第61話 殺人鬼は己の進化を評する
施設内に侵入した僕は、ゴブリンを暗殺しながら進んでいく。
何度か危ない場面があったが、騒がれる前に始末できた。
他種族の特性を得たゴブリンでも、急所が大きく変わるわけではない。
頭部や心臓、首などを損傷させれば殺せる。
光源に乏しい施設内でも、僕の五感は冴え渡っていた。
ともすればゴブリン以上の野性を発揮しており、泥臭く凄惨に命を奪って進む。
血みどろになった僕は、よく分からない機械の設置された部屋を歩く。
前方に見回りのゴブリンがいたので、気配を殺して近付くと、振り向かれる前に引き倒した。
そのまま首を抱え込んで回転することでへし折る。
念のため十秒ほど締め上げると、ゴブリンの抵抗は無くなった。
僕は死体から投げナイフを奪って先に進む。
(本気になればやれるものだな)
戦況は上々だった。
音を出せない近距離戦闘において、筋肉のリミッターを外せるのは大きい。
瞬間的に怪物のようなパワーを発揮できるのだ。
人体を突き破るほどの攻撃を打てるのだから、相当な威力だろう。
ただし、使うたびに該当箇所が破損する。
もし外すと一転して不利に陥る恐れがあった。
そのため確実に当てられるタイミングで使わねばならない。
もっとも、リミッターの外しはテクノニカの特殊業務で練習済みだ。
炎使いのゴブリンは念のために過剰なダメージを与えたが、調整次第で最低限の攻撃もできる。
たとえば人差し指のリミッターを外して引っ掻けば、プリンをスプーンですくうように抉ることができる。
もちろん突きでも有効だ。
手持ちに刃物がない時に代用する形だった。
腕全体のリミッターを外すより威力は劣るが、指の本数分だけ連発できるのが強みである。
徹底したトレーニングにより、僕はほぼ全身のどこでもこの技を使えるようになった。
格闘術を学んだわけではないので動きにムラはあるものの、生身の肉体を凶器に昇華させていた。
至近距離なら下手な銃や刃物より攻撃しやすいほどである。
(我ながら短期間で成長しすぎだ。こんなに変わるものなのか)
羽根の生えたゴブリンを絞め殺しながら僕は考える。
テクノニカで本格的にトレーニングを積んで分かったことがあった。
ノルティアスの殺人鬼はただの人間ではない。
自分という例から客観的に分析しただけなので、すべての殺人鬼に当てはまるわけではない。
ただ、間違いなく常人とは決定的に違う存在だった。
殺しに対する適応力と成長力が抜群に優れているのだ。
筋肉のリミッターが外れたのは偶然だった。
まさかここまで使いこなせるようになるとは思っていなかった。
僕は半年前までただのビジネスマンだった。
職場で事件を起こして殺人鬼の外交官になり、現在は機械の奴隷となってゴブリンを素手で抹殺している。
もはや個人の努力では説明がつかない。
殺人鬼という種族は、この世界に順応した人間の進化系なのだ。




