9日目
僕はとっさにぼろぼろの黒いクッションで身を守り、何とか命の危機は脱した。
しかし、ツギハギ男の暴走は止まらない。クッションをナイフで何回も何回も刺している。
このぼろぼろのクッションが破れるのも、時間の問題だった。
「何か、他に……身を守れる、もの……」
僕はからっぽの頭で必死で考える。
裁縫道具は? あんな小さな針じゃあ、あいつに反撃できない。
カッターナイフで切りつける? でも、ツギハギ男がもっとツギハギで、ぐちゃぐちゃになるのは嫌だ。
もっと考えろ。考えて、あいつに勝てる方法を……。
「ふふっ、あははっ! そうですよ、アルくん……。もっと私に、あなたの苦痛の顔をぉ!?」
決死の判断で、僕はツギハギ男にぼろぼろの毛布を被せる。そして、やつの顔に思いっきりクッションを投げてやった。
するとツギハギ男の足元には血が数滴落ち、やつはさらに興奮した。
「あぁ……あぁ! アルくん! そんなことをしても無駄ですよ。この私……テナー・アレグレットの中ではご褒美なんですから!」
「気持ち、悪い……」
僕は吐き気がしたが何とかこらえ、リビングのドアを開けようと手を伸ばす。
しかし、いくらドアノブを回してもドアはいっこうに開かなかった。
「くそ……。あいつがやった、のか……?」
モタモタしている時間はない。早く、ここから出ないと……!
「時間が、ない……!」
「ふふ、アルくん。何してるんですかぁ?」
後ろを向くと、毛布を脱いだツギハギ男が包丁を持って歩いてくる。
「もう、どうにでも……なれ……!」
僕は手早くテーブルのもとへ行き、ピザ用のタバスコ液が入ったビンを手に持つ。
そして、ツギハギ男の顔をビンで殴った。
ガラスが割れ、当然ツギハギ男の目にはタバスコが入る。
「うっ……ぐっ、あぁぁぁああ!」
「このクソガキが……! アルくん……。この事は、必ず償ってもらいますからね!」
僕はタバスコで少し赤くなった日記と手に持ち、リュックを背負う。
そして、リビングの奥の部屋の窓から脱出し、廊下に転げ落ちた。
ひとまず、僕を殺しにくるやつはいない。
僕は必死に走って、安心できる場所を探した。
僕の日記は、スパイシーな赤で少しだけ染まった。