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第三捕手のみっちゃん  作者: 房一鳳凰
第二章 後半戦
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第39話 見上げてごらん夜の黒星を

 長崎さんが戻ってこれるのはシーズン最終盤、クライマックスシリーズには間に合うとのことらしい。まあ、Aクラスに入れなきゃ間に合っても意味はないんだけど。


「長崎のいない間はサードのスタメンは固定しない!昇格する柴山、セリアコを含め、石河やみっちゃんに入ってもらうケースも頭に入れてほしい!総力戦で八月を乗り切ろう!」


 守備のうまい柴山さんはいいとしてセリアコをまた一軍に戻す、わたしをサードで使うって本気で言っている時点で横浜ブラックスターズは追いこまれていた。ちなみにセリアコを上げるために新助っ人マイウェイはもう降格。グダグダすぎる。


 こんなチーム状況で火曜日からゴールデンゴーレムズを招いてのハマスタ三連戦。夏休み本番で試合前や後にいろんなイベントを用意しているみたい。大丈夫かなぁ。





 6 石河

 4 セト

 5 セリアコ

 3 佐々野

 8 音坂

 7 中園

 9 細海

 1 ヒュウズ

 2 太刀川



 わたしは初の9番で出場。ラメセス監督が言うには、わたしは足が遅いから7番や8番で塁に出てもヒュウズがかなりうまくバントを決めないと刺されてしまう。だったらヒュウズが送ってチャンスになったところでランナーを還してほしいと。


「チャンスに強いみっちゃんは9番に適任だ」 


「は、はい!頑張ります」


 攻撃の中心二人を欠く苦しいなか、監督の導き出したオーダーがこれだった。監督と通訳さんで決めたというスタメンに、コーチたちは頭を抱え選手たちは絶望の表情を浮かべていた。


 みやこはぶつぶつと小声で呟き続け………。



「なんでみちが9番?素人が適当に組んでもありえない。チャンスに強いんだったら3番か4番でいいものを。2番強打者に固執しているのに音坂や無能外人をクリーンナップに入れる始末。普通にセトかみちを4番にして残りは下位打線に放りこみピッチャーはラストバッター……なぜ普通のことを普通にできないのか」


「み………みやこ?」


 采配批判が次から次へと口から出てくる。さすがにまずいよと思ったけれど、禍々しいオーラが誰も近づけさせなかった。


 

 試合のほうは………2ー0で負けた。ヒュウズはわたしと組んで初黒星。七回1失点だっただけに悔しい負けになった。敵の4番、田沼のタイムリーだけに抑えて打線の援護を待ったけれど最後まで得点できなかった。わたしも守るほうでは二度相手の盗塁を刺した。でも打撃は2打数ノーヒット、1四球だった。


 結局3打席全てランナーのいない場面で回ってきた。チームはゴーレムズのエース、菅からチャンスは作るものの、いいところでセリアコや7、8番が凡退してしまう拙攻が続いた。




「うーん………やっぱりこうなるかぁ」


 翌日の狂スポではわたしがボロクソに叩かれていた。



『横浜は9番・太刀川が誤算だった。菅の同じ変化球、同じコースのボールに2打席連続凡退で学習能力はゼロ。盗塁を刺したのはいいが、守りがよければ打つ方はダメという、一度に二つのことができない無能ぶりは哀れだった。ジャガーズ戦で活躍したのは覚醒ではなく確変に過ぎず、今後スタメン出場するのなら実力を考えても9番続行が適任かもしれない』 



 まあ確かにわたしが1本でもヒットを打てたら展開は変わっていたかもしれない。ファンをイライラさせる試合になっちゃったのは事実だ。今日こそは勝たないと………。




『横浜は今日も完封負け!打線が夏バテ!』  



 またしてもゼロ行進、残塁は二桁で前日以上にファンも選手もストレスが溜まるゲーム。試合後には歌手のショーや花火があったおかげでまだファンも落ちついていたけどこんな試合を続けていたら明日はさすがに……。




「みっちゃん、今日はサードでスタメンだよ」


 とうとうこの日が来た。二日間で出塁ゼロ、エラーもしたセリアコでは長崎さんの代役は無理と判断したようで、ついにわたしに声がかかった。打順はいきなり5番に上がっていた。



 8 荒川

 9 セト

 2 木谷

 3 佐々野

 5 太刀川

 7 中園

 6 柴山

 1 今中

 4 石河



 火曜日のスタメンと見比べても、もはやめちゃくちゃだった。打順が日によってコロコロ変わってしまうから自分の役割がつかみにくい。結局全員好き勝手に振り回すだけ、四球を選んだり進塁打を狙うという意識はないしそんな指示も出ない。



「まずいなぁ、なんだか暗黒期に戻ったみたいだわ」


 石河さんがほんとうに困った顔で言う。真の暗黒とは何かを知る人が言うのだからこれは大変だ。 


「なんとか得点しないと。三日連続完封負けはダメでしょ。早打ちもいいけど最近はそれが失敗してる。球をよく見ていかないと。1点でも入れば流れは絶対によくなるから」 


 この三日間、一人だけ打順も守備位置も変わらなかった中園さんがコーチ陣に代わってわたしたち若手に得点を取りにいく必要性を説いた。大振りや初球打ちをするにしても何でもかんでも振るんじゃなくてストライクボールを見極めるようにと。 



「中園さん、やっぱり馬肉の店よりコーチになったほうがいいですよ。いまの言葉で皆の意識が変わりました」


「ははは、まーそのときの気持ち次第だねぇ。まだ辞めないし、できる限り選手でいたいからね」


 まずは形を問わず1点をもぎとる、皆の心が一つになった。その甲斐あって今日はスコアボードに横浜の得点が刻まれた。

 


「オーライ!」


 今日はサードの守備機会が少なかったのもラッキーだった。内野ゴロ二つ、それにファールフライを無難に処理できた。三塁ランナーがいる場面もほとんどなかった。でもだいぶ神経を使っちゃったせいでバッティングは4の1、フェンス直撃のシングルヒットだけだった。バッティングを評価してもらって慣れないサードで起用されたのに期待に応えられなかった。




「金返せーーーーーっ!」 「最悪!最低!」

「レズレイプしてやるわーーーーっ!!」


 とうとうごまかしがきかなくなってファンの怒りが爆発した。球場の照明を落として選手たちが登場するビデオの上映中、主役のはずのわたしたちは静かに逃走、襲撃されないように暗いうちに球場を後にした。確かに点は入ったけど12失点じゃ納得するファンはいない。


 他5球団と一通り対戦した後半戦最初の15試合は6勝9敗。3位どころか5位も見えてきた。



『5番サードで先発出場した太刀川だったが、これといった活躍はなし。やはり代打程度がちょうどいいのかもしれない。また気になるデータとして、ハマスタでは全くホームランが打てない。本拠地との相性が悪いという痛恨のデータにラメセス監督やフロントが気がつけば、チーム追放も見えてきた』



 ここぞとばかりに狂スポが煽る。でもここまでのホームランは確かに神宮で3本、宮城と大阪で1本。ミルルトの投手に相性がいいのか神宮と相性がいいのか……ハマスタにミルルトを迎える三連戦でその答えが出る。とはいえ………。



『横浜は今日から3選手が一軍復帰!倉木はショート、上里はセンターで即スタメン!』


 懲罰降格していた選手たちが一斉に帰ってきてわたしのサードスタメンは一回だけで終わり。再びベンチとなった。戸場さんが戻ってきたので後輩の山木は降格、細海も上里さんと交代で落ちていったからまたわたしとみやこが一軍野手の最年少となった。




『打ちました!木谷の打球はレフトスタンド中段!均衡を破る2ランになりました!5ー3!横浜2点リード!』



 みやこはどのチームとの対戦でも成績は安定している。相手投手や球場に左右されず活躍する。わたしも今年はいまのところ高い打率をキープしているけど、神宮をはじめ、敵地での活躍が目立っているのは自分でもわかっていた。


「やったねみやこ!これでヒーローインタビューだ」


「まだ試合は中盤……とはいえあなたと並んであの場に立つことができたら幸せ。出番は必ずくる、頑張って」


 ハマスタはわたしたちが勝ったときは試合後のインタビューに3人呼ぶこともあるから他の球場より呼ばれるチャンスがある。 



『ショートの倉木追いつけません!タイムリーヒットでミルルト同点!八回表、試合は振り出し!』


 六回3失点で粘った前橋さんの後のリリーフが全員打たれて同点に。みんな連日投げているせいで踏ん張りがきかない。今日も負けちゃうのか、そんな空気を救うのは控え捕手、みやこの陰に隠れながらも高い実力を持つ捕手の一撃だった。




『抜けたーーーーっ!!二塁ランナー一気にホームへ!ボールは中継に戻されただけ!ブラックスターズ、勝ち越し!ラメセス監督の代打采配大当たり!伏兵が打ちました!』


 試合に出られさえすれば結果は出せる、それを証明する一打だった。前半戦終盤から中継ぎになってずっと無失点だったミルルトのセットアッパー、マロンを打ち砕いたんだから。


『ベース上で珍しくガッツポーズ!嬉しそうです』


 普段はしないガッツポーズ、この場面でのタイムリーならついやってしまっても当然だ。このヒットでみやこからスタメンを奪えるはずはない。それでも競争に参加することはできる。いろんな感情が入り交ざって、腕を突き上げたんだろう。



『ここで牽制球。タイムリーの戸場が頭から……』



 わたしが打ったなんて一言も言ってない。控え捕手、戸場さんが見事なタイムリーヒットだった。配球が悪いとかいう謎の理由で二軍に落とされた後も腐らずに調整を続けた成果が出た。


 さて、これで終わればよかったんだけど………。



『ブラックスターズ、選手の交代をお知らせします。先ほどの回代打いたしました戸場、そのまま入りキャッチャー。キャッチャーの木谷に代わりましてピッチャー、川崎!』


 なんと監督はみやこを下げて戸場さんを入れた。どうやらこれは抑えの川崎さんのリクエストだそうで、一度サインを出したら首を振ってもなかなか変えないみやこよりも自分の投げたい球を投げさせてくれる戸場さんのほうがいいと直訴したらしい。


「これで打たれても責任はトバではなく君にある。構わないのかな?覚悟があるのか確認したい」


「はい。わかっています。木谷よりもトバさんで」


 

 屈辱的な交代。でもみやこは全く悔しそうじゃない。呆れたり怒ったりもしていない。わたしが9番で出場した火曜日の試合前のほうがずっと荒れていた。


「みやこ……代えられたのに平然としているね」


「ええ、これであなたの活躍が見られるのだから」


 言ってる意味がこのときはわからなかった。でもすぐにみやこの予言が正確だったと知ることになる。



「ボール!フォアボール!」

「…………!」


 ツーアウト一、三塁。今日の川崎さんは自慢のツーシームを相手に見極められてぜんぶボールになった。戸場さんもストレート中心に組み立てようとするけれど、川崎さんが拒否するので仕方なくツーシームのサインを出すしかなかった。


(みやこだったら絶対に譲らないよね)


 ピッチャーからすれば投げたい球を投げさせてくれない、と不満に感じるだろうけど、みやこは投げる本人以上にその日の調子や相手打者のことまで考えて最善の配球をする。そのみやこを拒否するというのなら、もうどうなっても知らない。




『あああーーーーーっ!ライナーが一瞬のうちにライトスタンドに突き刺さる!ガイエスの逆転3ランホームランだーーーっ!!川崎、痛恨の失投!ツーシームが変化しませんでした!』


 

 戸場さんも監督も悪くない。打たれた川崎さんに全責任がある。自分からみやこを捨てたのだから自業自得だった。 



「これで裏の攻撃の機会が生まれた。みちの出番が!」


「………みやこには勝てないな」


 みやこの未来予知、まさに予言通りの展開になった。だけどこの期待を完璧な形で実現させるにはもう一つ、わたしが打つという難しい条件が残っていた。

 8番投手の狙い


 ①8番に投手を置くとき、7番に足の速いバッターを入れてその選手が出塁すればバントはほぼ成功する。8番捕手、9番投手だと捕手はだいたい鈍足なのでバント失敗の可能性が高まる。


 よって捕手が得点圏打率が高い打者なら9番、そうでないなら6番に入れ7番に俊足、9番にチャンスで打てる打者を用意することで得点しやすくなるとのこと。


 ②しかし8番に投手を置くと打順が早く回ってきて、中盤終盤で1イニング投げる回数が減るかもしれない……そんな心配は無用。先発ピッチャーは約100球、5〜6イニング投げてくれれば十分。ペース配分なんて考えると全力が出せないから行けるところまで行けばいい。よって早い降板も問題なし。


 ③2番に強打者を入れるから下位でチャンスを作らないともったいない。



 などなど理論上はうまくいきそうなのですが、6番に打率の低い捕手を入れることで4・5番が塁に出ても残塁、9番にチャンスで回ってこない、欲張って投手に打たせようとするなど狙い通りいかないことも………。結局全員チャンスに弱い鈍足だらけのDeNA打線では機能しませんでした。


 今回の話でも8番投手は大失敗していますが、正直なところ作戦がハマるかどうかは運次第だと思います。ただ、その運勝負に負けたということはチームの行方は………。

 

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