番外編① ゲーム
「ゲーム?わたしとみやこで?」
野球ゲームの新作が出たそうで、実際にプロ野球選手がやってみる動画を公開してCMにする、そのプレーヤーにわたしとみやこが選ばれた。
「わたしはゲームなんて子どものころ友達の家で少し触れたくらいですよ?みやこもほぼ確実にゲーム素人!」
「それがいいんだよ、初心者でいい。他の選手たちは上手すぎてつまらない動画になる。リアクションも新鮮なものが欲しいんだ……当然ギャラ、お小遣いも出るからやってよ」
お金がもらえるならぜひ、と引き受けた。ちなみにみやこはわたしとの仕事ならやると言ったそうだ。これでなんとなくわかってきた。ゲーム会社は人気選手のみやこを使いたかった、そのために本来呼ばれないはずのわたしに声がかかった。
「みちも私もブラックスターズを操作するらしい……オーダーは自在に変えていいと。ただ……」
「そのやり方もわたしたちはわからないね」
そこからか、と苦笑いしながらスタッフの人が教えてくれた。打順やポジションを変えて、二軍選手を連れてくることもできるんだ……。
「よし……わたしはこれで」
先発投手に今中さん、そして4番にみやこ。
「あれ?太刀川選手、自分自身は使わないんですか?」
「わたしもみやこも捕手ですから二人同時には試合に出られませんよ」
わたし監督は迷うことなく選手のわたしをスタメン落ちさせた。ゲームの中でもわたしとみやこの能力には圧倒的な差があった。
わたしは打球の弾道が全4段階中レベル2、あとの項目はSランクからGランクで評価されていて、肩の力がC、パワーがE、あとはFだった。いや、走力は最低ランクG、数値は5しかなかった。
「ちなみに収録されている全選手で最下位です」
「あはは……しっかり試合を見て決めているんですね。まさにわたしの能力値ですよ」
去年まで、つまり一軍の試合にほとんど出なかったわたしの能力はオールFだったそうで、さすがに二軍の選手のデータは適当になってしまうこともあるようだ。一軍で目立ったからわたしのほんとうの足の速さがバレたってわけだ。
みやこの能力は弾道レベル3、あとはオールC。やはりまだデータ不足みたいで、無難な能力にしたという。
「頻繁にアップデート……更新がありますからね。お二人の活躍に応じて能力も上がりますよ。特殊な能力も付与されるでしょう」
チャンスで打席に立てば一時的に能力アップ、左投手相手なら能力アップなどあるみたいで、逆に三振しやすい、エラーしやすいマイナス能力も存在するようだ。ということは、試合に出れば出るほどわたしの能力は下がってしまう。
「そして木谷選手も………んんん??」
みやこのオーダーを見てわたしとスタッフの人は目を疑った。4番のところにわたし、しかもポジションはピッチャーだ。
「んん〜??ピッチャーが本職じゃありませんよ?いや、野手の登板もできますが…」
「問題ない。さあ、ゲーム開始!」
投手能力なんてない、125キロのストレートとスローボールしか投げられないわたしがマウンドに立つ。どうなるんだと思われたけど……
『ストライク!バッターアウト!!』
下手くそのわたしには関係なかった。ど真ん中に放られるストレートをまるで打てない。コースに投げ分けられるともうどうしようもなかった。
『アウト!スリーアウト、チェンジ!』
みやこもすぐに上達したとはいえ、バットに当てるのが精一杯。守備は操作しなくても勝手にやってくれるから三者凡退になった。
3イニング制の勝負、盛り上がりは一切なかった。わたしが動かすみやこがみやこの動かすわたし相手に無様に三振を喫したときだけみやこの機嫌がよさそうだった。でも、4番バッターわたしが打ち取られると不快感を露わにした。
「しょせんゲーム……ほんとうのみちの力ならフェンスオーバーだった。とはいえゲームごときに真剣になっても仕方ない……」
「そうだね。思い通り操作できないしつまんないよ。キャッチボールしてたほうが楽しいや」
「…………は、はぁ…………」
自分の能力が低すぎると文句を言う選手もいれば、ゲームを使って知らない選手の情報を調べる選手までいるみたい。でもわたしたちは現実のプロ野球選手なわけで、わざわざゲームの世界に入る必要もないから………。
『ストライク!バッターアウト!ゲームセット』
互いに無得点のまま終わっちゃった。ゲーム内容、わたしたちの反応や会話も大して面白くなかったのが自分でも、周りの雰囲気からもわかる。大失敗だ。
「あ、ありがとうございました〜……」
後日、わたしたちの動画はボツになって未公開、何事もなかったかのように他の選手がワイワイガヤガヤ熱戦を演じていた。わたしたちだとリトルリーグ以下の動きだったブラックスターズナインが現実以上のキレで好プレーを連発した。
「みやこのことだからわたしの能力についてもっと文句をつけるものだと……」
「……あのゲームのあなたはとても酷い顔でどう見てもあなただと思えなかった。あれは別人」
「それを言うならみやこだってもっと美人だよ。こんなに目はきれいで鼻が高くて髪の毛も……」
「………!こ、この話はもういい!」
みやこはすぐにマスクを深々と被ってその顔を隠してしまった。わたしたちがテレビやスマホのゲームに触れることは二度となかった。
みっちゃんはまだまだパワーアップしますが、走力だけはこのままかもしれません。