 2 木谷

 9 中園

 6 大和

 1 今中


 わたしはベンチスタート。代打として、緊急時の捕手として待機だ。今中さんが序盤で大量失点は考えられないし、開幕戦からいきなり試合を捨てる姿は見せられないからわたしの登板はないはずだ。決めつけるのはよくないけどね。


「守り勝つ野球……最初はそう言った。でも結果はこのオーダーだ。クリーンナップで大量点狙い!ゴーレムズの投手陣は強力でセ・リーグ1だ、だからあいつらを滅多打ちにすりゃあ残りのチーム相手でも楽勝!いくぜ―――っ!!」

 

「おうっ!!」

 

 ゴーレムズの先発メンバーもテレビで発表されていた。今年から桑山新監督が指揮するゴーレムズ、去年は2位だったとはいえ解説者たちの半分以上が優勝最有力にしていた。



 6 坂友

 9 梶田

 7 四角

 8 田沼

 5 長崎

 3 岡戸

 4 舛田

 2 大林

 1 菅


 外国人選手がケガで出遅れて日本人打線になっていても破壊力は抜群。しかも全員守備もそれなりに堅実で隙がない。横浜を出た長崎がさっそく5番で出場、明日のハマスタは荒れそうだ。



「いまのブラックスターズ投手陣なら抑えられるんじゃない?長打も足もあるゴーレムズだとしても」


「さあ。みちへの対抗心のせいでピークをオープン戦に持ってきてしまい、すでに下降している投手もいるから」 


「そこはみやこの腕の見せどころだね」



 今年も実はわたしの登録は捕手のままだった。投手、捕手、それに一塁に三塁、外野もできる……となるとどこをメインにすればいいか面倒になった球団が何もしなかったからだ。  


「一応みやこ、戸場さん、わたしの三人体制だけど去年と違って週に一度の休養日もないからね。疲れをうまく抜かないと成績が落ちちゃうよ」


「………心配はいらない。あなたが癒やしてくれるから」



 一つのベッドの上で二人、抱きあいながら眠る。それだけでみやこは疲労やストレスが飛ぶらしいし、わたしはパワーがみなぎってくる。効果は違うけれど、これからシーズン終了まで戦い抜くためにこれは必要不可欠だ。






「せっかく開幕戦でツアー開催となったのに肝心の太刀川さんが控えなのは残念ですね………」


「まあどこかで出ますよ、みっちゃんは」


 気がついたらできていたわたしの後援会。30人の応援団が内野スタンドの一角に陣取るようだ。


「都さんはスタメンだけど………」


「大丈夫、きっとあの人も見られるわ」


 自主トレのときにお世話になった井上さんたち五人と、わたしは最後まで会わなかったもう一人、その五人をまとめるリーダーはバックネット裏の席に六人並んで座るらしい。後ろ姿ではあるけどみやこを間近で見られるいい席だ。




「行きましょう、みち。当初の予定が狂ってしまったとはいえ、あなたが球界の中心になる一年になるのは変わらない。今日も勝敗が決まる大事な場面で呼ばれるはず」


「しっかりバットを振っておくよ。でもチームとして一番いいのはわたしの出番がないことだね」


 代打を使う必要がない、つまり大差で圧勝のゲームだからだ。わたしが登板するのは逆に負けが決まったゲーム。これはないほうがいい。もちろんわたしが捕手として出るのはみやこ、それに戸場さんに何かあったということだからやっぱりそうならないのが理想だ。


 でも143試合もあれば必ずわたしが出なくちゃいけない場面がやってくる。いつ呼ばれてもいいように体も心もしっかり準備しておくのがプロだ。そんなもの当たり前でいまさら言う必要はない………そう思っていた。



 



 わたしたちが車で球場に向かう間、横浜首脳陣に激震が走っていた。まさに予定外のことが起き、いきなり最悪の事態が発生してしまった。


「………どうします?他の先発は使えませんよ?それぞれいつ投げるかをもう決めちゃってますから」


「開幕戦からブルペンデーというのもなんだかね。負けるにしても形は大事だよ、常識的に考えて」 


 開幕投手の今中さんが40度近い高熱で登板回避を余儀なくされた。代わりの投手選びに新浦監督は頭を抱えた。


(……酷いスタートになった………先発経験があるからって中継ぎの岩田を先発させたら後々に響くし二軍の今日の先発は育成選手だからそのまま呼ぶのは無理。ブルペンデーなら二吉か小須田あたりに頼むか……でも彼女たちだとまず負ける……)


 今日しかないのなら無茶もできる。でも先は長いのだからなるべく投手陣の役割分担やコンディションが崩れないやり方で凌ぐのが最善だ。今中さんもケガではないから来週は投げられる。ちょうどいい代役はどこかにいないだろうかと監督はしばらく考え、その結論に達したのだった。





「…………は、はひっ!?」


「今日は任せた。去年のオールスターでも緊急登板に成功したみっちゃんならいける!他にいないんだよ」


 

 いくらいつ呼ばれてもいい心構えを、と言ってもこれで平常心を保つのは無理だ。すでに決定事項だった。


「……みち!こんなことがあるなんて……!」


「…………どうしようかな……いや、準備するしかないのはわかってる。わたしが開幕投手………」


 先発投手変更が認められ、ゴーレムズは左の今中さんから右のわたしになっても先発メンバーはそのまま、わたしたちのほうが少し変えることになった。



 8 上里

 6 大和

 5 ロメック

 3 フォックス

 7 佐々野

 9 中園

 4 石河

 2 木谷

 1 太刀川


 打順を入れ替えた。みやこの負担を少しでも減らすために8番に下げて、打線の繋がりを考えてそれ以外も変更があった。



「ウソ!みっちゃんが先発!?最高の応援ツアーになった!こんなサプライズ、夢じゃないの!?」


 太刀川みち後援会は大喜びだった。そして、


「………見て!これ………」


「だから言ったわ、あの人も見られるって」


 六人のスタッフさんたちもガッツポーズをしたそうだ。もちろんこれは超少数派で、ほとんどのブラックスターズファンは落胆し、これを悲報どころか訃報とまで言うのだった。


「今年も駄目か………開幕前から終わったわ」 


「今からでもチケット売れないかな?どうしてわざわざゴーレムズに虐殺されるのを生観戦しなきゃいかんのか」


 ワクワクが止まらないはずの開幕戦を前に、すでに絶望で気力と活力が奪われていた。ゴーレムズファンが言うには、ブラックスターズ側のスタンドはゾンビの集団みたいだった、とのことだ。



 一方でプレーするブラックスターズの選手は開き直っていた。これじゃ負けて当たり前、余計な緊張や気負いは消えてなくなった。 


「観客たちももっと気楽に構えりゃいいのにね」


「そうそう、球場グルメを満喫するとか」


 なら勝たないといけないゴーレムズのほうはプレッシャー……というわけでもなく、闘志に包まれていたようだ。


「まさかこんな形であの太刀川に復讐できるとはね」


「去年私たちが優勝できなかったのはあいつのせいと言っても過言じゃない。早々にノックアウトしてやるわ」


 わたしへの恨みの炎が燃え盛っていた。逆恨みでもないから普通にパワーアップしていて、注意しないと簡単にやられてしまうんだけどそのときのわたしは相手のことなんて考える余裕はない。他の仲間たちのようにリラックス、とはいかなかった。

 ジェンティル・ロメック(横浜内野手)


 期待の新助っ人。右投右打。サードがメインポジションで、オープン戦絶好調。みっちゃんや奈村紀子からレギュラーの座を勝ち取った。


 元になった選手……ラミレス政権一年目、序盤の大出遅れの原因となったあのダメ外人。翌年以降韓国で活躍しているのは別人としか思えない。こんな選手が元ネタということは……?



 ソレミア・フォックス(横浜内野手)


 超がつくほどの大物新助っ人。左投左打。ファーストがメインポジションで、オープン戦絶好調。みっちゃんや奈村紀子からレギュラーの座を勝ち取った。


 元になった選手……2003年に横浜に所属したダメ外人。現役メジャーリーガーながら15試合しか出ずにホームランはたった1本、それで7億円以上を手にした最悪の男。こんな選手が元ネタということは……?

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― 新着の感想 ―
[一言] 四角…w 打った時リツイートみたいな手の形してそう 干されてない大林さんとか元ネタとの比較も相変わらず楽しいです。
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