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緋色のスティック  作者: ぱっち8
第6章
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第54話「ホッケーの町」


出発の朝


早朝5時、まだ暗い成磐中学校の正門前に、大型バスが停まっていた。


「おはようございます!」


焔の元気な声が、静かな朝の空気を破る。


「朝早いのに元気じゃなぁ……」


照が大きなあくびをしながら、重そうな荷物を引きずってきた。


「全国大会だもん、興奮して昨日全然寝れなかったよ」


焔が目を輝かせる。


女子部のメンバーも続々と集まってきた。


えみと美咲も大きなバッグを持って現れる。


「おはよう、ひいろくん」


えみが声をかけると、緋色は少し照れたように返事をした。


「おはよう、えみちゃん!」


美咲がにやりと笑う。


「今日も朝から、熱いねぇ〜」


「もう、美咲ー!」



見送りの保護者たちも集まってきた。けいと巧真、えみの両親、焔の父親など。


「緋色、頑張ってね」


けいが優しく声をかける。


「岩手は遠いけど、初の全国大会!後から必ず応援に行くからね」


巧真も静かに頷いた。


「開会式には間に合わないが、試合は見に行くよ。自分のプレーをして、しっかり楽しんでこい」


「うん、頑張る!」


みち先生が手を叩いた。


「では、みなさん、バスに乗りましょう。岡山駅まで移動します」



岡山駅で新幹線に乗り込む。


男子部と女子部で車両がおなじのため、成磐中のほぼ貸し切り状態だった。


「7時間も新幹線に乗るなんて初めてです!」


焔が窓際の席に座り、興奮気味に外を眺める。


「俺は寝るけぇー。着いたら起こしてくれ~」


照はさっそく座席を倒して目を閉じた。


蒼は持参した本を開いている。表紙には『 ENJOY!! HOCKY LIFE 』とある。


「さすが蒼、勉強熱心だね」


緋色が感心すると、


「相手の分析は大事だからね。火宇根中の情報も少し載ってた」


塁斗も覗き込む。


「へぇ。どんなチームなんだ?」


「近畿4位だけど、堅実な守備が売りらしいです。速攻も得意みたいですよ」




隣の座席から、えみと美咲の会話が聞こえてくる。


「全国かぁ……ドキドキするね」


「私たち3年は最後だし、このチャンスをしっかり楽しもうね」


「ふふ♪そうだね。頑張って少しでも上位めざそー!!」


緋色は、えみの決意に満ちた声を聞いて、自分も気が引き締まった。




3時間後、東京駅に到着。乗り換えの時間を利用して、みんなでお弁当を買うことになった。


「ほわ――――!東京駅すげぇ!!ビル高ぇーー!人がいっぱいじゃーー!」


照が目を丸くする。


「迷子になるなよ〜」


美咲先輩が後輩たち(照込み)を心配そうに見守る。


駅弁売り場で、それぞれ好きなお弁当を選ぶ。


「緋色くんは何にする?」


えみが隣に来て聞いてきた。二人きりになった瞬間、緋色の心臓が跳ねる。


「え、えーと、これかな」


「あ、んじゃ私も同じのにしようっと。ふふっ♪」


えみの笑顔に、緋色は顔が熱くなるのを感じた。




東北新幹線に乗り換え、さらに4時間の旅が続く。


午後になり、車窓の景色が変わってきた。山が多くなり、田園風景が広がる。


「もうすぐですかね」


焔がそわそわし始めた。


「岩手県に入りましたよ」


みち先生が言うと、みんなの緊張感が高まる。


午後2時過ぎ、ついに「いわて沢久片駅」に到着した。


駅のホームに降り立つと、大きな横断幕が目に入る。


「第回60 全日本中学生ホッケー選手権大会 ようこそ沢久片(さくかたへ」


駅を出ると、さらに驚きの光景が広がっていた。


「すげぇ……」


照が呆然とつぶやく。


駅前広場には巨大なホッケースティックのモニュメント。


街灯にはホッケーボールの装飾。


商店街の看板にも「ホッケータウン沢久片」の文字が踊る。


「街全体がホッケー一色じゃ!」


「すごいね、本当にホッケーの町なんだね」


えみも感動している。


バスに乗り込み、宿舎へ向かう途中も、至る所にホッケー関連の看板や施設が見える。


小学生がスティックを持って歩いている姿も。


みち先生が説明する。


「ここでは、ホッケーが生活の一部なんですねきっと」


「沢久片は昔からホッケーが盛んで、多くの日本代表選手も輩出しているんですよ」




宿舎にチェックイン後、さっそく会場の下見に向かった。


「沢久片ホッケー総合センター」


真新しい施設の看板が輝いている。


「うわぁ……」


門をくぐると、上下に人工芝グラウンドが2面あり、1面に6人制のコートが2コートずつ準備されていた。


合計4面のコートが整備され、それぞれで各校が練習している。


「あ、出雲帝陵中だ」


焔が指差す先、颯真が淡々とパス練習をしていた。


「シューティングレイヴ広島もいるね」


別のコートでは、涌陽中の功多が一人で守備練習に打ち込んでいる。


「相変わらずストイックだな……」


緋色がつぶやいた時、


「緋色!」


振り返ると、そこには北村(きたむら) 凜太郎(りんたろう)が立っていた。


「凜太郎!」


「お互い約束通り、来られたね!うちはほんとギリギリだったけど…!」


北海道での再会から数ヶ月。二人は固い握手を交わした。


「北海道から、ここまで何時間かかった?」


「飛行機使っても4時間くらいかな。でも、全国で会えるって約束したから楽しみで!」


「うん、僕もだよ!お互い頑張ろうね」




その後、成磐中も30分の事前練習の時間をもらい、人工芝の感触を確かめる。


「なんか岡山の人工芝とは少し違う感じがする」


蒼が分析する。


「確かにボールの転がりが違うかも。でも感触はすごくいいね」


緋色もパスを出しながら違いを感じ取る。


練習後、他校の様子も少し観察できた。


関東1位の加来偉中のきれいなパスワーク、北信越1位の陽翔院中のスピードのある対人練習など。


「レベル高いなぁ……」


焔が少し不安そうにつぶやく。


「大丈夫、僕たちも中国大会準優勝なんだ。自信を持とうよ」


緋色が励ます。



 ーーー



夕方5時、グラウンドに隣接する真新しいホッケー専用ホールに、各校の選手たちが集まった。


「すごい人数……」


女子チームや関係者も合わせると、5~600人近い選手が整列している。


開会式が始まり、地元の伝統芸能が披露される。


岩手の鬼剣舞の迫力に、会場から拍手が起こった。


続いて、出場校の紹介。

「北海道代表、海衛学園!」


凜太郎も立ち上がり、緋色に向けて小さく手を振った。


・・・その後も続き、中国地区の紹介へ


「中国地区代表 岡山県、成磐中学校!」


名前を呼ばれた緋色たちは「はいっ!」と声を揃え、立ち上がった。拍手が会場に響く。


「中国地区代表 島根県、出雲帝陵中学校!」


颯真たちが立ち上がる。緋色と颯真の視線が一瞬交わった。



守備哲学の対話


開会式後、緋色は凜太郎と話をしているとひと際背の高い功多と目が合った。


「あ!功多くん、こちら北海道の北村 凜太郎。凜太郎、鹿児島の功多くんだよ」


「はじめまして」


二人のDFが握手を交わす。


「グループリーグで対戦するよね、噂は聞いてるし楽しみにしてる!」


凜太郎が言うと、功多が頷いた。


「ありがとう。僕も北海道とは当たったことないから、どんなホッケーするか楽しみにしてるよ」


緋色が口を開く。


「二人とも同じDFだけど、僕からしたらタイプが全然違うんだよね」


「どういうこと?」


功多が聞く。


「ん―…凜太郎は相手の動きを読んで、組織的に守る。功多は個人能力で、一人で中央全域をカバーする感じかな?」


凜太郎が興味深そうに功多を見る。


「一人で全部守るって、すごいね」


「最近、それで緋色たちにやられちゃったし。組織的にできるのはすごいよ。」


功多が苦笑いを浮かべる。


緋色が二人を見て言った。


「もし、二人が組んだらなんかすごそうだね」


功多と凜太郎は顔を見合わせた。


「それは……たしかに」


凜太朗と功多が声を合わせて言うと、三人は笑い合った。



ーーー




宿舎に戻り、夕食後のミーティング。


「明日の初戦は、火宇根中です」


みち先生が戦術ボードを使って説明する。


「近畿4位ですが、堅実なチームです。緊張もあるとは思いますがまずは焦らず、自分たちのペースでやりましょう」


「俺に任とけー!」


照が胸を叩く。


「焔、緊張してる?」


緋色が聞くと、


「正直、めちゃくちゃ緊張してます……でも、楽しみの方が勝ってます!」


「その気持ち、大切にして」



ミーティング後、部屋へ帰る途中えみと美咲たち女子部とすれ違った。


「女子の初戦は明日の午後だから応援に行くね」


えみが言うと、緋色は照れくさそうに頷いた。



ーーー



翌朝、朝食を済ませ、いよいよ会場へ。



青い人工芝のグラウンドに足を踏み入れる。


そこには各校の色とりどりの横断幕が風に揺れ、朝日に照らされた人工芝はまるで青い海のように輝いていた。


観客席はすでに全国大会ならではの熱気に包まれている。

大勢の観客がざわめき、太鼓やメガホンを使った応援団の声が波のように押し寄せてきた。


その中には、次の試合を控えた他校の選手たちも混じり、鋭い視線をピッチへ送っている。


「成磐中、ファイト!」


その中から、女子部からの声援も聞こえてくる。



火宇根中の選手たちとコートで対面。


「よろしくお願いします!」


お互いに礼を交わす。


審判のコイントスが行われ、成磐中のボールでスタートすることが決まった。


「円陣組むでーー!」


照の声でみんなが集まる。


「やっとこれた全国の舞台じゃ。遠慮すんな、暴れるでーーーー!」


「おう!」


それぞれのポジションにつく。


センターラインでボールを前に、緋色は深呼吸をした。



観客席から、えみの声援が聞こえてきた。


「緋色くん、頑張ってー!」


(よし、やるぞ)


審判がホイッスルを口に当てる。


時計の針が、試合開始の時刻を指した。


(いよいよ、全国大会が始まる――)


ピッーーー!


試合開始のホイッスルが、岩手の澄んだ空に響き渡った。



ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。


今回のお話で、ついに——

緋色たちは“全国大会”という、憧れの舞台に立つことができました。


中国大会での激闘を越え、

仲間と、家族と、ライバルと、そして少しずつ深まっていく想いと。

この「ホッケーの町」から、彼らの新しい戦いが始まります。


これまでの道のりを一緒に歩んでくださった皆さんへ、心から感謝しています。


そして、今「緋色のスティック」を1冊の本として届けるために、

クラウドファンディングにも挑戦しています。


作品の中だけでは伝えきれない、

“ページをめくりながら見える熱”を、本という形で残していきたくて——。


応援していただけたら心強いです。


【クラウドファンディングページはこちら】

https://camp-fire.jp/projects/884214/view


※もちろん、読んでくださること自体が大きな力です!


物語はいよいよ本番。

全国大会で、彼らがどう戦い、どんな一歩を刻んでいくのか。

ぜひ、続きを楽しみにしていただけたら嬉しいです。


心から、ありがとうございます!


──ぱっち8

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