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白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ
第2折 カフェーという闇

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44句 飛花


 千歳は和の雰囲気漂う屋敷には似合わぬ、煌びやかな調度品に囲まれた一室に放置されていた。

 窓はあるが鉄格子が()められており、ここから外に出るのは無理だろう。

 

「……趣味の悪い部屋」

 

 エサとして運ばれてきたことも忘れ、思わず素直な感想がこぼれる。

 自分がお世話になっている相楽の屋敷も和洋折衷の作りだが、それとは天と地の差がある。

 ここにある調度品はギラギラと眩しいだけで品がない。

 

「……ここにいろ、って言われてないし」

 

 部屋の扉にカギはかかっていないようだ。

 

 カチャ

 

 音を立てて扉が開く。

 目の前にも扉があり、広い屋敷の廊下には部屋が連なっている。

 天井から下がる小さな電燈の灯りが、周囲をゆらゆらと照らしていた。

 ……他に、誰かいるかもしれない。

 

 コンコンコン

 

 正面の扉を叩いてみる。

 ――返事はない。

 

 コンコンコン

 

 右隣の扉を叩いてみる。

 ――返事はない。

 誰も、いないのだろうか。

 

 コンコンコン

 

 左隣の扉を叩いてみる。

 ――返事はない。

 やっぱり、誰もいないのか。

 

「どなたですか……?」

 

 最後に叩いた左隣の部屋から女性の声がした。

 

「……僕、寒凪(かんなぎ)といいます」

「男の人……?」

「……はい」


 少し、声が震えている。怯えていて当然だ。

 おそらく彼女も眷属(スロール)に連れてこられたのだろう。

 もし、彼女が人ではなかったとしても、眷属ぐらいなら問題なく仕留められる。

 

「私、浦風(うらかぜ) 夕梨(ゆうり)って言います」

「……浦風さん。

 単刀直入にお聞きしますが、カフェーで働いてましたか?」

「は、はい。 ゆりって名前で……」

「……ゆりさん。あなたがそうでしたか」


 よかった。無事だったようだ。

 声の主が探していた人物だったとわかり、普段冷静沈着な千歳でさえ、少し気が緩む。

 

「あの……、私を知っているんですか?」

「……僕たちが直接お会いしたことはありません。

 ご友人が、あなたのことをとても心配していました」

 

 ここで、ぼたんさんの名前を出すのは早計だ。

 今話している相手が本当にゆりさんか、確証がない。

 

「友人……!?

 ぼたんちゃんは無事なんですね!?」

「……はい。僕たちが保護しています」

「保護……?」

「……僕は軍人なので」

 

 カチャ

 

 音がして扉が開いた。

 身分を聞いて安心したのだろう。

 つまり敵ではない。

 こちらもそう判断できる。

 扉の向こうから現れたゆりさんは、淡いオレンジ色のドレスを身に纏っていた。

 

「……どこか怪我などはしていませんか?」

「はい、大丈夫です」

「……そうですか」

「あの……、その格好は……」


 千歳の着ている服を見て、ゆりは少し気まずそうに視線を泳がせる。

 

「……拐かされるために、女装しただけです」

「な、なるほど……」

「……ぼたんさんの他にもう1人、あなたのことをとても心配している人がいます」

「私なんかのことを?」

「……はい。

 お店に、(れん)という名の頭の悪そうなチャラい人が来たと思うんですが」

 

 毎日たくさんの人を接客してるだろう。

 細小波(いさらなみ)さんのことなんて覚えてないのはわかってる。

 それでも、少しでも覚えててくれたらいいな。

 何故だかそう思ったんだ。

 

「漣さん! もちろん覚えていますよ」

「……覚えてるんですか?」

「はい。私なんかにとても優しくしてくれたので。

 つまらない話をしても楽しそうに笑ってくれて、お茶をこぼしても笑って許してくれたんです……。

 とても、素敵な方だったので覚えています!」

「……そうですか」

 

 そう話すゆりさんの頬は淡く染まっていた。

 なんだ、細小波さんだけじゃないのか。

 ……よかったね。

 素直にそう思えた。

 

「……とりあえず、逃げましょう。

 ここには、ゆりさんしかいないんですか?」

「たぶん、そうだと思います……。

 ここに連れてこられて、初めて人が来たので」

「……わかりました。僕から離れないでください」

 

 千歳はゆりとともに、屋敷の玄関を目指し歩き出した。


 


「突入しますか?」

「漣たちが来ないけれど、仕方がない。行こうか」

 

 屋敷の門の前で、旭と朔夜は2人の到着を待っていた。

 しかし、これ以上は先に潜入している千歳が危険だ。

 もう、2人が来るのを待っている余裕はない。

 

「あ、旭ー!! 悪い、待たせた!!」

 

 大声で叫びながら、茶色い髪を振り乱した漣がこちらへと駆けてくる。

 ……うん? 漣が抱えているのは、まさか憩!?

 思わず、漣の元へと駆け寄る。

 

「漣!! 憩に何があったんだい!?」

「カフェーで力を使った後、前みてえに歩けなくなってよ。

 その後は少し落ち着いてたんだけど、急に頭が痛いって(うめ)き始めて……」

 

 漣から憩を預かると、旭は上半身を抱えたまま、憩を地面へと寝かせた。

 隊服越しでもわかるほどに、身体がとてつもなく熱い。

 それに、すごい汗だ。

 はぁ……はぁ……、と呼吸も苦しそうにしている。

 

「憩、憩、聞こえる?」

「お兄様、申し訳ありません……」

「何に謝っているんだ……。

 僕の方こそ、無理をさせてしまってすまない」

「私は大丈夫です……。千歳さんは……?」

 

 こんなときでも千歳なのか。

 この子は本当に……。

 

「いこ、大丈夫か!? 水飲めるか!?」

「いらない……。朔夜、千歳さんは……?」

「寒凪はまだ中だ。とりあえず水飲め!!」

「いらない……」

「少しでいいから、ほら……!!」

 

 朔夜は無理矢理口をこじ開けると、水を飲ませる。

 この汗の量じゃ、脱水症状を起こしていてもおかしくない。

 

「悪い……、こんなことになっちまって……」

「漣は何も悪くないさ。連れてきてくれたんだろう?

 ありがとう、助かった。漣がいてくれてよかったよ」

 

 きっと彼のことだ、任務か憩か悩ませてしまっただろう。

 そして、彼が選んでくれたのは、憩を尊重すること。

 本当に、漣がいてくれてよかった。

 

「早く、千歳さんのところに行かないと……」

「そんな状態じゃ無理だ。連れていけない」

「お願い、お願い朔夜……」

「俺が絶対、寒凪を連れて帰るから」

「嫌だ……!! 私も連れていって……!!」


 ギュッと、いこに腕を掴まれる。

 2度目だ。これを言われるのは。

 1度目は俺の遠征が決まったとき。

 もちろん、遠征になんて連れていけるはずもない。

 でも今回は……、連れていこうと思えばいける……。

 

「憩、朔夜は心配しているんだよ。

 それでも行くと言うのなら、自分の足で歩くんだ」

「おい旭!!

 この状態の妹に言うことじゃねえだろ!!」

「僕には、みんなの命を預かる責任がある。

 こうしている間に、千歳に何かあったらどうするんだい?」

「それは……、そうかもしれねえけどさ……」

「憩、どうする? もう時間はないよ」

 

 きつく言ったところで、答えはわかっている。

 それでも、自分で選ばせなければいけない。

 誰かの隣に立つということは、簡単なことじゃない。

 

「い、行けます!!」


 憩は旭の腕から抜け出すと、地面に膝をつき立ち上がる。

 ふらふらと今にも倒れそうだが、なんとか自力で立っている。

 やはり、憩は行くことを選ぶんだね。

 

「わかった。じゃあ全員で突入する」

「旭!!

 こんな状態のいこ、本気で連れていくんですか!?」

「連れていく? 違うだろう、朔夜。

 憩は自分の足で一緒に来るんだ。連れていくわけじゃない」

「わかりました……」

「憩、本当に無理すんなよ?」

「はい、ありがとうございます……」

「よし、それじゃあ突入開始だよ」

 

 千歳と合流するため、4人も屋敷の中へと踏み込んだ。


 


「なあ、勝手に入っちまったけどいいのか?」

吸血鬼(ヴァンパイア)相手にお伺い立てんのかよ」

「憩、足元に気をつけるんだよ」

「はい、ありがとうございます……」


 あまりいいセンスだとは思えないが、屋敷の中は綺麗に整えられており、掃除も行き届いている。

 おかしな点といえば、人の気配を全く感じないことぐらいだ。

 この様子だと、屋敷の元々の所有者である地主は、既にエサになっているだろう。

 人に擬態して、ここで生活を続けているのだろうか。

 

「2人とも、気を抜かないでね」

「おう! 任せとけ!」

「いこ、旭の側から離れんなよ」

「うん……」

「それにしても広い屋敷だなー」

「地主だからな」

「え!? 吸血鬼が地主なのか!?」

「違ぇよ、バカなのか?

 吸血鬼が地主に成り代わったんだよ」

「へぇー、難しい話はよくわかんねえけど、とりあえず今は吸血鬼の屋敷なんだな!」

「まぁ、簡単に言うとそうだね」


 おかしい。

 眷属さえ現れないなんて。

 僕たちが入ってきたことには、とっくに気づいているはず。

 それなのに仕向けてこない。

 やり過ごすつもりなのか……?

 

「なあ、寒凪いなくね?

 もう屋敷見終わっちまうぞ?」


 漣の言う通りだ。

 もうこれ以上見る場所はない。

 千歳はこの屋敷に入っていったはずなのに。

 

「朔夜、確実に入っていったよね?」

「はい。

 寒凪は眷属に抱えられて、ここに入っていきました」

「じゃあなんでいねえんだ?」

「知らねぇよ。でも入っていったんだよ」

 

 見間違ったわけではない。

 ならどうして……?

 それに、外からの見た目に反して屋敷が狭いようにも感じる。


「うわっ!! 蜘蛛の巣引っかかった!!

 こんなに綺麗にしてんなら、ここも掃除しとけよな!!」

「うるせぇな!! 静かに歩けよ!!」

「仕方ねえだろ!? 顔にかかったんだからよ!」

「うぅっ……」

「憩、大丈夫かい?」

「あ、頭が……、頭が痛い!!」

 

 頭を抱えながらしゃがみ込む憩に触れる。

 熱い。さっきよりもさらに体温が高くなっている。

 力が暴走している? この症状はなんなんだ。

 お祖父様も、こんな副作用があることは言っていなかった。

 瞳もずっと緋色のままで、金色には戻っていない。

 むしろ、どんどん色が濃くなっているようにも見える。

 

「いこ、どうした!! 大丈夫か!?」

「朔夜……! あ、あそこに眷属がいる!!」


 頭を抱えながら、憩はその方向に指をさす。

 しかしその方向には、漆喰で塗られた白壁があるのみだ。

 人の気配など微塵も感じないどころか、誰かいようものならとっくに気がついている。

 

「いこ、落ち着け! ただの壁だ!」

「違う……!! いるの!!」

「憩、一旦落ち着こうか」

「お兄様!! あそこにいるんです!!」

「大丈夫だよ、憩。何もいないよ」

「なあ、旭。ちょっと試してみてもいいか?」

 

 ジタバタと腕や脚を振り乱し、暴れている憩を取り押さえるので精一杯だ。

 熱で幻覚でも見ているのだろう。力も相当強い。

 漣が何をしようとしているのかわからないが、話を聞きながら憩を制止できるほど、僕には力もない。

 

「ごめん、任せるよ」

「おう! 任されたぜ!」

 

 漣は腰からハンドガンを取り出すと、壁に向かって構える。

 

「おい、細小波! 何するつもりだよ!!」

「何って……、撃つんだよ」

 

 パーン!!

 

 乾いた銃声が、屋敷に響き渡った。



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