21日目
僕は日記を書き終わり、まぶたをこする。
リビングの壁にかけられている時計を見ると、夜中の二時を指していた。
「もう、こんな……時間……」
「あれ、テナー……?」
僕はぼんやりとした視界で周りを見る。すると、テナーの掃除は終わっているらしく、床はぴかぴかになっていた。
それでも、テナーは見つからない。
「テナー……。どこ……?」
僕は幼い子供のようにテナーの名前を呼び続ける。それでも、彼の姿は見えない。
過去のほの暗い感情が押し寄せてくる。一人、ひとりぼっちなのは嫌だ。
涙があふれてくる。泣いてはいけないのに、心がコントロールできない。
「っ……うっ……テナー……」
僕が泣きじゃくっていると、奥の部屋からようやくテナーが現れた。
「……! アルくん、どうかしましたか!? どこか痛いのですか?」
テナーはソファ越しに僕の方へ駆け寄って来る。
「テナーが、いなくて……寂しかった……」
「寂しい……」
テナーは何かをためらったが、僕の頭を優しくなでてくれた。
「大丈夫ですよ、アルくん。私がいます」
「でも……」
「先ほどは申し訳ありませんでした。少し、上の方から連絡が……」
僕が首をかしげていると、テナーは『何でもないです』と笑顔で答える。
「……知らなくていいことも、あるんですよ」
テナーは切なそうに呟くと、パンと手を叩いた。
「とにかく、今日はもう寝ましょう。いい子は寝る時間ですよ」
「明日はアルくんと私で、これまでのことをお話しましょう。色々なことがあって混乱してると思いますが、早く寝ましょうね」
「分かっ、た……。おやすみ、なさい……」
僕は黒いソファに寝そべると、テナーはやわらかく毛布を被せてくれた。
「……おやすみなさいませ、アルくん。いい夢を」




