第55話「それぞれの初戦」
朝11時半
第1試合。
成磐中学校の選手たちは円陣を組んでいた。
「よし、いよいよ全国大会初戦だ!」
みち先生が穏やかに、しかし力強く言った。
「相手は近畿4位の火宇根中。堅実な守備と速攻が売りのチームです」
「任せとけーー!俺が点取っちゃるけん!」
照がいつもの調子で胸を叩く。
「僕、緊張してきました……」
焔が正直に言うと、緋色が肩に手を置いた。
「大丈夫、焔はいつも通りやれば必ず通用するから」
ーーー
試合開始
ピーッ!
試合開始のホイッスルが鳴った。
火宇根中のボールでスタート。
「落ち着いていこう!」
緋色が声をかけるが、全国大会の雰囲気に飲まれているのか、成磐中の動きが硬い。
開始3分、火宇根中の速攻。
素早いパス回しから、FWがシュート。
「くっ!」
蒼が反応するも、ボールはポストに当たり運悪くゴールに吸い込まれた。
0-1
「しまった……」
焔が悔しそうにつぶやく。
観客席には、岐阜日夕館中学校の選手たちの姿があった。
「篠原先輩、成磐中ってどんなチームですか?」
2年生FWの桜 虎徹 (さくら こてつ)が、3年生エースの篠原 翔馬 (しのはら しょうま)に聞く。
「中国大会準優勝のチームだな。パンフレットには8番と9番に注目って書いてあるな」
篠原は冷静に答える。
隣で、同じく3年生DFの堀田 鉄平 (ほった てっぺい)がコートを見つめていた。
「守備陣も悪くなさそうだ。あの3番の選手、けっこう動きがいいな」
2年生MFの織田 翼 (おだ つばさ)も真剣な表情で観戦している。
「8番は同じ2年生か…負けられないね」
第1クォーター中盤
「みんな、落ち着いて!練習してきたことをやれば大丈夫よ!」
みち先生が声をかける。
「そうじゃ!みんなびびってどうする!せっかくの全国じゃ、楽しもうで――!」
照の言葉で、チームの表情が変わった。
緋色のパスが正確に通り始める。
「よっしゃー!ナイスパス!」
照が受けて、強烈なシュート!
GKが弾いたところを焔が詰める。
1-1
「ナイッシューー!」
第2クォーターに入ると、成磐中が完全にペースを掴んだ。
焔の3Dドリブルが火宇根中の守備を翻弄する。
「すごい、1年生であのテクニック……やばいな」
観客席で虎徹が驚く。
焔がDFを抜き去り、サイドに広がっていた緋色へパス。
緋色は冷静に照にスルーパス。
「もらったでー!」
照が豪快にゴール!
2-1
ーーー
同じ時刻、隣のコートではCグループの注目の一戦が行われていた。
海衛学園 vs 涌陽中
北村凜太郎と藍・ウォール・功多。
二人のDFが激突していた。
「行くぞ!」
涌陽中のFWが突破を試みる。
凜太郎は相手の動きを完璧に読み、的確なポジショニングでコースを塞ぐ。
「読まれてる……」
ボールを奪った凜太郎は、素早く前線へパス。
「ナイス、凜太郎!」
海衛学園が攻め込む。
しかし、中央には功多が構えていた。
一人で中央全域をカバーする圧倒的な守備範囲。
「通さない」
功多の冷静な声。
FWが仕掛けるも、功多の長い手が伸び簡単にインターセプト。
第3クォーター、涌陽中がPCを獲得。
功多がフリッカーとして構える。
「止めるぞ!」「おう!」
凜太郎が1番騎*としてゴールの中に立つ。
*PC時は守備側は3人(6人制)+GKがゴールの中から守備。ボールが攻撃側のパサーから出された瞬間から守備ができる。必ず顔面をメットで保護しないといけない。
功多の強烈なフリック!
しかし、凜太郎がスティックで弾きシュートを防いだ。
「ナイス凜太朗!!」
試合終了。
海衛学園 0-0 涌陽中
両チーム無得点だが、内容は濃密な守備の応酬だった。
「聞いていた通りのとても良い守備だった」
功多が握手を求める。
「君もね。一人であれだけのエリアを守れるなんて…すごいよ」
「でも、チームで守る君たちのスタイルも厄介だったよ。参考になる!」
「また戦ってみたいな、今度こそ勝つ!」
「ああ、俺の方こそ!」
凜太郎の言葉に、功多はうなずきお互いを認め合っていた。
ーーー
場面は戻って成磐中の試合。
第3クォーター、緋色が一瞬の隙を突き焔へのパス。
完璧なタイミングでのスルーパスになり焔が冷静に流し込む。
3-1
ブーーッ!
試合終了のホーンが鳴った。
「よっしゃー!全国初勝利じゃー!」
照が叫ぶ。
観客席の岐阜日夕館中の4人が立ち上がる。
「へぇ…面白いチームだな」
篠原が言う。
「8番が司令塔かな。こいつらとの試合は楽しみだ」
虎徹が緋色を見つめていた。
昼食後、成磐中のメンバーは午後の試合に向けて準備をしていた。
「次は岐阜日夕館中か」
蒼が資料を見ながら言う。
「東海1位……去年のベスト8」
「まず相手の試合を見に行こう」
緋色の提案で、みんなで観戦に向かった。
午後2時
岐阜日夕館中 vs 火宇根中の試合が始まった。
開始30秒。
岐阜日夕館中の3年生FW・篠原 翔馬が動いた。
華麗なドリブルで2人を抜き去り、冷静にゴールを決める。
1-0
「え、はやっ!」
焔が驚きの声を上げる。
「あれがこのチームのエース……」
緋色も衝撃を受けた。
第1クォーター終了時、すでに2-0。
篠原の1点と、2年生FW・桜 虎徹のゴール。
「あいつ、僕と同い年……」
緋色が虎徹の動きに驚愕する。
第2クォーター
3年生DF・堀田 鉄平を中心とした守備陣が、火宇根中の攻撃を完全にシャットアウト。
「全然前に通らない……」
塁斗が呟く。
そしてカウンターから虎徹が2点目。
3-0
「やべぇなこりゃ……」
照も珍しく不安そうな顔をしている。
第3クォーター
2年生の織田 翼がMFとして試合をコントロールする。
最後は篠原への完璧なアシストから4点目。
4-0
完封勝利。
「思った以上に強いチームだ……」
蒼が驚きの声を上げた。
ーーー
観客席を立つ時、緋色は岐阜日夕館中の選手たちと目が合った。
篠原が軽く頷き、虎徹は挑戦的な笑みを浮かべた。
「緋色先輩……」
焔が心配そうに声をかける。
「大丈夫。でも、相当強いね気を引き締めていかなきゃ。」
チームテントに戻り、みち先生が話し始める。
「見ての通り、相当な強豪です。でも―」
「でも、僕たちにもチャンスはある」
緋色が言葉を継ぐ。
「僕たちは颯真とも戦った。中国大会準優勝チームだ」
「そうじゃ!ビビってたまるか!」
照の言葉で、みんなが気合を入れ直す。
午後4時半。
グラウンドに向かう途中、虎徹とすれ違った。
「楽しみにしてたよ、8番」
「……僕も!」
緋色は覚悟を決めて答えた。
コートに立つ両チーム。
審判がコイントスを行い、岐阜日夕館中のボールに決まった。
(東海1位 岐阜日夕館中……でも、負けるなんて決まってない!僕たちが勝つ!)
審判がホイッスルを口に当てる。
全国大会グループリーグ最大の山場が、今始まろうとしていた。




