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礼似までもがハルオの事にかかわり始めてしまったので、巻き込まれたくない香は、しばらく部屋には眠りに帰るだけで、用が無くても出かけてばかりの日々が続いていた。
このところ、事件や騒動が続いたおかげで、ゆっくり買い物もできなかったので、のんびりとウインドウショッピングを楽しんだりする。娯楽やレジャーはともかく、香は服や小物、趣味の品に関しては一人で見て歩く方が好きだった。
実際に買う時は誰と一緒でも遠慮なんかしないのだが、欲しい物の目星をつける時は一人でゆっくり品定めをしたいのだ。どうせ自分の周りの人たちは、今、ハルオに意識がいっている。それなら今は一人の時間をゆっくり楽しもう。香は少しばかりすねたような、でも、ハルオにかかわりたくないような、複雑な気分を晴らすべく、次々と店を回って歩いていた。
あちこちの店を冷やかしながら、気に入った小物を二、三買い求め、そろそろ何か食べようかと考え始めた頃、ふと、いやな視線を感じた。自分が尾行する側に回った経験が感覚を鋭敏にしているらしい。はっきりとした気配がある訳ではないのだが、なにか、遠い位置から自分の姿を追いかけられているような気がしてならない。
あまり見通しのいい場所にはいない方がいいな。
香はさりげない風を装いながら、大きなショッピングセンターのフードコートの人ごみにまぎれていった。中にある喫茶店に入るようなふりをして、そのすぐ横に伸びている通路から外に出る。巻いただろうか?
あの視線はもう感じない。ホッとして小さな路地へ向かう。ここを抜ければ軽い軽食が食べられる店があったはずだ。
だが、数歩歩いたところで香は立ち止った。さっきとは違う気配。昔父親に感じた気配だ。全身に鳥肌が立った。
目の前に一人の男が立っていた。しまった。追い込まれたのだろうか? 前にいたのはあの、関口だった。
香は蛇に睨まれた蛙のように、そこから動けなくなってしまっていた。
「あら?」由美は人ごみの中でどこかで見たような顔をみかけた。つい最近に会ったような気がする。
そうそう、確かハルオさんと一緒にいたお穣さん。香さんって言ったっけ。こてつも覚えていたらしく、視線をそっちの方に向けてじっとしていた。
「お買い物かしらね?」何となくこてつに話しかける。
するとこてつが急に脅えたように後ずさった。香が歩いて行く方角を見ながら身体が後ずさっている。
「どうしたの? こてつ」そういうか言わないかのうちに、由美もひどく嫌な予感に襲われた。
何かしら、ひどい胸騒ぎがする。あの方角から冷たい空気でも流れているような。
香はためらうことなくその方向へと歩いて行く。ついには路地に入ってしまった。
どうしよう。何だかあそこには悪い何かがある気がする。何がと言うと分からないけれど、香さんによくない事が起こるのは確かだわ。由美は自分の勘を信じた。
そうだ、ハルオさんがちょっとした知り合いだと言っていたっけ。真柴さんの所に連絡すればいいかもしれない。
由美は携帯を開いて真柴家のダイヤルを押した。