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春のプールはジャージの季節  作者: 与一
六 水しぶき
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春陽の下で、補習の記憶と約束

春の陽射しが眩しい校庭に出ると、地下のプールにいた時間が夢のように思える。すっかり昼を過ぎていた。芦川と並んで歩く。黒いセーラー服の上着に臙脂色のジャージ、俺は青色のジャージに学ラン姿。制服の下に隠れたジャージのファスナーはしっかり閉じられ、襟元も整えられている。四日間ずっと見続けてきた、この姿の彼女が、妙に愛おしく感じられた。

「ねぇ、佐藤」

芦川がふと声をかける。風に揺れる黒髪が春の光に輝いている。

「今日の休み時間に約束したこと、覚えてる?」

もちろん忘れるはずはない。プールに行く前に交わした、小さな約束だ。

「……補習が終わったら、また一緒にここに来ようって話だろ。いつにする?」

「来週の金曜日の午後はどう? その日は部活も休みだし」

「分かった。あけとく」

「それと、もう一つ、覚えてるでしょ。中野先生に頼まれて、出かける直前にした約束」

「……泳ぐ直前まで、プールサイドではジャージを着ておく、だろ」

俺が答えると、芦川は嬉しそうに笑った。黒髪が風に揺れ、臙脂色のジャージの襟が光を受けて鮮やかに映える。

「学校まで来るときも、この格好よ。ジャージにセーラー服の上着。あなたはジャージに学ランで」

「もちろんだ」

即答すると、芦川はさらに微笑みを広げた。

「ああ……楽しみね」

春の風が二人の頬を撫で、ジャージとセーラー服の裾を揺らす。

校門が見えてきた。補習は少し延び、昼を過ぎていた。普段ならここで別れるところだ。

「あのさ……」

芦川が少しためらいがちに口を開く。

「駅前に新しいファミレスできたの、知ってた?」

「ああ、『パレード』だろ。オープンしたてで人気らしい」

「じゃあ、一緒に行かない? 私、本当に今日はお腹がすいているの」

「行こう。俺もだ」何しろ二時間目の後、学校中を歩き回ったから。迷わず答えると、芦川は満足そうに頷き、少し早足で校門へ向かう。俺も慌てて追いかけた。

季節外れの水泳補習は終わった。でも、この四日間が俺たちに確かに新しいものをもたらした証として、再訪の約束がある。そして、これからも続いていく日々の始まりを、春の陽光が優しく照らしていた。


(完)




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