受験生たる高3の僕たちのごくありきたりな夏休みの日常がここにある
「室田くん、来週の模試の準備、もうやってる?」
「うん、一応。今後数学にどの程度力を入れるかの目安にしようと思ってるから」
「そっか。わたしもそろそろポイント決めて勉強してかないといけないなあ」
高3の夏休み。僕と新井さんはそれぞれの手弁当持参で図書館に通い詰めだ。弁当持参にする理由はできるだけ確保した学習スペースの自席を空けたくないからだ。
「室田。ここ、教えてよ」
そしてなぜか杉谷たちもコンビニ弁当持参でここに居る。
「杉谷。教えるのはいいけど、そろそろ自立して問題解く段階に入らないと」
「そうだぞ杉谷。室田同伴で試験会場に入れるわけじゃないんだから」
木田もごく常識的な指摘をする。常識的でないのは杉谷だけだ。
「分かってる、分かってるよ。ぎりぎりまで敢えてセーブしておいた方が、自立した後の力が爆発的なんだよ」
「杉谷くん。意味わかんないよ」
とうとう辛辣な言葉を決して吐かない新井さんからまで改善勧告がなされた。けれども新井さんの重い言葉にすらまだまだ反応が薄い。
「ところで、咲ちゃんも受験勉強やってんだよね」
「そうだろうね」
杉谷のいつもどおりの質問に僕は素っ気なく答える。杉谷は不満そうだ。
「室田。バンド仲間だろ? もっと咲ちゃんの情報集めて気にかけてあげなよ」
「正直、最近練習も短縮しながらやってんだよね。一応水曜・土曜は全員皆勤ではあるんだけど」
「あーあ。室田はいいよな。本当は俺が4liveに入りたいぐらいなんだけどな」
「楽器、弾ける?」
「ヴォーカルならできるよ」
「じゃあ、僕とかわるか?」
「おっと、冗談でもそんなこと言うなよ。4liveって咲ちゃんや室田たちにとっても大切だし、俺や新井さんにとっても大切なものなんだから。ねえ、新井さん?」
「うん。ほんとにそう。できれば室田くんには4live続けて欲しいな。大学行ってからもやるつもり?」
「うーん。どうだろ。多分県外の大学行くメンバーがいるだろうから正直きついかな」
「あー、確かに。武藤くんなんて東大確実だろ?」
「うん、多分ね。ひょっとしたら医学部受けるかもしれない」
「ひえー、マジかいね。あと、咲ちゃんだって東大視野に入れてるんだろ?」
「うーん。成績で言えばそうなんだろうけど、なんかやりたいことがあるって前言ってたな」
「へー。なんにせよメンバーの動向ぐらいちゃんと把握しときなよ。リーダーなんだから」
「杉谷、僕はリーダーじゃないよ。たまたまヴォーカルだから真ん中の位置取りだってだけで」
「そうかな。わたしもやっぱり4liveのフロントマンは室田くんだと思うけど」
「新井さんまでそんなこと」
「ほら、さっさと飯食ってとっとと戻んないと、机の上かたされちゃうよ」
柏の言う通りだ。




