それぞれの道を歩み始める僕らの中には、らしいなあ、という理由の道もあれば、え?どうして? という道もある
「あ」
「あ」
「あ」
同じ市内に住んでいるのだからこういうことは当然起こりうる。
「米田さん、久し振りだね。咲、お疲れ様」
「室田さんお久しぶりです!、お元気にしてましたか!?」
「さきちゃん、少し声を落として」
咲は相変わらずクールだ。
米田さきさんと咲が一緒に図書館で勉強しているということはあり得る話だ。けれども、このもう1人についてはどうだろうか。
「武藤も図書館で勉強?」
「い、いや・・・その・・・米田さんから質問されてた問題がいくつかあったからさ」
「武藤さん、今日じゃなくても良かったんですよ? でも、嬉しいです。こうして室田さんたちとも会えましたし。ね、咲ちゃん!」
「さきちゃん。ちょっとだけ声を控えて」
「あ、ごめんごめん。でも、声を控えるってどうやればできるのかな!?」
さきさん、相変わらずだなあ。武藤は完全にさきさんのこと気に入ってるな。まあ、武藤はこういうところが優等生ぽくなくていいところだと思うけど。
「あれ? みんな?」
「あ」
「加藤も?」
「うん。弐個工業大学の推薦入試のレポート締め切りが来週なもんだから最終チェックしてたんだ」
「おー、いよいよなんだ! どう、合格できそう?」
僕はやや興奮気味で加藤に訊く。
「うーん。ベストは尽くしてきたつもりだから、まあ後は運を天に任せるつもりだよ」
みんなそれぞれの道を歩み始めてる感じだな。なんか感慨深いな。
「米田さんはどこ受けるの?」
「そこが思案のしどころなんですよー。高校に引き続き、絶対安全な大学を選びたいですから」
「絶対安全? 確実な合格圏内の大学ってこと?」
「いいえ。絶対にいじめの発生しない大学を目指します」
「ああ、そっちの方なんだ。ということはイメージはもうあるの?」
「はい。具体的な大学はまだですけど、工学系の国立大目指します!」
「なんでまた。偏差値高い方が安全なら私立最難関とかでもいいんじゃないの?」
「いいえ。私立だとスマートなリア充でカースト下位者を虐げる人も結構いるので危険です。国立工学系ならばリア充率が極端に低くなります」
「うーん。深いねえ」
ふと、新井さんが咲に話題を振る。
「咲さんは? やっぱり東大?」
「え? ううん。わたしは・・・」
間が空く。しかも、結構な間だ。みんな我慢して待つ。
「音大、受けるつもり」
「え!」
「ほんとに!?」
「うん・・・」
確かに咲のピアノなら将来を切り開くことは十分可能だと思う。
それでも僕はやっぱり訊いてしまった。
「どうして?」