第37話 殺人鬼はゴブリンを迎え撃つ
ゴブリンの集団の一部が突出して速度を上げる。
巨大な狼に乗った騎乗グループだ。
手には身の丈を超える槍や剣を持っており、そのまま一気に加速して吸血鬼の馬車に接近してくる。
馬車から炎や氷が発射された。
迎撃のための魔術攻撃だ。
しかし、騎乗グループはそれらを華麗に回避していく。
僅かな犠牲を出しながらも距離を詰めると、先頭の馬車に攻撃を仕掛けた。
馬車が派手に横転した。
そこから吸血鬼が這い出してくるも、ゴブリン達の振るう槍や剣で攻撃された。
胸を貫かれたり、首を刎ねられたりしている。
騎乗グループはそのまま減速せずに通過していった。
他の馬車から反撃される前に距離を取ったのだ。
その間に集団の本体が迫ってくる。
(単純な身体能力だと、ゴブリンの方が優れているのか)
僕は一連の攻防から推察する。
吸血鬼は人間を凌駕する膂力を誇るが、ゴブリンには敵わないらしい。
一方で再生能力を持っているので、致命傷でなければ回復が可能だろう。
ゴブリンはそういった能力を持たないようだ。
負傷した者はそのままで、死んでから蘇ることもない。
「清々しいほどの脳筋だよな。数が揃えば竜だって狩るんだぜ? あいつらの繁殖を許した過去の連中は馬鹿だ」
ロンは嘆きながらナイフを回す。
前方の馬車は次々と交戦を開始していた。
最後尾の僕達はまだ安全だが、じきにそうも言っていられなくなるのは明らかだ。
「ゴブリンに弱点はないのですか?」
「頭か心臓を潰せ。それで大人しくなる」
ロンは前方を睨みながら即答する。
臨戦態勢に入った彼は鋭い気配を発していた。
いつものような茶化した言動は少なくなっている。
少し先では、迂回しようとした馬車が爆発炎上していた。
直前にゴブリンが何かを投げ込んだのだ。
たぶん爆弾だったのだろう。
既にあちこちで殺し合いが勃発している。
すべての馬車から吸血鬼が降りてゴブリンを迎撃していた。
血みどろの攻防はゴブリンが優勢に見えたが、中央付近で吹き荒れる鮮血の嵐が彼らを解体していく。
嵐を操るのはスィーカー伯爵だった。
高笑いを響かせる彼は、虐殺に酔い痴れている。
一方、出遅れていた数人のゴブリンがまだ無事な僕達の馬車に気付いた。
彼らは矢を飛ばしながら突進してくる。
天井から顔を出す鏃を見ながら、ロンはため息を吐いた。
「接近戦は俺が担当しよう。ゴブリンは基本的に馬鹿で話が通じないから、あんたの得意技も効きづらいだろうからな」
「相性が悪そうですね」
「最悪と言っていい。間違っても言葉での混乱なんて狙うなよ」
「分かりました」
どうやらあまり役立てそうにないようだ。
こればかりは仕方ない。
銃火器による射撃に専念すべきだろう。
僕は休暇中に射撃訓練をしている。
それなりに扱えるはずだった。




