第2話 妹
「は、スカートたくし上げ・・・・・・?」
突然ミッションとやらが生えてきて、シュロは困惑していた。シュロは特殊ミッション付き性転換の魔道具で性転換したわけだし、ミッションがあるっていうのはわかってたけど、なんだこのミッション・・・・・・?
「いや、たくし上げろってだけでパンツを見せろとは書いて──」
ミッションはステータスと同じように透明な板のようなもの──ウインドウに書かれている。ミッションの下に『※ちゃんとパンツが見えるようにたくし上げること』と書いてあった。逃げ道がない。
「なんなんだよ・・・・・・ちょっと特殊な性癖のヤツとかが決めてんのか? このミッション・・・・・・」
実は、この魔道具で出るミッションはセンシティブなものしかないのだが、残念ながらシュロはそれを知らないのだ。まあ、知ってても防ぎようのないことだが・・・・・・
「いや、こんなミッションなんかやるわけないでしょ。やるわけなんて・・・・・・」
『このミッションをクリアすると、レベルアップするらしいです』
思い出されるのはそんな職員さんの言葉だ。
「い、いやそうは言っても職員さんも実際に経験したわけじゃないんだろ? 間違った情報かもしれないし、そんなことのために──」
(でも、これでちゃんとレベルが上がればもっと強い魔物を倒せて、もっと宝箱をゲット出来る。お金を稼げて、妹に色々な物を買ってやることが出来る・・・・・・!)
シュロは逡巡した。しばらくどうしようかと逡巡したが・・・・・・答えは決まった。
(うん、とりあえず、物は試しだ・・・・・・! とりあえずやってみなきゃわからないんだから!)
とりあえず、やってみることにした。幸いにも辺りに人影はない。
(とりあえずやってみよう! 恥ずかしいけど、スカートを十秒たくし上げるくらいなんでもないことだ!)
もしレベルが上がったら、はっきり言ってそんな羞恥なんて補って余りあるほどな見返りが得られる。そう、得られるのだ。得られるというのに・・・・・・
(え? やばい。めちゃくちゃに恥ずかしいぞ・・・・・・?)
シュロは躊躇してしまう。すっごく恥ずかしい。顔は真っ赤だし、目はぐるぐるになってしまっている。
(あ、あれ? 自分でスカートを捲るのって、思ったよりも恥ずかしいな・・・・・・)
初めての感覚だ。男子だった頃はもちろん味わったことのない感覚だし、女子でもこんなことする経験はなかなかないだろう。公の道路でスカートをたくし上げるなんて・・・・・・
(やばい、ドキドキする。へんたいだって思われちゃったらどうしよう・・・・・・)
けっこう逡巡していたが、やがて意を決した。
(ええい男だろ! スカートの一つや二つ、すっとたくし上げてみせろ!)
シュロは痛いほどに高鳴る心臓を抑えつけながら、スカートをたくし上げてそのパンツを外気に晒した。パンツも、ちゃんと女の子のものになっている。顔を真っ赤にして、目をぐるぐるにしながらスカートをたくし上げて十秒を待つ。十秒がとてつもなく長く感じられた。
(なんだか、こうやって自分でスカートを、こんなところでたくし上げるなんて、本当にへんたいになった気分になる・・・・・・それに、なんだか恥ずかしいだけじゃなくて──)
ピコーンという音がした。見ると、ウインドウにミッションクリアという文字が出ている。いつの間にか十秒経っていたようだ。シュロは慌ててスカートを元に戻した。
(あ、危ない危ない。これ以上やったら未知の扉を開くところ・・・・・・い、いや違う! 未知の扉とか開くわけないから!)
シュロはスカートを直して、それから辺りを見た。
(良かった。周りに人はいないみたいだ。目撃されなかったのが不幸中の幸いと言ったところ──)
ほっと胸を撫で下ろそうとした、その時だった。
シュロは道路の向かい側の歩道に、男の子がいるのを発見した。どうやら見落としてしまったみたいである。
その男の子は、顔を真っ赤にしていて、その様は明らかにさっきまでシュロがやっていたことを目撃していた証で──
「・・・・・・っ!」
シュロは同じように顔を真っ赤にすると、何か言われる前にせかせかと早足で帰っていった。
そして、シュロが未知の扉を開くことはなかったのだが、この男の子は未知の扉を開いてしまい、露出羞恥モノでしか興奮できない体になってしまったのであった・・・・・・罪なTSっ娘である。
◇
多少恥ずかしいことはあったものの、シュロは無事(?)に妹と暮らすアパートへと帰ってきていた。
「一応レベルはちゃんと上がっているっぽいから恥のかき損にはならずに済んだものの・・・・・・はあ」
シュロは肩を落としながらアパートの自分の部屋のドアを開ける。
「ただいまー」
そう言って部屋の中に入っていくとバタバタと足音がして、慌てた様子の妹のルラが走ってきた。
「お兄ちゃん大丈夫!? 大変なことになったって──」
ルラは心配そうな顔をしていたが、シュロの姿を見るなり固まった。ポカンとした顔をしていたが、やがて口を開いて言った。
「もしかして・・・・・・お兄ちゃん?」
「うん。お兄ちゃんだよー」
ルラは驚き、そのシュロの姿を上から下までしげしげと眺めていたが、やがてぱあっと表情を輝かせると
「かわいいー!!」
そう言って抱きついてきた。
「うおっ! ちょ、ルラ!」
「えー、なになに!? お兄ちゃんすっごく可愛くなってるじゃん! なーんだ、心配して損したよ! 姿が変わって大変なことになったって聞いてたからさ!」
「いや、大変なことにはなってるんだよ・・・・・・」
「えー、でもかわいいから良くない?」
「良くないよ・・・・・・」
ルラにとってはこのシュロの姿は琴線に触れたらしい。普段からスキンシップ多めだが、今日は特にスキンシップが激しくて、髪の毛を触って「わーすごい! さらさらだ!」とか言ったり、シュロのほっぺたを両手で持って、「すごい・・・・・・すべすべもちもちだ・・・・・・」とか言ってきたりした。
(全く、ルラは・・・・・・)
やれやれ、とシュロは少し辟易しながらも、ルラが喜んでいる姿を見るのはやっぱり嬉しい。今までの苦労が全て消えていくようだ。パンツを見られるという苦労が・・・・・・
「私と同じくらいの背丈になったね!」
ルラはシュロを見て、そう言って笑った。確かに、今のシュロは小学校高学年のルラと同じくらいの背丈になっている。しゃがんだりすることなしに、同じ目線っていうのはなんだか変な感じがする。
「なんか、兄妹だけあってけっこう私に似た感じだね!」
「そう?」
「これなら、私の服とか着れるんじゃない?」
「え?」
言われて、シュロは気がついた。そういえば、この服はセンターからもらったやつだ。レンタルとかじゃなくて普通にくれた物だけれども、くれたのはこの一着だけだ。男の時の服はサイズが合わないから、今着れる服はこれしかないということになる。
服の問題・・・・・・それを全然考えてなかった。買うお金はないとなると、やっぱり・・・・・・
「あとで試着会しようね、お兄ちゃん!」
「・・・・・・うん」
妹の服を着るしかない。兄として、かなり抵抗感はあるものの、仕方ないとシュロは渋々頷くのであった。兄としての威厳を失うことになるかもしれないと、覚悟しながら・・・・・・
・・・・・・さて。シュロは居間へと入っていく。目線がいつもより下がっているからだろう。景色がいつもとちょっと違っていて、変な感覚がした。
居間のテーブルの上にノートが広げてある。どうやら、ルラは宿題をしていたようだ。
「お、宿題をしていたのか偉いな」
「えへへ・・・・・・」
褒められて、ルラは嬉しそうに笑う。
いつものように頭を撫でようとしたけど、小さくなっているから、いつもと違いちょっとだけ背伸びをして撫でた。
ふと、シュロはルラの宿題のノートの隣に置いてある筆箱を見た。ルラの筆箱はけっこう年季が入って、ボロボロになっていた。
前に、もう買い替えようと提案したことがあるのだが
『えー? まだ使えるし、もったいないよ!』
そう言われて断られてしまった。
『でも、お前だってもっと新しい、かわいいやつ欲しいだろ?』
シュロは食い下がったのだが
『もー、そんなの別にいらないよ! 今ので十分なんだから!』
ルラはそう言った。けど、シュロは前にルラが最近流行りのキャラクターが描かれた筆箱を喉から手が出るほど欲しい、と言わんばかりの表情で見つめていたのを見たことがある。前に用事があって雑貨屋に寄った時にそういうふうに見ていたのを見たのだ。
ルラはきっと、遠慮しているのだと思う。その筆箱は高かったし、それに筆箱を新調する余裕なんかないと思って、大丈夫だと言っているのだ。
(ルラ・・・・・・)
ルラは相手のことを気遣えるいい子だ。シュロは、妹だからというのもあるけどただそれだけではなくて、相手のことを気遣って自分の欲しいという気持ちを押し殺してしまうようないい子でもあるから色んな物を買ってあげたいと思うのだ。だから、シュロはそんなルラのために──
ピコーン
『ミッション ルラの耳を舐めろ』
耳を舐めようと思う。




