10日目
あの狂ったツギハギ男から何とか逃げ出して、今僕は長い廊下を走っている。
ドアを見つけても鍵がかかっていたり、部屋の中に閉じ込められそうになったりで散々だった。
今頃あのストーカー女は、監視カメラ越しに僕の様子を見てげらげら笑っているだろう。
「ムカつく……」
ストーカー女のことを考えると、腹が立って仕方ない。こうなったら、一思いに口をチャックしてやる。
あと、後ろからの視線がひしひしと伝わっていて、僕はうっすらと冷や汗をかいていた。
こういう時は振り返らないのが一番だ。恐怖と緊張が入り交じって、涙が出そうになる。
けれど、怖いもの見たさと言うのだろうか。逆に、後ろが気になって仕方がない気持ちもあった。
思考がこんがらがって、頭の整理が上手くいかない。頭のなかで、ノイズと鈴の音が打ち付けるように鳴り響く。
僕は思わずしゃがみこんだ。色んな声が、音が僕を支配する。
その時だった。
「……アルトにぃさま?」
後ろから、女の子の声が聞こえた。
「アルトにぃさま、大丈夫?」
女の子が駆け寄った時には、僕は意識はもうろうとしていた。
貧血、目眩、過呼吸……。同時に三つの症状が僕を襲っている。
どうして僕は、こんな目に合わないといけないんだろう。
どうして僕は、生きなきゃいけないんだろう。暗い部屋で死んだ方がマシなのに。
あぁ……。もし、神様がいるならば……。せめて、からっぽな僕に、綿でもつめて僕をいっぱいにしてくれたら……。
そんな僕の心を見透かすかのように、黒いセミロングで赤い目の女の子は、自分の鞄から裁縫セットを取り出した。
「そうね、にぃさま。わたしはアルトにぃさまのこと、ちゃんと分かってる」
女の子は糸を通した針を持って、僕の閉じそうな瞳を見つめる。
「だから……。わたしがアルトにぃさまを、直してもいいわよね?」
新しい真っ白なページが、飛び散った僕の血肉で赤くなった。




