第百四十八話 「たまには、影が主役」
ヒカリ荘の屋上、時間テラス。
いつもの朝とは違う空の色に、みんなが静かに空を見上げていた。
「……はじまるわね」
そう呟いたのはルナ。ゆっくりとした動きで紅茶を口に運ぶ。
空には、太陽の光を遮るように、月の影がゆっくりと重なっていく。
「こりゃ、日食ってやつだな」
サンが少し照れくさそうに言った。
「まさか自分を隠される日が来るとはね。ねえサン、どんな気分?」
トキオがニヤニヤしながら尋ねる。
「うーん……ちょっと複雑だな。いつも“照らす側”だけど、今日は“見えなくなる”側か……」
「主役交代、ですねぇ〜」
ミラが不思議そうに手をかざして影を見つめる。
「でもさ」
ルナが静かに続けた。
「日食って、“闇”が空を覆う現象に見えるけど……ほんとは“光が引き立つ瞬間”なのよ」
「へ?」
みんながルナを見る。
「太陽が隠れるとき、人はその光の尊さを思い出す。
そして、月もまた――その影を通して、存在を知られる」
「……なんか詩的〜」
ミラがくすっと笑う。
サンは空を見上げたまま、ゆっくりと目を細める。
「……不思議だよな。照らすことしかできないと思ってたけど、
こうして“隠れること”にも意味があるなんて」
「影があるから、光が輝く。逆もまた、然り」
ルナはやさしく微笑む。
そのとき、風がひゅうっと吹き抜け、雲の切れ間から幻想的な光の輪――「金環日食」が姿を現した。
「わあっ……」
ミラが感嘆の声を漏らす。
まるで、光と影が手を取り合って円を描いたような景色だった。
「サン、きみって……なんだかんだで“まぶしい”よ」
トキオがちょっと照れながら言った。
「へへっ、ありがとな。……でも今日は、月にも拍手だな」
「……ふふ、ありがとう」
ルナが、ほんの少しだけ照れたように微笑んだ。
空は静かに、そして荘厳に移ろっていく。
今日だけは――光も影も、どちらも等しく主役だった。




