第36話 殺人鬼は戦いに備える
ロンは素早くナイフを取り出すと、膝立ちになって馬車の外に注目する。
彼の片手にはうっすらと鱗が生え始めていた。
いつでも竜人の能力を使えるように意識しているようだ。
「戦闘準備をしようぜ。トラブル発生だ」
「分かりました」
僕は手持ちの武器を確認する。
両腰のホルスターにそれぞれ自動拳銃とリボルバーが収められていた。
背中に散弾銃、手には短機関銃がある。
リュックサックには予備弾薬と手榴弾も入っていた。
いずれもノルティアスで支給された代物だ。
今回の遠征にあたって選んだのだ。
あまり銃火器には詳しくないので、扱いやすさを重視してピックアップしてもらった。
この他にも隠し装備があるが、あくまでも奥の手だ。
使わずに済むことを祈っておこうと思う。
僕は短機関銃の安全装置を外し、照準で遥か彼方のゴブリンに狙いを付ける。
目を凝らせば、徐々に姿がはっきりと見えるようになってきた。
緑色の肌をした屈強な怪物が接近している。
規模としては数十人だろうか。
彼らは動物に馬車を曳かせたり、直接騎乗することで高速移動している。
一人ひとりが凄まじい悪意と殺気を帯びて、真っ直ぐにこちらへと迫っていた。
「なぜゴブリンがここにいるのでしょうか」
「どうせ荒野の住人を攫ってたんだろ。あいつらはどんな種族でも孕ませるからな」
ロンは吐き捨てるように述べる。
荒野は無法地帯だ。
様々な事情で国を追い出された者が暮らしており、各国にとって共通資源なのだ。
ノルティアスの殺人鬼は国内の人間を殺すが、荒野の住人を狩りに行くこともあるらしい。
そういった扱いが許される土地なのだ。
ゴブリンの国も同様に利用しているのだろう。
「ヴァンパイアどもが迎撃するだろうが、こっちに来るかもしれない。気を抜いたら殺されるぜ」
「ゴブリンはそんなに強いのですか」
「ああ、かなり強い。普通にヤバい連中だからなぁ」
ロンが苦笑する。
その横顔は、珍しく汗を垂らしていた。
「本来は弱い魔物なんだが、繁栄すると手が付けられなくなる。短期間で世代交代を繰り返して進化していくんだ。孕ませた種族の特性を獲得するから、尚更に性質が悪い」
「ゴブリンの国があるということは、繁栄していると見ていいのですよね」
「もちろんだ。ここ何年かは数が増えすぎて、共食いや内乱が起こっているそうだがな。結果として個人の質が良くなって、戦い方も上手くなってやがる。本当に厄介な種族だぜ」




