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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第6章
57/74

第56話「読まれたドリブル」


午後4時半。


グラウンドには独特の緊張感が漂っていた。


岐阜日夕館中の選手たちは、火宇根中を4-0で圧倒したその勢いそのままに、自信に満ちた表情でアップを始めていた。


「虎徹、調子はどうよ?」


翼が声をかける。


「最高だね!さっきの試合、1点しか取れなかったからさー…次は2点は取るぜ!」


さくら 虎徹こてつの目は、獲物を狙う肉食獣のようにギラギラと輝いていた。



ーーー



第1クォーター


ピーーーッ!


岐阜日夕館中のボールで試合が始まった。


翼が成磐中の動きを冷静に確認、ボールを素早く虎徹へパスを出した。


虎徹は受けた瞬間、爆発的なスピードでドリブルを開始した。


「よっしゃ、行くぞ!!」


「えっ…速っ!」


マークについていたはずの山田が一瞬で抜かれる。


虎徹のドリブルは本物だった。


見事なスティックさばきでフェイントを繰り出し、尚且つボールを完全にコントロールしながらのスピードドリブル。


塁斗が山田のフォローにすぐ寄せるが、虎徹は塁斗すら3Dドリブルでボールを浮かせてかわす。


「くそっ!…思ってる以上に速い!!」


そのままサークル内へ侵入。


虎徹が強烈なリバースヒットを放った。


「よっしゃもらったーー!」



…しかし、シュートはゴールポストを直撃。


ガンッ!!!


「あぁっ!まじかよっーーー!」


虎徹が叫ぶ。


「おおーーー!惜しい!!あともう少しで入ってた!」


観客席から一斉にどよめきが広がり、横断幕が大きく揺れた。


「惜しい惜しい!虎徹すごく良いぞ、どんどん打ってけ!」


篠原が虎徹をほめ励ます。



第1クォーター中盤。


岐阜日夕館中は序盤の突破から、虎徹を中心に攻撃を組み立てていく。


翼から虎徹へパスを出すと、虎徹が迷うことなくすぐさまドリブル突破してシュートを打ちに行く。


しかし今度は蒼が読んでいて横っ飛びからのセーブを見せた。


「ナイスキーパー!」


2本目のシュートも、蒼が反応してスティックで弾きだした。


「あぁ―!なんで決まらないんだよー!!」


虎徹はシュートがゴールに飛ぶが得点にはならず、イライラし始めたていた。



一方、成磐中は落ち着いてパスを回す。


緋色から焔、焔から照へ。


照の少し強引なシュートは枠を外れたが、確実に攻撃の形を作っていた。



「虎徹、一度落ち着け」


翼が声をかけるが、虎徹は聞いていなかった。


「つばさーーもう一回!パスくれ!」


「もう…聞こえてんのか虎徹のやつ。…まぁ、調子が良さそうだしまだ大丈夫か」


翼は虎徹にパスを回し得点を狙っていく。


が、シュートを打つ虎徹はゴールにならず頭を抱えてピッチを見上げた。


「がーーー!入らないっ!!」




第2クォーター 5分



岐阜日夕館中のベンチで、篠原が全体に声をかけた。


「あれだけ攻め続けた虎徹に注意が行ってる今がチャンスだ」


堀田も頷く。


「そうだな、そこ使って俺たちで決めよう」


しかし翼がボールを持つと、また虎徹が激しく要求する。


「つばさーーーヘイ!パス!!次は入る気がする!今度こそ決めるからもう一回!」


飛び跳ねてパスを要求する虎徹をよそ眼に翼は、冷静に奥に走る篠原を選んだ。


「なんでーーー!!?」


虎徹の叫ぶ後ろで篠原の巧みなスティックワーク。


なんなく山田をかわしてドリブルでエンドラインを抉っていく。


GK前に走りこんでいた堀田へラストパスを送ると堀田はそのままダイレクトシュート!


惜しくもGK蒼に当たりボールが高く上がりデンジャラスプレーとなり岐阜日夕館中はPCを獲得した。




そのPCを篠原がフリックを冷静に右下段に狙いゴール!


岐阜日夕館中が先制に成功した。


「よし!!!」


岐阜日夕館中の応援席が見事な先制点に大盛り上がりとなった。



0-1



「つばさー、なんで俺に回わしてくれないんだよ―――!」


虎徹が翼に詰め寄る。


「落ち着けって!お前にマークが集中してるだろ、それにさっき休憩の時にみんなで話したじゃないか」


「でもでもでも、俺が決めないと!俺も決めたい!」


「もー……」


翼は呆れていた。調子が良すぎるのも問題だと…。




再開後、センターパスからボールを受ける緋色が岐阜日夕館中の反応を見ていた。


(10番の…虎徹?くんは、勝ってるのになんかイライラしてるな。もしかしたらそこがチャンスなのかも)


緋色は冷静に、虎徹の動きを観察していた。


堀田が成磐中のパスをインターセプトするとすぐさま前線に送る。


やっとボールを受けた虎徹が強引に一人で突進してきた。


「虎徹!右が空いてる!」


「虎徹、無理すんな、一回下げれるぞ」


翼の声も、篠原の指示も聞こえない。


(よっしゃー俺が、俺が決める!)


しかし緋色は単純になっていく虎徹の動きを完全に読んでいた。


(多分、左から中に切れ込む…)


「塁斗先輩!!」


虎徹が左にドリブル。緋色が誘導し、塁斗が待ち構える。


「もらった!」


塁斗がボールを奪い、即座にショートカウンター。


「えっ!!?」


驚く虎徹を置き去りにし、塁斗→緋色→焔の高速パス。


焔がスピードに乗ったまま、サークル内で堀田と勝負をする。


3Dドリブルからエアリアルドリブルに繋げ堀田を完全に抜き去り、冷静にプッシュシュートを放つとこれがGKの足元を抜くゴールとなり成磐中が同点に追いついた。



1-1



「やったーーー!ナイス焔!」


焔に緋色達が駆け寄り喜びを爆発させた。


「嘘だろ…あんな一瞬で決められた…」


虎徹が唇をかみしめ悔しがっていた。




第3クォーター 中盤


虎徹の苛立ちは頂点に近づいていた。


何本ものシュートを放ってはいるが無得点。


「なんで入らないだよー!」


篠原が空回りする虎徹の肩を掴む。


「虎徹、一度ベンチで頭を冷やせ!」


「でも!…俺が」


「まだ大丈夫だから、少し落ち着け!」


3年生の言葉に、虎徹は渋々ベンチへと下がっていった。


篠原、堀田、翼の3年生と2年生のコンビネーションで、岐阜日夕館中が攻める。


見事な連携から、翼のヒットシュートを打つが蒼がクリア、得点を許さない。



その直後、虎徹がコートに戻ってきた。


「頭冷やしました!…俺が決めるー!」


ボールを奪うと、また単独突破。


左に相手をひきつけてからの右へ。ボールを絶妙に浮かせ突破を図っていく。


しかし緋色には虎徹のドリブルコースがはっきりと見えていた。


(あの子…完全に頭に血が上ってる。……中国大会の時の僕と同じだ)


虎徹の縦への突進を読み切り、ドリブルを止めた。


緋色はそこから照へとパスをつなぎすぐにサークルへ向かう。


「もらったでー!」


照がフェイントを入れ、そのまま豪快にリバースシュート!


惜しくもGKにはじかれると、セカンドボールは詰めていた緋色のもとへ転がってきた。


「打てる!」


その瞬間、後ろから虎徹のチャージを受けると緋色は倒れてしまった。


「ああっーー!!!」



ピピ―――――――ッ!!!


審判が笛を吹くとPSが成磐中に与えられた。


「PSだ!しかも……虎徹にはイエローカード*!! 反則がなければ確実にゴールだったしPSでも仕方ないか…」


観客席がどよめく。


イエローカード

*ホッケーにはグリーン(警告)、イエロー(2分以上の退場)、レッドカード(退場)とある。(大会によってはグリーンカードでも退場処分あることもある。今大会はこの罰則で行っています。)


「ああーーー!ここで退場かーー!成磐中はチャンスだ!!」


観客席がざわつくと、下を向く虎徹に篠原と堀田が近づいてきた。


「ばかっ!あれだけ落ち着けって言ったのに!」


「まぁまぁ。虎徹らしいっちゃ、虎徹らしいじゃん。大丈夫だって、気にすんな!もう一回、頭冷やしてこい」


先輩がやさしく虎徹の背中を押すと虎徹はジャッジ席横の椅子へと向かっていった。


「すいませぇーん・・・」



このPSを照が難なく決め成磐中が逆転に成功する。


「よっしゃーーーー!!!さすが俺―――」


照が叫んで喜んだ。


ゴールが決まった後、一人欠けた岐阜日夕館中は、必死に守備の形を保つ。


ホーンが鳴り、そのまま第3クォーターが終了した。




2-1




「虎徹!いい加減にしろ!」


短いクォーター間の休憩に翼がついに怒った。


「もっとチームのことを考えて動けって!せっかく調子がいいのにもったいないぞ!」


しかし虎徹は、さっきまでの威勢がなくなり何も聞こえていなかった。


失敗を取り返そうと再び強引な単独突破。


「あっ、またあいつ!」


翼が止める間もなく虎徹のドリブルは緋色は完璧に動きを読まれカットされる。


(また同じコースだ……こんなに上手なのに…)


ボールを奪い、青い光に導かれるように焔へパス。


焔と緋色のワンツー。


最後は照への決定的なスルーパス。


「これで決まりじゃー!」


3-1


試合終了のホーンが鳴る。ブーーーッ!


虎徹はその場にへたり込んだ。


「あんだけ打って……0点……しかもカードももらって、PSも与えてしまった・・・」


篠原が虎徹の隣に座った。


「お前なぁ…ドリブルは上手いし、シュートも悪くなかった…けどな」


「あんだけ突っ込んだら、そりゃ止められるよ。」


篠原と堀田が声をかける。


「でも俺がやらなきゃって…でも最後は抜けなかったし、ひとつも点が入らなかったっす…」


「それは、一人で何でもかんでもムキになってやるからだろ?」


翼も加わる。


「虎徹の実力があれば、1人の技術ばっかりじゃなく俺たちのパスも使えばもっと点が取れるだろーが」


堀田も頷く。


「全国にはもっと強い奴らがいるんだぞー?」


虎徹は震える声で言った。


「分かってます……分かってるんですけど……」


「ま、お前もまだまだ成長できるってことだよ!次は勝とうぜ!」


篠原は虎徹の肩を叩き整列へと促した。


「…はい」


虎徹は小さく頷いた。





整列後、虎徹は緋色を呼び止めた。


「なんで……なんで全部読めるんだよ」


緋色は少し考えてから答えた。


「んー……君は僕に似てるなって」


「…え?」


「言われた事があるんだ……『一人じゃ限界がある』って。」


「…」


虎徹の目が見開かれた。


「次はもっと周りを頼って、みんなで戦ってみてよ。虎徹くんほどの能力があればもっと強くなれると思う!……きっとそっちの方が楽しいよ?」


「……次は絶対に負けないからな」


「うん、楽しみにしてる!僕も負けないよ!」


緋色は胸の奥で静かに確信した。


(あの時の自分と同じだ。でも、だからこそ――彼はもっと強くなれる)


激戦を制した緋色は昔の自分を重ね、成長を感じていた。



ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!


今回の虎徹は、どこか「あの頃の緋色」と重ねられるキャラクターでもありました。


技術はある。スピードもある。でも「チームで戦うこと」をまだ掴み切れていないその姿に、

かつての緋色自身が気づき、止め、そして「言葉で届けてあげる」。

まさに“繋がっていく物語”を書けた気がします。


虎徹というキャラクターがここで終わるわけではありません。

彼がどんな風に“次”へ成長していくのか──

僕自身も、彼自身の物語が続いていくのを楽しみにしています。


そして今、クラウドファンディングにも挑戦中です。

この作品を、本というかたちにして届けたい。

この物語の中にある、誰かに刺さる“あの一言”を、ページとして残したい。


【クラウドファンディングはこちら】

https://camp-fire.jp/projects/884214/view


もし「また頑張って描いてほしいな」と思っていただけたら、

あなたの“応援のパス”を、ぜひ作品に届けてもらえると幸いです。


ここから、また次の試合へ。

そして次の「一言」が生まれる瞬間へ。


いつも、本当にありがとうございます!


──ぱっち8

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