表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役王女の青くない春  作者: 雨傘 はる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/14

思い出した

よろしくお願いします


わたしは、ここを去らねばならないでしょう。

愛する人さえあればいい。そうね。きっと誰もが、そう願っている。







両親と後継の長姉が事故に遭った報せを聞いた瞬間から、シュヴィアの記憶は曖昧だ。

気づいたら、兄のルドルフと二人、国葬を取り仕切っていた。つまり、両親と姉は亡くなったのだ。


────待って……シュヴィア? ルドルフ? これ、『マリアンヌは美しく成り上がる』の……。


ぐら、と目眩に踏み出す足を縺れさせかけた時、ぐんっと強い手が二の腕を荒く掴んだ。

あまりに強く掴まれて顔を上げると、冷ややかな兄のサファイアの瞳とぶつかって、反射のように身を竦める。


「しっかり歩け」


「……申し訳ありません」


素直に謝ると、片眉を器用に上げたルドルフは、意外そうに頷いた。

さっさと腕を放し、躊躇なく背が向けられる。


小説『マリアンヌは美しく成り上がる』のヒーロー、第一王子ルドルフの妹シュヴィアは、我儘で甘やかされた末っ子そのもの。

そのせいで、兄にはとにかく嫌われていた。


脳内にものすごい勢いで流れ込んでくる情報に苦心しながら、振られた仕事をとにかくこなしていく。

両親、つまり国王夫妻と王太女が急逝したのだ。やるべきことは山ほどある。


「姫様……少々、休憩されては。お顔の色が……」


「そいつを甘やかすな。つけあがるだけだ」


官吏の一人が気遣わしげに言ってくれたが、すかさずルドルフから冷たい声が飛ぶ。

気まずそうに頭を下げた官吏に、シュヴィアは苦笑した。


「ごめんなさい。ありがとう、大丈夫よ」


「いえ、そんな……メイドに飲み物を指示しておきます」


「ありがとう。お兄様にも、お願いね」


「承知しました」


小声でやり取りしてから、いまだぐらぐらと揺れる意識を必死に手繰り寄せ、襲ってくる情報をひとまず無視する。

額に冷や汗が浮かび、背筋がずっと寒い。でも、止まっている暇はない。


第二王女シュヴィア、十二歳。蝶よ花よと育てられ、世界で一番愛されるべきは自分と信じて疑わないお姫様。

厳格な両親や、大変優秀な王太女である姉にも可愛がられていたため、我儘を抑える者はいなかった。


そんなシュヴィアの悪気ない我儘を唯一諌めたのが、第一王子ルドルフ。

姉とは十歳、兄とも八歳離れているシュヴィアは、普段は家族と顔を合わせることはない。

けれど、時折り公の場で顔を見れば、兄はいつも怖い顔をして一挙一動を厳しく注意した。


今思えば、妥当と思える指摘だったそれを、シュヴィアは泣いたり誤魔化したりと逃げていた。

単純に、怖かったのだ。優しい人だけに囲まれていたシュヴィアは、怒りにも叱責にも慣れていなかったから。


とうに大人の男性になっていた兄は、特に恐ろしい存在だった。

だから、両親や姉に泣きついたり、使用人を盾にしたり、要領よく避けてきた。


────それは嫌われるよね……。


きっと兄は、両親や姉に理不尽に責められたり、注意されたりしたのだろう。

両親も姉もとても立派な人だったが、いかんせんシュヴィアに甘すぎた。今ならそう思う。


初日を何とか取り仕切り、執務室へ向かう兄の背中を見送ったシュヴィアは、ようやく少し深く呼吸をした。

自室へ戻るより先に、両親と姉にもう一度会いたい。いまだに実感が湧かなくて、どこか現実味が薄い。


護衛に見送られて安置室に入ると、やっと周囲から人の気配が遠ざかって、ほっとした。

だだっ広い大理石の部屋の真ん中に、三つ、豪奢な棺が鎮座している。物悲しい光景に、胸が詰まった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ