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05

 上が片付く前に、下から増援が来てしまった。

 全てが想定より早いのは、やはりあの真っ白な球体の所為なのか……なんにしても、ここからが正念場だ。

「コーエンさん、あとどれくらいで道が出来る?」

 空の魔物を切り落としながら、俺は訪ねる。

「あと十五分程度だ」

「わかった。じゃあ、空の魔物を処理したらすぐに飛ぶ準備をしておいて」

 ヘリの安全を確保出来れば、防衛戦は短縮できるだろう。

 そのためにも、下から来た奴等は無視して、上を優先して片付ける必要がある。

 幸い、今のところはまだ足の速い奴等だけが下からの増援なので数は少ないし、上の方も一応終わりが見えてきている。無理をするならこのタイミングだ。

 ある程度防御に寄せていたスタンスを、攻撃に傾ける。魔力の消耗を気にせずに、具現化出来るギリギリの射程距離の武器を用意して、とにかく数を減らす。

 さすがに集中力が切れてきたこともあり、魔物の攻撃を被弾する数も一気に増えたが、そこはレニの頑丈さで押し切っていく。

 だが、それでも大量の増援が追加される前に上を処理するのは難しそうだった。

 あと二分程度猶予があれば間に合ったんだろうけど……まあ、無い物ねだりをしても仕方がない。

 だから、有りそうなものを強請る事にしよう、と俺はドールマンさんに声を掛けた。

「信号石はありますか?」

「信号石? 一応荷物の中にあるが、荷物って教授の倉石の中に入れたんだったか? どこにあるかは少し判らないな。それに、この状況で効果は期待できないぞ」

「それは解っています。けど、試したい事があって」

 レニ・ソルクラウのもう一つの魔法。

 アカイアネさんがくれたヒントとレニの記憶で、ある程度のあたりはつけられている。

 もし俺の予想通りの力だとすれば、それは起死回生の一手になる見込みがあったし、仮に失敗しても特にマイナスにはならないのだ。試さない理由はない。

「わかった。ザラー、ユミル、あと手が空いているなら教授も、急いで信号石を見つけ出してくれ。あとアネモー、狙って欲しい奴がいる。範囲を優先した攻撃だ。出来るか?」

「……ヤバい奴が来るんだね?」

「あぁ、真っ先に始末しないと場が乱されそうだからな」

 そう言って、ドールマンさんは俺が切り開いた下層に続く道に視線を向けた。

 小型の魔物がある程度の間隔をもって昇ってくる姿が見える。だが、それは先程までと変わらない光景だ。

 強力な個体の気配は特にはなさそうだが……微かに、ドールマンさんの魔力の残滓のようなものを、下方で感じ取る。

 おそらく、彼の血だ。

 彼の血を付着させた魔物が、近づいてきている。

 いい目印だった。深手は負わされたが、ただではやられなかったというわけである。

「アネモー、わかるか? そこだ。力の限りぶっ放せ!」

 残滓が強い反応を見せて、位置を明確にする。

 そこに目掛けて、アネモーが先手の一撃を放った。

 足場が少し揺れて、傍にいた魔物もズタズタに切り裂かれ、圧倒的な破壊の痕跡と共にドールマンさんの魔力の残滓が消える。

「……よし、お返しは無事に済んだみたいだな。これであとは――」

「油断しないでください。まだ死んでいませんよ」

 鋭いミーアの声が、僅かな弛緩すらも窘めた。

 その言葉の意味を呑み込むよりも先に、下方で異常が起きる。

 アネモーの魔法で切り刻まれた死体たちが、びくびくと痙攣をしたのち、何事もなかったかのように動き出したのだ。しかもそいつらは、互いの血を混ぜ合わせるように身体を密着させて、その直後身体をどろりと液状化させてスライムみたいな状態になった。

 それから更に、目の前にいた別の魔物の姿に変身して、この最上階に上ってくる。

「……冗談だろ、おい」

 ドールマンさんも始めての経験なのか、微かに声が上擦っていた。

「やはり、不死種ですね。魔域が近付いているのだから、可能性はありましたが……」

 唯一その存在に心当たりがあったらしいミーアが険しい表情で呟く。

 呟きながら頭上の魔物を始末するあたりはさすがだけど、どうにも困った事態になった。空を優先したままにした方が良いのか、それとも不死種たるものを相手にするべきなのか。

「レニさまは、このまま頭上の掃討をお願いします。それの相手は私が引き受けますので」

「大丈夫なの?」

「性能自体はそれほど高くありません。我々では殺せないというだけですし。一度戦った事もありますから。問題はないかと」

 ……こういう時の彼女の淡々さは、とても頼りになる。

 もちろん、ちゃんと注意しておく必要はあるんだろうけど、任せる事にもう不安はなかった。

「その話、出来れば帰り際に聞かせてくれよ。今後の参考にしたいしな」

 因縁の相手から視線を切って、ドールマンさんが笑う。

「そうですね。この場所でなら話す事に問題があるわけでもないですし、あまり気持ちのいい内容ではありませんが、それでも良ければ」

 同じように淡く微笑んで、ミーアは地を蹴った。

 その後ろ姿を少しだけ見送ってから、俺も空に視線を戻す。

 こちらはこちらで、最後の障害になりそうな一体が近付いてきていた。サイズ自体はそこまで大きくはないが、強い魔力を宿している。

 それに、今しがたコーエンさんの指示でアネモーが放った矢を事も無げに回避していて……どうやら、こいつの動きを潰す事が重要になりそうだった。

 こちらの射程外を維持してきそうな相手に、どう近付くか。

 まあ、答えはすぐに出てしまったわけだけど……

「……踏み外したら死ぬかな。さすがに」

 それを怖いと思いながらも、躊躇いを覚えない自分に妙な安心感を覚えつつ、俺はパタパタと浮遊している手近な魔物の背中目掛け、思い切って跳躍した。


次回は三日後に投稿予定です。よろしければ、また読んでやってください。

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