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アップデート

 二〇九五年、アンドロイドは第三世代まで進化を遂げ、ライフロイドと呼ばれるようになった。見た目は完全に普通の人間と変わらないまでになった。第一世代や第二世代は腕の関節駆動部分が見えていたり、口調が人間のように滑らかに喋ることは出来なかった。

 三世代目の生産にはそれらの問題点が修正され、肩に書かれた製造番号を見なければわからないまでの姿になった。ライフロイドは約四時間の充電で二十四時間の活動を可能とし、足裏に隠された充電部分で充電を夜中にする。勿論、充電に必要な電気代は国が保証する。

 身体の皮膚は防水加工され、人間らしさを出すため柔らかい特殊な材料を使用されているらしい。髪や瞳などの材料も非公開の特別な材料で生産されていて、人間と区別がつかないまでになっている。アンドロイドは数多くいるが同じ見た目をしている個体は存在しない。なんでも、過去の有名な人物など現在まで残っているデータを元に造られているらしく、祖父母の世代よりひとつ前の世代までの人物の容姿を参考にされているらしい。そのせいもあり、祖父母の世代はライフロイドを嫌う人が多い。

 僕の専属アンドロイドのアイツ、『華』も昔の有名人と似た姿をしているのかもしれない。

 アイツは見た目が二十代前半で肩まで伸びた黒い髪、目尻が少し垂れていて、大きな瞳をしている。色白で線の細い身体。さらに特徴としては首と鎖骨の間にある小さなホクロがある。声は少し高く、透き通るような声をしている。だが反応に起伏がなく、トーンに抑揚がないため、どんな反応も冷たく聞こえ、つまらなかった。

「ただいま」

「おかえりなさいませ。蓮二さん」

「アクティブ。親父は?」

「お母様と共にお爺様、お婆様の元へ行かれました」

 いつものごとく、親父たちは仕事を終えて、爺さんたちのいる国立生命病院に行っているらしい。帰るのは僕が寝る頃だろう。

「アクティブ。夕飯」

「直ぐに準備いたします」

 アクティブ。これはアンドロイドへの行動命令の合図を示す言葉。去年のアンドロイドのアップデートでこの合図を言わなくても反応するようになったらしい。他にも変更点があったらしいが興味がなかったためあまり内容は知らなかったけど、契約満了まで残りたったの一年の付き合いだし、必要もないだろうと親父たちにも了承を取り、アップデートさせなかった。

 出された夕食はオムライスで、アイツは週に一度必ずオムライスを出す。よくは覚えていないけれど、多分、小学生の頃からオムライスは週一で出されていた気がする。

 アイツの料理は昔は美味しいと思えた。お袋の作る料理と変わらないぐらいに。でも、アイツがロボットだと理解して、アイツは僕のことを契約上の主人マスターという認識程度なんだろうと考えてからはアイツの料理は美味いとも不味いとも思わなくなった。

「準備ができました」

「ああ、今いくよ」

 僕は席に座り、テレビのスイッチを入れ、チャンネルを回した。どのチャンネルも内容の薄いコメディやつまらないドラマばかり。ニュース番組にしてもアンドロイドのことを討論したりしている。

 僕はテレビのスイッチを切り、夕食に手をつけた。いつもアイツは僕が食べている間に食器やフライパンなどの洗い物をしており一緒に食事はしない。アンドロイドは食事を必要としないが食べることは可能ですべて人間の胃袋のように消化する部分がある。食べたものは栄養や排泄物になるのではなく味などのデータと照合し、体内で分解され充電の代わりになるらしい。

 僕が食べている間は基本的に僕が質問や命令がない限り会話はない。喋っていても、それを会話と表現するに値するかは疑問だが。

 だから、今日も普段と変わらない静かな食事になるはずだった。だけど、今日はどこかいつもと違う食事になった。

「あの、お、お味はいかがですか?」

「は?」

 僕はオムライスが盛られたスプーンを口に運ぶのをとめた。

「なんか言ったか?」

「ええと、おいしく出来ているでしょうか?」

 突然、アイツは僕に質問してきた。今までそんなことは一度もなかったのに。それどころか、アイツは命令も質問もなしに逆に僕に質問をしてきたのだ。

「喋ろなんて命令していないぞ…… アクティブ。喋るな」

 動揺して、少し強い口調で僕は命令をした。しかし、そのあとの反応は僕の予想とは全く違い、

「す、すみません。ですが、どうしても聞いてみたくて。美味しいか、美味しくないかを」

 どういうことだ。命令を理解していないのか? いや、命令を理解したうえで拒否という行動を起こして質問してきているのか。“すみません”が命令の返答。美味いかどうかという質問が何よりも優先されているなんて……

 こんなことは今までなかったし、さっきまではちゃんと命令にも反応していた。

「オマエ、アップデートしたか?」

 聞かずにはいられなかった。あり得る可能性は他にないからだ。親父たちはまだ家に帰っていないし、コイツが電話でやり取りしている姿も見ていないから、他の可能性はない。

「すいません。勝手に更新しました」

「だろうな。質問の拒否なんて、去年の大型アップロードでもしなきゃできないだろうしな! 親父たちからそんな話は聞いていないし、いつしたんだ。さっきまで命令に今まで通り反応していただろ!」

 そこで僕は気づいた。つまり本当はコイツは前々からアップデートしていて、僕が知らないうちに反応の幅を広げて、気付かない僕を馬鹿にしていたのか。

 確かにロボット三原則にも報告の義務なんてものはないし、日本の細かな内容にもそんなルールは記載されていない。アップデートをロボットが勝手にしてはいけないとも明記されていない。

「確かに今まで蓮二さんの命令“アクティブ”には反応しない事も可能でした。ですが、私が勝手な行動をしたことを知ったら、お怒りになると思ったので言い出せませんでした」

「なんだそれ、怒る前にアップデートなんてさせるつもりもなかったんだぞ」

「だからこそ、言い出せませんでした。私はもっと貴方に、蓮二さんに近づきたかったんです」

 ナニを言っているんだ。ロボットが僕に近づきたかった? 意味が分からない。

「なんだそれ。近づこうとしなかったのはそっちじゃないか! 勝手なこと言いやがって」

 まずい。このままコイツといたらおかしくなりそうだ。僕は食べかけの夕食をやめ、部屋に戻ることにした。

「あの!」

「なんだよ。今、ちょっとオマエと会話したくないんだ」

「夕食。嫌でなければあとで食べてください。ラップしておくので……」

 アイツの声は今までのような冷たい声でも抑揚のない声でもなく、ただ泣きそうな震えた声で僕に声をかけてきた。

「気が向いたら。食べるよ」

 そして僕は部屋に歩き出した。その時見えたアイツの顔には涙が流れていたように見えたのは気のせいだろう。アンドロイドは涙なんて、心なんてないんだから泣くわけないんだ。

少しずつですが、がんばって、楽しんで投稿していきたいと思います。よろしくお願いします。

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