第62話 殺人鬼は思わぬ襲来を目にする
その後もゴブリンを狩っていった僕は、ついに制御室の近くまで辿り着く。
しかし、そこで最大の関門が立ちはだかっていた。
制御室に続く小さな広場に、四人の特殊なゴブリンがいるのだ。
見上げんばかりの巨躯を持つ個体は、岩のような質感の赤い肌だった。
寝息を立てながらも、丸太のような腕はコンクリートの柱を武器のように抱えている。
拳銃を腰に吊るす個体は、艶やかな黒い肌だった。
椅子に腰かけながら、汚れたトランプを弄っている。
刀を持って佇む全身鎧の個体は、僅かに覗いた隙間から白い肌だと分かった。
微塵も動かず、広場の中央に存在している。
魔術師らしき個体は黄色い肌をしていた。
ぱちぱちと音が鳴っているのは、身体の周りで電気が発生しているからだろう。
(色とりどりだな。おそらく偶然なのだろうが)
肌の色で優劣が決まるわけではない。
ただ、四人のゴブリンは明らかに他の個体と雰囲気が異なっていた。
殺しの経験が相手の力量を感じさせてくれるのだ。
少なくとも同時に相手取れば、僕など到底敵わない。
僕は広場付近を遠目に観察する。
どうやらそこは四人の専用の休憩スペースらしい。
気付かれずに制御室に入るのは不可能だった。
迂回して忍び込むことも難しい。
物陰から窺う僕は、四人の抹殺方法を考える。
(いずれ見つかるのなら、いっそ先制攻撃をしよう)
手榴弾を取り出したその時、外で爆音が鳴り響いた。
窓から外を見ると、施設の外周部が燃え上がっている。
何やら喧騒も聞こえてくる。
どうやら誰かが戦っているらしい。
四色のゴブリンが喚き出した。
彼らは数度のやり取りを挟んで動き出す。
ほとんど一斉に窓の外へ飛び出すと、炎上する場所へ向かっていった。
僕はその場に取り残された。
制御室の前に歩きながら窓の外を一瞥する。
(好都合だが、何が起きたんだ)
燃え上がる外周部にて、ゴブリン達が何者かと殺し合っている。
怒声と断末魔に混ざるのは、人間の笑い声だった。
僕は目を凝らす。
ゴブリンによる銃撃を浴びながらも、嬉々として前進する集団がいた。
闇夜の中、炎に照らされるのはスーツを着た人々だ。
斧や鉈や銃火器を携えて、狂気に満ちた目を爛々と輝かせている。
そして間合いを詰めた瞬間、ゴブリン達に襲いかかる。
この世界において、人間とは単なる資源と見なされている。
唯一の例外が、僕の生まれ育った国である。
施設に向かって歩いてくるのは、ノルティアスの外交官達だった。




