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人への帰化と、山を見上げる瞳

荒れた石段を乱暴に下りていくゼブラの懐で、翡翠色を取り戻した勾玉がじんわりと温かな波動を放ち始めた。


勾玉の力が発動すると同時に、ゼブラの身体に変化が訪れる。


頭頂部にピンと立っていたシマウマの耳は徐々に薄れ、やがて完全に空気に溶けるように消え去った。


腰のあたりで苛立たしげに揺れていた短く黒いしっぽも跡形もなくなり、側頭部にあった特徴的な長く尖ったエルフの耳は、丸みを帯びた普通の人間の耳へと滑らかに戻っていった。


鬱蒼とした木々に囲まれた、道とも呼べないような獣道を下ること数十分。


ゼブラはようやく、アスファルトで舗装された開けた道路へと辿り着いた。


そこには、彼女がここまで乗ってきたであろう、周囲の景色には不釣り合いな黒塗りの高級SUV車が静かに停められていた。


「ふぅ……」


ゼブラはゼブラ柄の服についた土埃や落ち葉をパンパンと手で払い落とすと、車のドアを開けて運転席に乗り込んだ。


すぐにルームミラーを引き寄せ、自分の顔を覗き込む。


そこに映っていたのは、複数の種族が継ぎ接ぎになった異形の姿ではなく、完全な人間の女性としての美しい姿だった。


その顔を見て、ゼブラは深く安堵の息を吐き出した。


しかし、すぐにエンジンをかけることはせず、ゼブラは再び車のドアを開けて外へと出た。


車のボディに軽く寄りかかり、今しがた自分が下ってきた鬱蒼とした山を——あの生意気な白い巫女とタヌキたちがいる神社のあったであろう位置を、しばらくの間、何も言わずにじっと見つめていた。


その瞳にどんな感情が浮かんでいたのかはわからない。


やがて彼女は何かを振り切るように視線を外し、再び車に乗り込むと、重厚なエンジン音を響かせて山道を走り去っていった。


——場面は変わり、再び静寂を取り戻した神社。


サァーッ、サァーッ。


たぬは竹箒を手に、今日も熱心に境内の掃き掃除をしていた。


長い年月を経てすっかり苔むした阿吽の狛犬が、その小さな白い背中を静かに見守っている。


「ふう……っと」


一区切りついたのか、たぬは竹箒を止めて額に浮かんだ汗を手の甲でぬぐった。


そして、雲ひとつない青空を見上げながら、長い白いしっぽをゆらりと揺らしてぽつりと独り言をこぼす。


「ゼブラちゃんも、ちゃんと帰れたかな~」


そののんびりとした声は、誰に届くわけでもなく春のそよ風に乗って消えていく。


掃き清められたばかりの綺麗な境内では、茶色いぽんと白いぽこが、ぽてぽてと愛らしい足音を立てながら並んで散歩をしていた。


誰も訪れなくなった忘れられた神社には、今日も変わらず、穏やかでのどかな時間が流れていた。

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