神子の力
「…………ううん」
眩しい朝日で目を覚ますと、憩は自分の部屋に居た。
朔夜に背負ってもらい、花火大会の話をして……、そこからの記憶がない。
「……どうしよう、また朔夜に迷惑かけちゃった」
憩は泣きそうになりながらも、ブラウスと袴に着替える。
(お祖父様なら、朔夜の居場所を知ってるはず……)
今すぐ朔夜に謝りたい、黄山の居る書斎へと向かった。
コンコンコン
「おはようございます、お祖父様。憩です」
「憩か、入りなさい」
「失礼いたします」
書斎に入ると、白銀の面々が揃っていた。
憩はぺこりと頭を下げると、皆への挨拶も後回しに朔夜の元へと駆け寄る。
「おはよ、いこ。ゆっくり休めたか?」
「うん……。朔夜、ごめんなさい。私、また迷惑かけて……」
「別に謝ることねぇよ。昨日はいこのおかげで、眷属を1体捕まえられたしな」
朔夜は俯いてしまった憩の頭をポンポンと撫でる。
「おいおい、杣!! 捕まえたのは俺たちだぞ!? なぁ、寒凪」
朔夜の言葉に、漣は千歳に寄りかかりながら返す。
「……重いんですけど。それに白銀で捕まえたんだから、別にどうでもよくないですか」
「お前は名前に違わず冷たいやつだなぁ、もっと熱い男になれー!!」
漣が千歳の肩を抱くと強く揺さぶった。
「……すっごい暑苦しくてうざい」
「あのさー、お前たち。俺、先輩だって分かってる?」
「まぁまぁ、それくらいにしなよ漣。憩も来たし、昨晩のことを話そうか」
どれだけ騒いでいても、旭が声をかけると皆ぴたりと静かになる。
「立ち話も何じゃ。ほれ、かけなさい」
黄山はそう言うと皆をソファへと促し、使用人を呼んだ。
テーブルには茶菓子とお茶が用意され、コの字に配置されたソファに黄山と旭、漣と千歳、憩と朔夜がそれぞれ並んでかけていた。
「憩、昨日は初任務お疲れ様。体調は大丈夫かい?」
「はい、問題ありません」
「そうか、それならよかった。では、昨晩の話を進めよう」
旭の顔からそれまでの笑顔が消え、代わりに見定めるような目を憩へと向けた。
「先ほど朔夜も言っていたけれど、昨日の男は眷属だった。
上手く気配を消していてね、見慣れている僕たちでさえ気づけなかった。それなのに、憩には吸血鬼が見えていたね」
旭がそう言うと視線が一斉に憩へと集まる。
憩は両手をギュッと膝の上で握りしめ、俯いた。
皆が自分の言葉を待っているが、憩自身も何故かはよく分からないのだ。
口を閉ざしてしまった憩の姿を見て、朔夜が優しく肩を叩く。
「いこ、ゆっくりでいいから、俺に昨日のこと教えてくれるか?」
「……朔夜に?」
「そうだ。それなら話しやすいだろ?」
朔夜はとても優しい目をしていた。
憩はこくりと首を縦に振る。
「……あのね、最初はみんなの声が急に聞こえなくなったの。助けてって言おうとしたけど、声も出なくて」
「それは怖かったよな……。黒いもやよりも先に、音が聞こえなくなったのか?」
「うん。みんなは普通に話してたから、私だけが変なんだって思って。そしたら黒いもやが見えて、それが男の人にどんどん集まっていって……」
「男がもやに飲み込まれていった。ってことだね、憩」
「はい、お兄様のおっしゃる通りです……」
話終わっても、憩の表情は暗いままだ。
「……本当にカナリアなんだね」
「急に何言ってんだ? 寒凪」
漣の問いに千歳は呆れたようにため息を吐くと、冷ややかな視線を送った。
「……知らないんですか? 炭鉱のカナリア」
「知らね。みんなは知ってんのか?」
漣の問いに皆が頷く。
「マジかよ。知らないの俺だけかよ」
「……もう少し、本読んだ方がいいですよ。杣さんだって本くらい読むのに」
「おい、どういう意味だよそれ」
朔夜は千歳を睨む。
「つーか杣、本当に知ってんのか? 適当に頷いてね?」
「お前が知らねぇ方が驚きだよ」
「まぁまぁ。漣、炭鉱のカナリアっていうのはね、普段よく歌うカナリアが、危険を察知すると静かになってしまうことを言うんだよ」
「へぇ、さすが旭。短くて分かりやすいな。それに、昨日の憩まんまだな」
「……だからそう言ったんだけど」
漣の言葉に呆れながら、千歳は再びため息を吐いた。
漣の発言で少し話が逸れたが、気が紛れたのか憩の表情が少し明るくなっている。
「そういえば、あんときのいこの目、淡い緋色になってたけど、自分で気づかなかったか?」
「そうなの? 全然分からなかった。痛いとかもなかったし。でも、すごく疲れたの。帰りも歩けなかったでしょ?」
憩の言葉で旭、漣、千歳の目が朔夜へと向く。
「そうだったのか。そうとは知らず、憩を任せて悪かったね」
「歩けない憩をどうやって連れて帰ったんだー?」
漣がニヤニヤしながら隣に座る千歳の肩を抱く。
「……そんなの聞くまでもなく、姫抱きでしょ」
「バカ違ぇよ!! 背負っただけだ!!」
「ごめんね朔夜、いつも迷惑かけて」
「迷惑だなんて思ってねぇよ、いつでも頼れ。な?」
朔夜の言葉に、憩はこくりと頷く。
「俺にもその優しさ分けてくれよー」
「テメェに優しくなんてぜってぇしねぇよ」
「はいはい、落ち着いて。話がまた逸れてるからね」
旭が軌道を修正する。
「お祖父様は、憩のこの力のことを、最強の矛とおっしゃったんですか?」
「うむ。憩はな、黄麟に選ばれた神子じゃ。その目は穢れを映す。その力は白銀になくてはならない。
憩は白銀の歌姫じゃが、もう誰も閉じ込めたりしない。自由に羽ばたいておいで。ただし、おてんばはほどほどにな」
黄山は憩の頭を撫でると、にっこり笑った。
話が終わると、5人には新しい隊服が与えられた。
純銀製のカフスボタンはそのままに、襟や胸元、袖口には銀糸で刺繍が入っている。
他に余計な装飾がない分、漆黒の隊服に銀糸がとても映える。
「すげー!! 俺の隊服、超イケてる!! 見ろよ、この絶妙な丈!! 俺のハンドガンが映えるぜ!!」
「……僕のはロングコートだ。武器が隠しやすいし、これなら返り血を浴びなくて済む。ありがとうございます」
「装飾は皆同じじゃが、それぞれの戦闘スタイルに合わせてデザインを変えてみたんじゃ!」
喜ぶ漣と千歳を見て、ふふんと黄山は得意げに胸を張る。
旭の隊服はリーダーらしく、後ろの裾が長いテールコートだ。
朔夜の隊服にはレイピアが取り出しやすいよう、長い裾のサイドにスリットが入っていた。
「朔夜の隊服、すごくかっこいいね!」
「いこのもかっけぇじゃん。似合ってるよ」
「ありがとう! 裾が広がってて、かっこいいのにかわいいの!」
朔夜が伝えると、憩は嬉しそうにクルクルと回って見せる。
「なんだ、憩の隊服スカートじゃねぇのかよー」
漣が憩の隊服を見てがっくりと肩を落とす。
「……最低。気持ち悪い。変態」
「だってよ、せっかく女の子が居るんだぜ? スカートがいいだろ!! なぁ杣?」
「俺をテメェと一緒にすんな。足晒してねぇ方が安心だろ、バカだな」
朔夜はそう答えると、余計な知識が入らないように憩の耳を塞いだ。
本人はきょとんとしているが、それよりも隊服が気になるようだ。
「はぁ!? 戦ってる時に足がちらっとしたら萌えるだろうが!!」
「漣……? 僕が憩の兄だってこと、忘れてないよね?」
旭はにっこりと笑っているが目が笑っていない。
「忘れてねぇよ、妹バカの旭くん」
「うん? かわいい妹を守って何が悪いんだい?」
「儂は漣の気持ち、分かるぞ……。ちらりと見えるのがいいんじゃよなぁ」
「だよなぁ!? さすが相楽の爺さん!!」
「お祖父様……、憩の前でやめてくださいね」
旭が静かに拳を握りしめる。
朔夜はそんな3人を見て、憩を書斎の外へと連れ出した。
「……なぁ、外行かねぇか?」
耳を塞いでいた手を放し、朔夜は憩に声をかける。
このままここに、純粋な憩を置いておけないと思ったのだ。
「行きたい!! 会議は終わったの?」
「あぁ、もういいだろ。まともな話してねぇし」
「……僕もついて行こうかな」
その声に驚いた朔夜が振り返ると、千歳が立っていた。
「お前、いつからそこにいたんだよ……」
「……杣さんが憩を連れ出した時に一緒に」
「そうかよ。じゃ、あいつら任せたわ」
「……ひどい。僕も行くって言ってるのに」
千歳の言葉を聞いて、憩は朔夜の袖をくいくいと引っ張る。
「朔夜、今日は3人で行かない?」
憩にそう言われてしまっては、朔夜も嫌とは言えない。
「いこがいいなら……」
「じゃあ、千歳様も行きましょう!」
「……ありがとう憩。あと、千歳でいいよ」
「よくねぇよ!! テメェは本当にしつけぇな!!」
「……杣さんこそしつこい」
「じゃあいこにちょっかい出すな!!」
「……杣さんが禁じることじゃないでしょ」
2人は今にも武器を取り出しそうになりながら、睨み合っている。
「もう、私先行くからね!」
痺れを切らした憩は、スタスタと1人玄関へと向かう。
「いこ、危ねぇから1人で行くな!!」
「……待ってよ、危ないよ憩」
置いていかれた2人は、歪み合うのも忘れ、急いで少女の後を追うのだった。
活動報告に【憩ちゃんのこぼれ話】を載せてみました!
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