空がきこえる③
放課後、僕は図書室に行った。僕が好きだったと言うライトノベルがどういうものなのか、見てみようと思ったのだ。
探すと、何冊かあった。おそらくライトノベルの中でもとてもよく売れているものだろう。そう言えば、僕の部屋にもこんな感じの小説がたくさんあったな。
座って、冒頭から読んでみる。
とても読みやすい文章だ。会話が多い。ネットスラングも多い。登場する女の子たちはみんな主人公のことが好きらしい。
二時間ぐらいで読み切ることができた。
こういうのを読んで楽しめる人もいるんだなあ、というのが、僕の率直な感想だった。
もう十八時前だ。帰ろう。
図書室をあとにし、下駄箱へ向かう。
「あ、霧彦」
後ろから声がした。振り返ると、音根さんがいた。
「なに? 今から帰るの?」
「そうだよ」
「じゃあ一緒に帰ろう」
断る理由などなかった。なにせ帰る場所が同じなのだから。
「こんな時間まで何してたの?」
「図書室で本を読んでた。音根さんは?」
「私はいろんな部活を見て回ってた。私、帰宅部だったみたいだから、この機会にどれかに入ろうかなって思って」
「それはいい。僕も明日、見て回ろうかな」
「そうしなよ」
そんなことを話しながら、靴を履き替えた。
まだ部活をしている生徒がいる運動場を眺めながら、校門へと歩いていく。音根さんと歩いていると、なんだか変な気持ちになる。なんだろう、これは。何かを思い出しそうな気もするのだが。
校門を抜けて、覚えたばかりの通学路をたどっていく。
しばらく大通りに沿って進む。
街は夕焼けている。
音根さんはよくしゃべった。この快活さに、僕も救われた。僕一人で記憶喪失になっていたら、きっともっとつらかった。
歩道橋を渡っていると、山の稜線に夕日が沈んでいくのが目に入った。
いや、あの夕日は沈んでいるのじゃなく、昇っていやしないか?
そう思った瞬間、日の出の水平線が脳裏によぎった。
今目にしている夕焼け空にかつて目にした朝焼けの空が重なる。
そうだ。
僕は浜辺にいた。日の出を見た。朝焼けの空が広がっていた。
隣には誰がいた?
僕は音根さんの方を見た。
音根さんも僕を見ていた。
僕は、俺は、すべて思い出した。
――きっと霧彦もいつか気づくよ。奇跡なんて、けっこう簡単に、いつでもありとあらゆる場所で、それこそ、日常のふとした瞬間に、ふとした場所で、起きるものなんだって。
お前の言う通りだったよ、エルー。
「音根」
「は、はい」
やっと言える。
「俺、お前が好きだ」
やっと言えた。
音根の唇が震えだした。目に涙がみるみるうちに溜まっていく。
「わ、わわわわ、わっ、わわ、わわわ」
「落ち着けよ」
音根はうなずき、深呼吸し、そして、言った。
「私も」
頬が涙にぬれているのに、どこか誇らしげな顔をしていた。
茜空の深いところから波の音が聞こえてきた。竜の鳴く声も聞こえる。それから、小さなエルフの笑い声も。
了




