54日目
前から住んでいた家が気になった現在の僕は、空中浮遊して元の家に戻ってきた。
「おじゃま、します……」
当然僕の声は聞こえないけど、反射的に声が出た。ドアを開けて、家の中に入る。
けど、他の人にとっては何も変化がない。タイムリープした僕は過去に直接干渉することができないからだ。
父さんや母さんは怪奇現象を見ることなく、いつも通りに過ごしていた。
父さんは相変わらずパソコンを操作している。母さんは有給休暇を取っていて、のんびりとくつろいでいた。
「父さん、母さん……」
僕がいなくても何も気にしていないことに、僕は少し悲しかった。やっぱり、僕は父さんと母さんに愛されてなかったんだ。
そんな気持ちを振り切るように、僕はテナーの部屋とアリアの部屋を見に行った。
いつもなら楽しそうな声が聞こえるが、今日は静かすぎるほどだ。
僕は心配してドアを開けるとそこには誰も、何もなかった。『からっぽ』な部屋が目の前に広がる。
父さんと母さんが言っていたことは本当なんだ。
「……そっか」
僕は、とぼとぼとライムの部屋に向かった。ライムも、僕のことなんか忘れて勉強してるんだ。
「きっと、そう……だ」
僕はライムの部屋のドアを開けると、さっきまでの暗い感情は真っ先に消え去った。
「ライ、ム……?」
幼いライムは床に魔法陣の上に座っていて、カッターで自分の腕を切りつける。
魔法陣にライムの血がこぼれ落ちると、魔法陣は強い光を放った。
「……っ!?」
どういうことかさっぱり分からなかった。でも、嫌な予感がする。それだけは確信していた。
「…………」
ライムは何かを呟くと魔法陣は消え、床にはライムの血だけが残った。ライムはそれを丁寧にタオルで拭き取り、腕の傷跡も軽く包帯を巻いて対処した。
僕がほっとしたのもつかの間。幼いライムは腕まくりした袖を元に戻し、両親がいる部屋へ足早に向かう。
「待って、よ……!」
僕が声をあげてもライムには届かない。でも、彼を追うしかなかった。
ライムが両親がいるリビングへ入ると、父さんと母さんは嬉しそうな声をしてライムを歓迎する。
「あら、ライム。もうすぐおやつだからお菓子食べる? あなたの好きなもの、何でもそろってるわよ」
「そうだ、ライム。父さんも、ライムが好きそうなおもちゃを買ってきたんだ。どれでも好きなものを選びなさい」
二人ともライムだけに笑顔を向ける。こんな優しそうな笑顔を、僕は見たことがなかった。
僕は今まで、母さんたちが無理矢理作っていた笑顔しか見たことがない。それだけは、羨ましかった。
「父さん、母さん。ありがとう。でも、僕はそんなものいらないんだ」
ライムは父さんと母さんに笑顔を見せる。僕がいなかったら、こんなに幸せな家庭になるんだ。
僕がしょぼくれながら思った瞬間だった。
「僕がほしいのは、にいさんだけさ」
ライムが指を鳴らすと父さんと母さんの体が破裂し、部屋中に血肉が無残に飛び散った。
「……あはっ」
幼いライムは父さんと母さんだった物を、歪んだ笑顔で見つめていた。




