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白銀が護りし緋の神子  作者: おやまみかげ
第2折 カフェーという闇

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41句 春花


「お兄様!!

 この作戦はやっぱりよくないと思います!!」

 

 一旦屋敷へと戻ってきた6人は、書斎に集まっていた。

 

「それなら、他の案を出してくれるかい?」

「何度も言っています!! 私がやります!!」

「いこ、それだけは絶対ダメだ」

「どうして!? おかしいでしょ!?」

「憩、少し落ち着こうぜ?」

「落ち着けません!! 間違っています!!」

「……僕も、いい作戦だと思うよ」

「絶対に嫌!! 千歳さんを()にするなんて!!」

 

 旭さんの考えた作戦は、僕が女装して女の子のフリをすることだった。

 あの2人に僕の情報を持たせて、使いに買わせる。

 意図的に拐かされ、(あるじ)の元へと辿り着くというものだ。

 さすが旭さん、とても効率的な作戦だ。

 だけどそれを聞いてから、憩は不安定になってしまった。

 

「……落ち着いて。僕は大丈夫だから」

「私が大丈夫じゃないぃ……」

「……憩、泣かないで」

「嫌だぁ……」

「憩さん……」


 泣いている憩を、ぼたんさんが慰めている。

 僕はどうしてあげたらいいんだろう。

 泣いてほしくない。笑っていてほしい。

 僕は本当に大丈夫なのに、憩の方がつらそうだ。

 

「旭、どうすんだよこれ」

「憩、千歳を信じられないのかい?」

「ぐすっ……、そういうわけでは、ないです……」

「そうだろう?

 泣いていては、千歳も集中できないよ?」

「そうなの……?」

「……うん。心配してくれてありがとう。

 でも大丈夫。僕、北門だから。憩も知ってるでしょ?」

「知ってる……」

「……それに、ゆりさん助けたいでしょ?」

「うん……」

「……じゃあ、一緒に頑張ろう?」

 

 そう。僕たちは1人で戦うわけじゃない。

 側にいなくても、一緒にいるんだ。

 

「千歳さんと、一緒に頑張る……」

「……うん、ありがとう。

 大丈夫、隣君如春陽((となり)(きみ)春陽(しゅんよう)(ごと)し)でしょ?」

「うん、隣君如春陽だもんね……」

 

 憩はゴシゴシと目を擦る。

 隣君如春陽。春の陽射しは離れていても側にいる。

 大丈夫。この一瞬、ほんの少しの間離れるだけだ。

 

「あいつら、何語話してんだ?」

「何語、というより漢句かな」

「そういやあいつら、同じ漢詩集の同じ句を贈り合ったとか言ってたなー」

「なんだよそれ……」

「あ、やべえ……」

「おい細小波(いさらなみ)、説明しろよ!!」

 

 漣はガシガシと頭をかく。

 あいつらに言うなって言ってたのに、俺が言っちまった……。

 

「本を3冊ずつ、贈り合ったんだとさ。

 んで、その内の1冊が同じ漢詩集で、同じ句を選んだって言ってたぞ……」

「へぇ、すごい偶然だねそれは」

「いや、旭……。そこ?」

「うん? だってそうだろう?」

「いや、そうなんだけどさ……」

「あいつら、そんなことまでやってたのかよ……」

 

 朔夜はギュッと、手のひらを握りしめた。



 

「はい、完成!

 千歳くん、お肌綺麗ね。惚れ惚れしちゃうわぁ」

「お姉様、近いです! 離れてください!」

「あらあら、ごめんなさい。

 でも見てよ憩ちゃん。千歳くん綺麗でしょう?」

「千歳さんは元々お綺麗です!」

「もう! 仲良しさんなんだから!」

 

 あの後、(なごみ)さんに服を借り、化粧をしてもらった。

 憩も、幾分か落ち着いたようで一安心だ。

 

「……すみません、お手数おかけして」

「いいのよ、私は楽しいから。いつでも大歓迎!」

「……ありがとうございます」

 

 いつもはとりあえず結っている髪も、和さんの手によって、かわいく編み込まれている。

 

「憩ちゃんの髪も、結ってあげましょうか?」

「本当ですか!?」

「えぇ、もちろんよ!

 千歳くんとお揃いにしましょうか」

「はい! お願いします!」

 

 本当に仲のいい姉妹だ。

 憩ももう少し大人になったら、和さんのようになるのかな。

 今はすごくかわいい女の子だけど、歳を重ねたら美しさも増していくはずだ。

 ……そのとき、僕が隣にいられたらいいな。

 

「はい、完成よ。

 憩ちゃんはやっぱりかわいいわぁ!

 ねぇ、千歳くんもそう思わない?」

「お、お姉様! そんなこと聞かなくても……」

「……すごくかわいい。いつも、かわいいけど」

 

 本当にいつもかわいい。すごくかわいい。

 憩が泣いているのを見たとき、もう誤魔化したくないと、そう思った。

 これが、誰かを好きになる気持ちなんだって。

 (そま)さんがいたって関係ない。

 選ぶのは憩だ。

 僕は選んでもらえるよう、思ってることを伝えるだけだ。

 

「ありがとう、千歳さん……」

 

 恥ずかしそうに頬を染めて笑うその子の気持ちも、同じなんじゃないかって思ってもいいだろうか。

 

「憩ちゃんが千歳くんを選ぶなら、私が朔夜くんを選んでもいいわよね……」

 

 そんな、少し浮ついた気持ちでいたから、和さんの言葉を、僕は聞き逃してしまっていた。


 


「はい、お待たせしました!

 千歳くんの大変身をご覧ください!」

 

 和が書斎の扉を開けて、千歳を中へ入れる。

 どう見ても、麗しの乙女にしか見えない青年がそこにはいた。

 

「おいおい、マジかよ!! お前、本当に寒凪(かんなぎ)か!?」

「……そうだけど、何」

「あ、声が寒凪だ」

「……当たり前でしょ、何言ってるの」

「中身も寒凪だ」

「千歳、似合っている。と言ってもいいのかな?」

「……はい、大丈夫です」

「うん。じゃあとても似合っているよ」

「……ありがとうございます。複雑ですけど」

「それなら、問題なく拐かされそうだな」

「ちょっと朔夜、そんな言い方しなくてもいいでしょ?」

「拐かされなきゃ意味ねぇんだから、褒めてんだよ」

「普通に綺麗だねって言えばいいのに!」

「はいはい、綺麗だねー。これでいいのか?」

「そうだけどそうじゃない!」

「はいはい、騒がない。

 それじゃあ、最終確認をするよ」

 

 千歳にはとても悪いと思っている。

 だが、他に適任がいない。

 憩は自分がやると言っていたが、相手が吸血鬼(ヴァンパイア)だった場合、打つ手がない。

 それに憩には、歌姫(カナリア)という重要な役目がある。

 

「いいかい? 今日で決着をつける。

 みんなで絶対に主の元へ辿り着くんだ」

 

 その言葉に、皆はこくりと頷いた。


 


「夜は混んでるね!」

「……そうだね、昼とは大違いだ」

「その格好で男の声だと、変な感じだなー」

「……仕方ないでしょ」

 

 漣・千歳・憩の3人はカフェーへと来ていた。

 急に店を閉めては怪しまれるため、店主が目を覚ました後、協力を頼んだのだ。

 

「なあ、腹減らねー?」

「私も何か食べたいです!」

「だよなー! 注文しようぜ!」

 

 よかった。いつもの憩と変わらない。

 旭さんが細小波さんをこっちに寄越したのも、杣さんだとこういう空気にはならないからだろう。

 やっぱり、旭さんはすごい。

 

「千歳さんはどうする?」

「……僕はオムライスにしようかな」

「ここのオムライス、美味しいもんね!」

「……うん。憩はどうするの?」

「ビーフシチューか、グラタンか……」

「じゃあ俺グラタン頼むから、みんなで分けて食おうぜ!」

「いいですね!

 じゃあサンドウィッチも頼みませんか?」

「いいなー! そうしようぜ!!」

 

 この2人、よく似てる。盛り上がり方とか。

 細小波さんはうるさいけど、悪い人じゃない。

 ただ、ノリが軽くてしつこくてうざいけど。

 

「まさか、寒凪を女装させるとは思わなかったなー」

「……でも、効率的だと思う」

「まあ、そうだけどさー」

「私がやるって言ったのに、お兄様が許してくれないから……」

「……憩はダメだよ。危ないんだから」

「寒凪の言う通りだ。さすがに俺でも許さねえな」

「……それに、憩には憩にしかできない役目があるでしょ?」

「そうだけど……」

「憩にしかできない仕事があるように、寒凪にしかできない仕事もあるんだよ。

 んで、俺にしかできない仕事はなんだ?」

「……憩を護ることでしょ。

 僕はどうしたって、側にいられないんだから」

 

 別に、女装するのは嫌ではない。任務だ。

 それに、他に適任者がいないのもわかってる。

 ただ、憩の側にいられないのが、少し不満なくらいで……。

 

「大丈夫だよ! 俺が絶対、憩のこと護っから!」

「……言ったからね。

 無理させたり、怪我させたら許さないから」

「わかってるって」

「……本当にわかってるの?」

「大丈夫だよ、千歳さん。一緒に頑張ろうね!」

「……絶対、無理しないでね」

「わかった。千歳さんもね?」

「……うん。約束だからね」

「うん、約束する」

 

 2人は小指と小指を絡み合わせる。

 そんな様子を、漣はただ静かに眺めていた。


 


※物語に出てくる漢句は、作者の創作です。




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