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火魔法を使わないトマトの煮込み料理(つまり肉以外は普通の煮込み料理)2

 「教えるのはいいんだけど、材料はあるの?」

 「実は、外で練習しようと持ってきてるんです。その、いつも掃除が大変なので」


 爆発したり火柱が立ったことで学んだことを、彼女なりに活かし、今日は外で調理をすることにしたようだった。

 過去二回の惨劇を目にしているハンスも、彼女の判断に「そっか」と生暖かい笑顔で返すに留めた。


 「えっと、トマトとニンジン、玉ねぎにお芋、各種薬草に香草、それとお肉です」


 フラウは亜空間鞄から次々に材料を出していき、出し終わると「どうですか?」と自信ありげにハンスを見た。

 だが、ハンスとしては「待ってほしい」という気持ちでいっぱいだった。

 途中、怪しげな薬草など入っていたが、それはまだ良い。実際、香草の様に薬草を使うこともあるので、それはまだ良いのだ。

 だが、最後に出てきた「お肉」。これは待ってほしい。

 材料は自ら採取狩猟して自ら準備するスタイルのフラウ。取り出した「お肉」もフラウが狩って来たものなのだろう。

 「お肉」は狩りたてホヤホヤでまだ解体されておらず、その正体をハンスは目にしてしまったのだった。

 各家庭の味があり、牛や豚など使う肉に差異はあるものの、この国におけるトマトの煮込み料理に使うメジャーな肉は鶏肉ではある。だがそれは、市場で買える普通の鶏肉なのだ。目の前にあるようなものでは決してない。

 「お肉」。その正体はブロークンバードだった。

 ブロークンバード。ロックバードの上位種であり、街を半壊させる力と、敵には容赦をしない凶暴性を兼ねそろえた鳥型の魔物であった。

 羽根は高値で取引され、貴族の帽子の飾りになり、その肉は一部の貴族しか口にできないほど高級な肉として有名だった。

 それが、今目の前にいるのだ。狩られた姿のまま。


 「これを『お肉』と呼んじゃうんだ」

 「あ、解体がまだだから、まだ『お肉』じゃないですね」


 失敗失敗てへ、という様子でフラウは恥ずかしがるが、そこじゃない、とハンスは思ったが、フラウの非常に強い魔物を「お肉」と呼べるほどの圧倒的戦闘力に、押し黙るしかなかった。


 というか、トマトの煮込みに鶏肉使うこと知ってたんだ。










 「野菜は洗って、ブロークンバードも解体したし、材料を切っていこうか。トマトのヘタを取って、粗く切って」

 「はいっ」


 ハンスの指示にフラウは返事をすると、早速トマトを鷲掴み、ヘタをブチィッと引きちぎった。


 いや、まあ、それでもいいけど。

 料理上手になりたいなら、包丁を使った方法を教えた方がいいだろうか?

 それとも、その勢いで引きちぎって、よくトマトを潰さなかったな、とツッコむべきか。


 ハンスは少し悩み、何も言わず、特に支障がないのでそのまま進める事にした。訂正やツッコみを入れることで、斜め上の展開を恐れた訳ではない。効率を意識した結果だ。

 ハンスが悩んでいる間にフラウは全てのトマトのヘタを取ってしまったようで、まな板の上にトマトを乗せ、包丁を手に取り、トマトめがけて包丁を振り下ろした。


 「えい」


 包丁の勢いは、フラウの可愛らしい掛け声に合ったものだった。

 だが何故だろう。包丁は鋭い切れ味でトマトを綺麗に両断し、そのまま、まな板を切り抜き、そして台代わりにしていた岩をも切断した。

 包丁の刃は、トマトを切ってまな板の上で止まっているので、彼女はトマトしか切っていないはずなのに。


 「あ」


 目が点、とはこのことを言うのだとハンスは学んだ。


 「いや、くっつけようとしても元には戻らないから」


 暫しの沈黙の後、フラウがそっと両断されたまな板と岩を両側から押してくっつけようとしたのをハンスが見咎めた。


 「初めて使う刃物だと、たまにやっちゃうんですよね」


  ああ、とハンスはフラウの腰に下げた剣を見て納得した。

 恐らく、フラウのメイン武器は剣だ。そして、その剣の腕で単独でドラゴンをも倒す技量を持つのだ。

 書の名人はどんな筆でも素晴らしい書を書くと言う。

 今回のトマトも、剣の名人であるフラウが優れた技量を抑えられず、剣圧ならぬ包丁圧だけで岩まで切ってしまったのだろう。


 いや、剣じゃなくて包丁だけどな。何だよ包丁圧って。


 取り合えず、包丁を使えるようにならなければ道が長くなる。そう思ったハンスはフラウの肩にそっと手を置くと、慈愛に満ちた顔で語りかけた。


 「世の中の物は、君が思っているより脆いもので溢れているんだよ」

 「し、知ってますよ!次からは大丈夫なので!もう力加減覚えましたから!」


 「知ってる」って返答もどうかと思うが。


 フラウが意外と自分の事を知っていてハンスは驚くと同時に、何とも言えない返答に微妙な顔をしてしまったのだった。

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