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闇堕ち寸前の冷徹公爵をマインドシフトしてみたら、全肯定の重めな溺愛モンスターが爆誕しました  作者: もも子


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第16話:死神の初デート計画

食堂での撃沈から数日。


執務室では、公爵領の財政問題でも、軍の配置転換でもない前代未聞の「作戦会議」が繰り広げられていた。


机を挟んで向かい合うのは、真剣な面持ちのアルベールとハンスを筆頭とするベテランの使用人たちである。


「……ハンス。アリアナは俺の好意を、すべて『心のバグ』だの『れじすたんす』だので片付けてしまう。どうすればあいつは、俺をカウンセラーとしてではなく、『一人の男』として意識するのだ……?」


頭を抱える主君に対し、ハンスは自信に満ちた表情でうなずいた。


「閣下、奥様は大変聡明な方ですが、ゆえに『日常の空間』では何事も学問的に分析されてしまいます。ならば、空間そのものを変えるのです!……つまり、『デート』でございます」


「でーと、だと……?」


「左様です! 王都の美しい街並みを散策し、甘いお菓子を口にし、ロマンチックな雰囲気を演出するのです。人間、非日常の空間に身を置くと、胸の高鳴りを『目の前の相手への恋心』だと錯覚する心理効果があるとか……。」


「……待て、ハンス。それは心理学でいう『吊り橋効果』ではないか?」


アルベールはハッと目を見開いた。

ここ数日、アリアナに対抗するために心理学の本を読み漁っていた彼の知識が思わぬところで結実していた。


「……なるほど。あいつの得意分野である『心理学』のロジックを、あえてこちらから仕掛けるということか。ふん……悪くない。」


アルベールは口元に不敵な笑みを浮かべ、重々しく立ち上がった。



「――お出かけ、ですか?」


その日の午後、私はアルベールから急に街への外出を打診された。


「ああ。公爵夫人として、領民の暮らしや王都の市場を視察しておくのも務めだ。


……決して、お前と買い物がしたいわけではない。」


(ふむふむ。典型的な『反動形成』と『ツンデレの防衛機制』ね。でも、確かに王都の市場のリサーチは私の心理学データの収集にも役立つわ。願ってもない機会だわ!)


「ええ、喜んでご一緒いたします、アルベール様!」


私が満面の笑みで答えると、アルベールはフイッと顔を背けたが耳の裏が少し赤くなっているのを私は見逃さなかった。 


(よしよし、今日も感情の出力回路が可愛らしいわね)



そして、王都の賑やかな中央広場へ。


いつもの凄まじい軍服ではなく上質な私服に身を包んだアルベールは、遠くからでも目を引くほどの圧倒的な美貌を放っていた。

道行く人々や令嬢たちが、思わず振り返って溜息を漏らすほどだ。


アルベールはチラチラと私の様子を伺いながら、ハンスから伝授された「作戦」を次々と実行に移していった。


まず第一の作戦:

【人混みでの手繋ぎ(パーソナルスペースの突破)】


「……おい、アリアナ。人が多い。はぐれると面倒だ」


アルベールはそうぶつぶつ言いながら、大きな手で私の手を包み込むように握ってきた。

彼の掌の熱が、ダイレクトに伝わってくる。


(あら。心理学における『接触エレベーター効果』ね。肌の触れ合いによってオキシトシンを分泌させ、親密感を高めようとする本能的な行動だわ。自分の不安を和らげるために自然と手を握ってくるなんて、本当にかわいいんだから)


「ええ、ありがとうございます。アルベール様の手、とっても温かいですわ。」


私がなんの躊躇もなくキュッと握り返すと、アルベールは「っ……!?」と固まり、なぜか自分の方が顔を真っ赤にして動揺し始めた。



続いて第二の作戦:

【甘味処での『あーん』(親密度の過剰演出)】。


王都で一番人気のカフェのテラス席。

目の前には色とりどりのベリーが乗った豪華なパフェ


アルベールはプルプルと手を震わせながら、スプーンですくったケーキを私の口元へと差し出してきた。


「……食うか? アリアナ」


(まぁ! これは心理学でいう『好意の返報性』を狙った行動ね! 他人に食べ物を与えることで、相手からの好意を引き出そうとする原始的な親愛行動だわ。恥ずかしさを耐えてここまで臨床データを提供してくれるなんて、なんて健気なの!)


「はい! いただきます、あーん」


パクリとケーキを口に含むと、甘酸っぱいベリーの風味が広がる。


「とっても美味しいです! アルベール様もどうぞ!」


私は自分のスプーンでケーキをすくうと、今度は私からアルベールの口元へと差し出した。


「なっ……! お、お前……! それは、いわゆる、じ、じか……っ!?」


「? さあ、早く召し上がってくださいな。溶けてしまいますわ」


「っ――――!!」


アルベールは真っ赤になりながら、限界まで見開いたアメジストの瞳でケーキを口に含み、そのままキャパシティをオーバーしてフリーズしてしまった。


(ふふ、脳内の処理速度が追いついていないわね。可愛いなぁ)


こうして、アルベールが仕掛けた怒涛の「男として意識させる作戦」はアリアナの鉄壁の「心理学フィルター(ポジティブ解釈)」によって、すべて「愛くるしい被験者の観察データ」として回収されてしまったのだった。


遠くの物陰から双眼鏡で様子を見守っていたハンスとメイドたちは、揃って深々と溜息をついた。


「……ハンス様。閣下、完全に自爆しておられます……。」

「……ああ。だが、挫けるな。閣下の戦いは、まだ始まったばかりだ……!」


公爵邸の生暖かいサポートを受けながら、冷徹公爵の甘く不器用な空回りデートは続いていくのだった。


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